影山武者殺人事件 ⑨
カットラスと刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。
影乃武者は刀を振るい、影乃海賊を押す。
しかし、影乃海賊も負けじとカットラスを一つ投げ捨てると、袖口から小型のフックがついたロープを伸ばす。
そして伸びたロープの先のフックは木の枝に引っかかり、影乃海賊は上へエレベーターの様に上昇し、影乃武者の間合いから離れる。
さらに影乃海賊はフックを木の枝から取り外すと、フックの先端にカットラスを取り付け、鎖鎌の様にカットラスの着いたロープを地面に向けて回す。
影乃武者はそれを弾くと、一度鞘に刀を収め、刀の柄に手を添えたまま、しゃがみこむ。
「どうしたサムライ? 土下座か?」
その刹那、影乃武者は飛び上がり、影乃海賊の目の前に現れる。
「えっ」
そして影乃海賊がその姿を視認したと同時に横一線に斬撃を喰らった。
影乃海賊は後ろに弾き飛ばされ、そのまま地面に落下。
影乃武者は、剣の切っ先を影乃海賊に向けて落ちていく。
「まずい!」
影乃海賊はすぐ横に落ちていた、さっき捨ててたカットラスを拾い、影乃武者に向けて突き出した。
その瞬間影乃武者の刀とカットラスの切っ先同士がぶつかり合い、刀の軌道は逸れ、地面を突き刺す。
影乃海賊はその隙を逃さず、起き上がってすぐさま影乃武者を袖から伸ばしたロープで縛り上げ、そのまま空中に投げ飛ばし、地面に叩きつける。
地面はややえぐれ、影乃武者の兜の角はへし折れた。
「……もう終わりだ。諦めろ」
影乃海賊はロープを解くと、影乃武者はフラフラしながらもなお、立ち上がる。
その時、麓から誰かが走ってきた。
それは、意識が無くなりかけていた影乃武者にとってはこれ以上意識を取り戻す物は無いだろうと言える人物、宮下朱音もとい、宮本朱里だったのだ。
「涼馬! もうやめて! これ以上、手を汚さないで……」
宮本朱里は、目に涙を浮かべて、必死に影乃武者を止めようと、彼に抱きついた。
「……来るな、俺はもう……人殺しなんだぞ」
「そんなの……私だって……」
「お前は何も悪くない……」
影乃武者は彼女を突き飛ばし、自らの腹に剣を突き刺す。
腹から血が垂れ流れ、影乃武者は変身を解き、影山涼馬の姿へとなる。
口からも流れる血は、地面へこぼれ落ちる。
まるで、彼の涙かと思えるように。
「涼馬!!」
「ばか、てめぇ!」
影乃海賊は変身を解き、急いで涼馬の元へ駆け寄ろうとする。
その時、影山涼馬は胸元から喫煙時に使うライターを取り出し、それに火をつけると、涼馬はそれを地面に落とした。
そして、地面の枯葉にライターの火が燃え移り、広がっていく。
朱音は息を飲んだ。
「朱音さん! 逃げろ!」
目の前の光景に彼女は何も考えられなくなり、東間の必死の呼び掛けも聞こえない。
炎は影山涼馬を包み込み、森を、そして山も包み込んでいく。
東間は涼馬の元へ行こうとする。朱里を抱えて、すぐさま山の麓へ降りる。
既に地元の消防隊が駆けつけるも、火は消えない。
東間達はただ、火が燃え尽きるのを待つしか無かった。
「……あの馬鹿」
東間は、小さく呟いた。
4日後、日向署。
東間と碧は、留置所に居る宮下朱音の面会にやって来た。
山火事後に、朱里は逮捕され、事情聴取の結果、彼女はあの日の夜。影山修斗に強姦されかけていた為、ついその場にあった化粧水の瓶で殴ってしまったらしい。
そこに影山涼馬がやってきてしまったものの、彼も、影山修斗殺害を計画していたと言う。その為、首を切断し、鎧武者の所に置くことで出来るだけ同一犯の犯行に見せたかったらしい。
その為、宮本朱里は正当防衛に入るが、死体遺棄の罪にはなるので、彼女の弁護士によると3ヶ月の懲役が下されるかもしれないとの事らしい。
面会室に向かう2人の足取りはどことなく重たい。
「……なぁ碧」
「何?」
「あいつ……なんであんなことしたんだろうな」
「……私が知ってると思う?」
「だよな」
2人の会話もどことなく弾まない。
面会室に入ると、あの時の様に狐の面を被った宮下朱音が座っていた。
「どうも……」
碧は小声で挨拶をする。
「すみません、わざわざ来てくださって。私……碧さん達にお礼言いたくて」
「いえいえ、私達そんな大したこと……」
「そんなことありません。私、正直。涼馬と喧嘩別れ……みたいな形になってて……その後何とかこうして話せるのはあなた達のおかげなんですから」
やや和やかな雰囲気になりつつあると、東間は水を差す様にため息を吐く。
「ちょっと東間。何暗いため息なんてついてるの」
すると、東間はズボンの尻ポケットからある封筒を取り出した。
封筒には『朱里へ』と書かれている。
「東間、何よそれ」
「……朱里に対して書く人なんてあいつ以外誰が居る? まぁ読んどけ。俺はこういうしみったれた雰囲気好きじゃねえ……第一……まだ生きてるのに、勝手に死なないでもらいたいよ」
そういうと、東間は面会室から出てしまった。
「ちょっと東間……ったく、何イライラしてんだか」
碧は面会室の人に封筒を渡し、朱里の元へ届ける。
朱里はその封筒を開ける。
その筆跡は、涼馬の物だった。
その手紙は、彼がどれほどあの日から辛かったのか、そして朱里の想いは捨ててはいなかった事が1文字1文字に込められているのを実感する。
朱里は無意識の内に涙が溢れていた。
「……ごめんね……あの時……あんなこと……言っちゃって……私…………やり直すから……」
碧は手紙を読んでいる彼女をただ見つめていた。
こうして、日陰村の事件は幕を降ろした。
とある2人の悲しき愛と共に。
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