第8話、グッズ販売会

学園の応接室では理事長である神崎聖羅と、テレビ局のプロデューサーが話し合いをしていた。

「盛り上がる企画……ですか。」

「視聴者を飽きさせないために、一山欲しいんですよ。何か生徒の皆さんで催し物をやっていただけませんか?」

学園のドキュメンタリー番組は放送が始まって十年以上経つ。現在でも高視聴率を記録しているが、内容がマンネリ化しているのも事実だった。

「……分かりました、検討してみます。」

「面白くて斬新なやつ、期待してますよ。」

応接室の扉が閉まると、聖羅はため息をついた。

学園の番組が放送されるようになって知名度は一気に上がったが、局側の都合で振り回されることも多くなったからだ。

「……言われたからには、何か考える必要がありますね。」

聖羅は教員を集めて会議を開くのだった。


初ライブが終わり一週間が経過した。美波たちは今日も歌やダンスのトレーニングに励んでいる。

レッスン後にミーティングの時間が設けられていたいたため、シャワーで汗を流すと全員教室に集合した。

「よし揃ったな。来月、学園主催の新しいイベントが開催される事になった。」

茂は美波たちに資料を配る。

「グッズの販売会だ。生徒自身が売り子になって自分のグッズを販売する。明日からは商品に使用するための写真撮影、ボイスの収録を行うから、各自資料を確認しておけよ。」

寮に戻った美波は、香織と二人で資料に目を通した。イベントの期間は一ヶ月で土曜日と日曜日に開催される。最終日にはグッズの売り上げをランキング形式で発表するとのことだった。

「ついに私のグッズが販売されるのか。」

美波は感慨深そうに資料を見ていたが、香織は不安そうな表情をしている。

「私は嫌だな、売れた順番をランキングで発表されるんだよ?」

二人はあれやこれやと話しているが、学園側が決定したことなので従うしかなかった。

──翌日、美波は写真を撮影するため学園内のスタジオに入った。

「今日はよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそよろしくね。」

カメラマンに簡単な挨拶を済ませると、指示に従いポーズをとっていく。

「もうちょっと腕上にあげて……そう!良いね、センスあるよ!」

「本当ですか、ありがとうございます!」

カメラマンは乗せるのがうまく、美波は意気揚々と写真を撮られていた。

後日、試作で作られたグッズが業者から美波の元に送られてきたのだが。

「うっ……。」

撮られていたときは気分が良かったが、完成した商品を見て、美波はむず痒い気持ちになる。

今回販売される商品は写真集にキーホルダー、他にもボイス入りの目ざまし時計など、全八商品だった。

「こんな目覚まし時計、買う人いるのかな?」

美波は録音されている音声を再生してみた。

「おっはよー!今日も一日頑張ろうね!」

「……これを皆が買うのか。」

目ざまし時計から流れる自分の声を聞き、複雑な気持ちになるのだった。


そして販売会当日。

会場には大勢のスタッフに加えて、美波を含めた生徒全員が参加していた。

そしてこのイベントには、先日行われた美波たちのライブとは比べ物にならないくらいの人が押し寄せていた。

「何これ、どこまで列続いてるんだろ?」

このイベントは美波たち一年生だけでなく、二年生、三年生も参加している。

学園の三年生にもなると、ソロデビューに加えてドラマや映画に出演している生徒もおり、このイベントでしか手に入らないグッズを求めてファンが大勢並んでいた。

「神崎さん、ありがとうございます。これなら良い映像が撮れそうです。」

「えぇ、最終日にはグッズの売上を発表するので、これで番組の山場も作れるかと。」

会場の最上階では、理事長と番組ディレクターが満足げに行列を眺めていた。

「それでは、まもなく開始します!皆さん前の人を押さないようにしてください。」

スタッフが扉を開けると、会場内に一気に人がなだれ込んだ。人気のある生徒のコーナーには次々と行列ができていく。

一年生のブースにも上級生ほどではないが、大勢の客が来ており、特に華代のグッズが人気で次々と売れていった。

そんな中、一人苦戦を強いられている生徒がいた。

「……私だけお客さん少ないな。」

美波だ。一人も来ていない訳ではなかったが、明らかに美波のコーナーは客足が悪かった。

そして、あれだけ大勢の人がいて自分のグッズが売れないというのは、かなり辛いものがあった。

「……。」

涙が出そうになるのを堪えて、美波は販売会初日を終えた。

その帰り道、美波は香織と華夜の三人で寮に向かっていた。

「やっぱり先輩たちは凄いね、一日で千個近く売れた人も居るらしいよ。」

「私たちも負けてられないね。」

香織と華夜が話していると、美波はあることに気づく。

「ん……千個?そんなに売れたら明日から売るものが無くなるんじゃないの?」

「人気がある生徒のグッズは沢山作られてるから大丈夫じゃないかな?」

美波は嫌な予感がしたため、二人に思いきって聞いてみることにした。

「ねぇ……華夜と香織はグッズ何個作ってもらったの?」

「私は800個かな。」

「華夜凄いね、私なんて500個しか作ってもらえなかったよ。」

「……。」

美波のグッズは300個しか生産されていなかった。最初から美波の商品は売れないだろうと学園側から判断されていたのだ。

部屋に戻ると、悲しい感情よりも悔しい感情が湧き上がってくる。

「何か手を打たないと。」

負けず嫌いな美波はすぐに行動を起こすのだった。

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