第2話、オーディション
今日は運命の日、美波と香織はオーディションを受けるため東京に来ていた。
美波は父親の仕事を継ぐつもりだったため、アルドルになる気持ちは薄かったが、それでも来たからには精一杯やろう。そう考えていた。
バスに乗り、会場につくとあまりの人の多さに驚きを隠せなかった。
百人……いや千人は越えているだろうか?
しかも集まっている子は全員、揃いも揃ってカワイイ子ばかりだった。
服装に関してもそうだ、美波は自分なりにオシャレをしてきたつもりだったが、この中だと明らかに浮いていた。
そして気になることがもう一つあった。
「え……まさかテレビ?」
リポーターのような人や、大きなカメラを担いでいる人があちらこちらにいた。
「そうだよ、アイドル学園のオーディションは毎年テレビで放送されてるの。というか美波、観たことないの?」
私の家族はあまりテレビを観ない、たまに見るとしても釣り番組を観るくらいだった。
──もしかして私はとんでもない所に来てしまったのではないか?
事の大きさを実感し美波はガクリと肩を落とした。
「落ち込んでいても仕方ないか。」
二人は受付へ向かい、手続きを済ませる。
「潮岸美波さんと春風香織さんですね?合格証書を見せてもらえますか?」
美波たちはこのオーディションを受ける前に自分のプロフィールを学校に送っていた。二人とも一次審査は合格だった。
「はい、ありがとうございます。お二人とも頑張ってくださいね!」
会場に入ると、そこはまるで別世界だった。
大きなステージに数え切れないくらいのライト、大勢の大人がオーディション参加者のために汗水を流しながら作業をしていた。
「これが……アイドルのオーディション。」
用意されていたパイプ椅子に座り、二人はオーディションが始まるのを待っていた。
しばらくすると会場内に放送が流れる。
「皆さん、一次審査合格おめでとうございます。これから二次審査の面接を行いますので、番号を呼ばれた人は面接の会場まで移動してください。」
美波の番号は304番、香織は406番だった。
「86番、251番、304番、325番の方、A会場に移動お願いします。」
「126番、150番、291番、325番の方、C会場に移動お願いします。」
人数が多いため、面接会場は複数用意されているようだ。
「美波、三次試験でまた会おうね!」
「う……うん、頑張るよ!」
普段はどちらかというと、美波が香織を引っ張っていたのだが、今日は香織の方が活き活きとしていた。
係の人に誘導され、美波はA会場に入った。
会場に入ると面接官が三人座っており、こちらをじっと見つめてくる。
美波と同じグループの四人が揃うと面接が始まった。
「では右の方から自分の名前と番号をどうぞ。」
「山本広美、86番です。」
「田中未央、251番です。」
「潮岸美波、304番です。」
「黒咲華夜、325番です。」
「分かりました、それでは歌唱力のテストに入ります。山本さんからどうぞ。」
美波はあまり歌うのが得意でなかった。いきなり歌か……と心のなかでため息をついた。
「え……あの、ここで歌うんですか?」
「ここ以外にどこで歌うんですか?」
「……あの。」
どうしたのだろうか?名指しで指名されたのに一向に席から立とうとしない。
「もう結構です、では田中さん歌ってください。」
「は……はい!」
二番目に指名された彼女は立って歌ったのだが、緊張で声が震えており歌詞も聴き取れないほどだった。
「もう結構です、座ってください。」
「え……あ……。」
ここで美波はあることに気づく、皆こんなものなのか?
オシャレな髪型や服を着ているから圧倒されていたが、中身は私と同じ普通の人間なのだ。
「潮岸さん、歌ってください。」
「はい!」
美波は香織と練習した歌を面接官の前で披露した。
決して上手い出来ではなかったが、途中で止められる事はなかった。
「ありがとうございます、では次に黒咲さん歌ってください。」
「はい。」
最後に指名された華夜はスッと席から立つと、凛々しい声で洋楽を歌い上げた。
「ありがとうございました。では最後に曲を流しますので各自好きなように踊ってください。」
座っていた椅子は回収され、スピーカーから曲が流れてくる。
面接官から見て右側にいた山本広美は何をしていいのか分からず固まっており、田中未央に至っては座り込んで泣いていた。
一方の美波は曲に合わせて、何となくでリズムを刻んでいる。かじった程度だが香織との練習の成果が出ているのだろう。
そしてもう一人、華夜はプロ顔負けのダンスを披露していた。比べてみると美波と華夜では泥雲の差があった。
「お疲れ様でした、面接は以上になります。後ほど結果を報告しますので会場にお戻りください。」
美波は面接会場から出ると、肺に溜まった空気を一気に吐いた。
「き……緊張した……。」
まだ二次審査だというのに、身体はクタクタに疲れていた。これなら漁の手伝いをしている方がよっぽど楽だ。
美波が会場に戻ると香織はすでに面接を終えて、結果発表を待っていた。
「美波、お疲れ様。面接どうだった?」
「もの凄く疲れたよ……。」
ダラァ……と美波は香織に寄りかかった。香織はよしよしと美波の頭を撫でている。
「皆さんお疲れ様でした。それでは二次審査の結果発表を行います。」
会場に緊張が走った。
「今回、二次審査を受けた人数は1021名でした。そこから最終審査に進んだのは31名です。」
「まずは9番加納咲さん、続きまして32番友沢明美さん、そして──」
次々と番号が呼ばれていく、喜んで飛び跳ねている子も居れば、うずくまって泣いている子もいる。
「224番新谷早苗さん、268番近藤明子さん。」
美波の番号が次第に近づいていく。
「304番潮岸美波さん、325番黒咲華夜さん──」
「……え!」
──あった。美波自身まさか受かっているとは思わず、突然のことで頭の中が真っ白になってしまった。
「406番春風香織さん、490番城ヶ崎姫歌さん。562番──」
「あった……私もあったよ美波!」
香織は勢いあまり、隣りにいた美波を思いっきり抱きしめた。
美波と香織は二次審査を突破したのだ。
香織が悲鳴に近い声をあげていたが美波の耳には全く入ってこなかった。
「私が……31人の中に残った?」
「最終審査は二時間後に行います、合格された方には昼食を用意していますので、それまでゆっくりとお休みください。」
歓喜と涙が溢れる会場で美波はただ一人、今まで感じたことのない不思議な感情に包まれていた。
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