影山武者殺人事件 ⑧

 俺が朱里と付き合ってから、2ヶ月程経った日の事だった。

 突然、朱里は学校に来なくなった。

 最初は、体調が悪くなったのかなとしか思って無かった。

 一応、LINEなども送ったが、返事は来ない。

 クラスメイトに事情を聞いてみるも、何も分からないと言われた。

 どうしたのかと思い、俺は朱里の家へ向かった。

 彼女の家は前にも来たことはあるが、あの時とは雰囲気がかなり変わっていた様な気がした。

 なんだろう、前に来た時はそこまで暗く感じなかったのに、今はまるで悪霊がついたのかと思う程、暗く、重たい闇が漂っていた。

 インターホンを押すと、朱里の母親が引き戸を開ける。


「……あの、朱里は」

「あの子ならもういないよ」


 母親のその言葉は、冷たく、生気を失っていた。

 そのまま引き戸を閉めようとした母親に構わず、俺は引き戸を掴み、もう一度問いかける。


「朱里に何があったんですか? 教えてください。なんでもいい、とにかく!」


 すると、返ってきた言葉は、俺の想像を超えたものだった。


「……捕まったの」

「え?」

「大麻よ……あの子、……」


 母親の目からは涙が溢れ、そのまま膝から崩れ落ちる。

 俺は、一瞬理解が出来なかった。

 朱里が? 大麻? 

 そんな言葉がこんな田舎の村で聞くとは思いもしなかった。

 自宅に帰った後も、俺は信じられなかった。

 そんなはずないと心の中でずっと思っていた。

 1回自分の部屋で落ち着こう、そう思った時だった。

 父親の部屋から、弟の修斗と父親の正宗が話している声が聞こえた。俺は、ふと気になって隙間から聞いてみる。


「……当主は涼馬に譲る……しかし、取引はお前の方が上手い、任せたぞ、修斗」

「わかりましたよ父さん……試しに兄さんにまとわりつく変な女に吸わせて見ましたけど……良い出来でしたよ」

「そうか……まぁあんな芋娘を嫁にするよりも、私の選んだ由香里という娘の方が、影山家の将来に光を指してくれるだろうな。彼女は日向市の暴力団の娘だからな」


 ……は?

 俺はもう何がなにやら分からなかった。

 朱里は……俺の弟に狂わされ、さらにその裏には父親が絡んでいた。

 こんなふざけた現実があるのか?

 この気持ちをどう言葉で表わせるだろうか。たとえ家族と言えど、この狂った行いを許せるわけが無い。

 殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。


 こうして、俺はこの村に巣食う悪魔を狩る。

 影乃武者シャドウ・サムライに。






 そして現在。


「刑事さん、もう諦めてくれ。俺は由香里を殺して、この山と一緒に影山家を葬る」


 碧もとい影乃警察は、影乃武者に向けて諦めずに立ち上がり、拳銃を向ける。

 しかし、その手は震えていてもはや引き金を引く力も無さそうだ。

 影乃武者はため息をつき、影乃警察に近づいて膝蹴りを放つ。

 影乃警察は嗚咽し、そのまま倒れ、変身が解けて、元の姿の碧に戻ってしまった。

 碧は気を失い、起き上がらない。


「……さぁ、次はお前だ」


 影乃武者は、剣の切っ先を由香里に向ける。

 由香里は木に縛り付けられ、身動きが取れず、まるで怯えた子羊と化している。足元には、影山家の金庫に入っていた札束の入った鞄が置いてある。

 だが、命の危機に瀕しているこの状況下においてそれは無用の長物だろう。


「や、やめて……」


 北崎は咄嗟に影乃武者を取り抑えようとするも、影乃武者は裏拳で北崎を殴る。

 北崎の顔からは鼻血が垂れる。


「……影山涼馬、君のしている事は……過去の精算なんかじゃない……ただの復讐だ」

「黙れ。良いんだ。俺はもう……彼女に合わせる顔なんて……」


 その時だった。

 麓から誰かが走って来たのだ。

 そして、一瞬にして変身し、影乃武者の脇腹にドロップキックを放つ。

 影乃武者は吹き飛ばされ、竹にぶつかる。


「誰だ!」


 影乃武者を吹き飛ばしたのは、海賊帽に季節に合わぬやや厚めのコート、そして両手に持ったカットラス。

 その姿は海賊そのもの。


「……ただの海賊だ」


 東間悠もとい、影乃海賊だった。


「東間くん……彼を頼んだ」

「ああ」


 そういうと北崎は由香里を木から解放し、2人で避難する。

 そして影乃海賊は挑発するかのようにカットラスの刃同士を擦る。


「さてと、爽快に行きましょうか。サムライ君?」

「……その減らず口はいつまで持つかな」


 海賊と武者の戦いが今始まる。

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