影山武者殺人事件 ⑦
何者かが、使用人の部屋のタンスの一番下を開ける。
そこには衣服が詰まっているが、その中で奥に一つだけ空間が空いていた。
そこには、ティッシュで何重にも包まれた化粧水の瓶が置いてあった。
その瓶を取り出し、慌てて部屋の外へ向かおうとすると、目の前に男が立ち塞がる。
「慌ててどうしたんだい。宮下朱音さん」
東間が不思議そうに朱音を見る。
宮下朱音は瓶を慌てて後ろに隠す。
しかし、東間がそれを見逃すはずが無かった。
「おや? 何隠したんです?」
「……いや、あまり見せられないような」
「ディ▉ドか」
「そんなものここにはありません!!!」
「んじゃ見せられるよな」
「……」
朱音は後ろに隠し持っていた化粧水の瓶を差し出した。
それを東間は両手に手袋をはめてから触る。
「……血痕か」
東間は確信した。
「まぁ……こんなドタバタ騒ぎに紛れて処分しようとしたのは、正解だったかもな。ただ、俺が待つのが誤算だったが。あんたなんだろ? 影山修斗を殺したのは」
「……はい」
彼女はあっさりと答えた。
「後、そのお面さ、火傷じゃねぇだろ」
「……そんなのじゃ」
「顔に火傷負ってる女が化粧水はとにかく、ファンデとかをそこのドレッサーに置くと思うか?」
朱音は木で出来た和風のドレッサーに目を向けると、棚の上にファンデーションを始めとしたメイク道具が置いてあるのに気づいた。
いつもは隠しているのだが、この時は焦っていてそのままになっていたのだ。
それを東間に気づかれ、もう何も言い返せない朱音はゆっくりとその神妙な狐の面を外した。
そこには、色白の肌に水晶のような綺麗な瞳を持った、可憐な少女だった。
白髪も先程までの狐の使いのような雰囲気から一転し、美しい白髪へ印象が変わった。
その美貌に東間は一瞬惚れ込んでしまった。
「……綺麗」
東間は小声で言ってしまい、慌てて気を確かめる。
「昔から可愛いってよく言われます」
「それ自分で言うのか」
東間は気を取り直して、彼女の事情を聞く。
「……とりあえず、なんで殺した?」
すると、彼女は東間に抱きついて来た。
突然のハグに東間は硬直してしまった。
「いっいいいいいい今はそんな状況じゃ」
「……助けて」
「へ?」
「涼馬君を……助けて」
「もしかして、次に死ぬのは……」
「……じ、じさ……自殺……する気…………なんです……涼馬君」
東間は少し考え、すぐさま碧に電話をかけた。
「おい碧! そっちはどうなってる!」
すると、電話に出たのは北崎だった。
「東間君かい? こっちは……大変な事になってる」
「涼馬がなんかしてんじゃねぇだろうなぁ?」
「涼馬? なぜ君がそれを知っているんだ?」
「あ? そりゃ……ちょっと推理したら出たの!」
「とにかく、こっちに来てくれ、一連の殺人の犯人は影山涼馬だ。彼は今、碧ちゃんと交戦してる。
「わかった!」
東間はすぐに電話を切り、家を出る。そして家を出る直前に、東間は、自分を見届ける朱音の姿を見る。
「任せとけ、事情は知らんが、助けられるなら助けてやる」
「……頼みます」
東間はすぐに引き戸を開け、日陰山へ向かった。
その頃、碧は。
「こいつ……強い」
目の前にいるのは、あの夜にも現れた漆黒に包まれた鎧武者の怪人。
碧は影乃警察に変身し、銃を向けている。
しかし何故か彼女は、怪人に勝てる気がしなかった。
怪人から発せられるまるで怨霊の様な殺気は彼女の全身を包み込み、全神経を刺激する。
その張りつめた空気感の中、北崎はガタガタと震える由香里を守っていた。
影乃警察は、銃で鎧武者の怪人に向けて弾丸を放つ。
しかし、鎧武者の怪人はそれを切断し、さらに間合いを詰め、影乃警察の腹に鞘から抜いた刀の刃を当てる。
そして刀を一気に横一線に引き、影乃警察の腹部から血飛沫が飛ぶ。
「がっ……はっ」
「碧さん、あんたを殺す気は無い。だから由香里を置いて帰ってくれ」
「何を……言ってるの」
鎧武者の怪人及び、影山涼馬は、刀を鞘に収めた。
「……俺は、この時をずっと待ってた」
4年前の事だった。
「……かっ影山……先輩……ですよね」
この俺、影山涼馬の前に現れたのは剣道部のマネージャーだった。
夏だろと思う程に暑苦しい5月のゴールデンウィーク明けに、丸メガネをかけたボブカットの後輩は俺にスポーツドリンクの入ったボトルを差し出す。
マネージャーとしては基本的とも思える行為である。
最近入ったばかりの1年の割には仕事をかなりこなしている。
「ああ、ありがとう。ところで君の名前は?」
「あっ、その……
彼女は少し俺に大して素っ気ないというか、近づくとビクビクして逃げてしまう気もするが、なんでなのかこの時の俺はよく分からなかった。
だが、彼女は彼女なりに少しづつ俺との距離を縮め、俺自身も何となく、彼女の事が気になりつつあった。
そんな日々の中、彼女は俺を体育館裏に呼び出した。
なんかベタ過ぎる気もするが、それが彼女の良いところだ。
「……あっ、あの……涼馬先輩……」
彼女は震えた手を俺の元へ差し出した。
「つ……つつつ」
「付き合って欲しい?」
「ふぇ……」
彼女は変な声を出していた。
こうして、俺と彼女は付き合う事になった。
その後、悲劇が起こるとも知らずに。
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