影山武者殺人事件 ⑥
翌朝。
東間の視野はほぼゼロだった。
何故ならば、南碧の足が目元の上にアイマスクの様に乗っかっていて、何も見えない。
「……碧、起きてくれ」
現在6時15分。
いつもなら起きているはずの彼女だが、色々あって疲れたのか、多めに寝ている。
未だにスヤスヤと心地よい寝息をたてながら、さらに寝返り、東間の腹部にかかと落としを放つ。
「うっ……」
「……ご飯」
「足を……どけてぇ」
東間は眠気と戦いながら、碧の足をどかして起き上がる。
まだ眠気が残る中、立ち上がろうとすると、つい布団で足を滑らせた。
「あっ」
そして気がつくと、東間は碧の真正面になり、碧の両腕を掴んでいた。
その衝撃で、碧も目が覚める、
「……あ、東間?」
両者の眠気は吹き飛び、互いに脈が急加速し、周りの音が心臓の音でかき消される。
その緊張で2人は動け無かった。
「あ、東間……」
「あ、碧……」
「は、はなし」
その時である。
「朝食の準備がで……」
畑貫翠が早朝の甘酸っぱい雰囲気をぶっ壊した。
翠は数秒考えた後に、すぐに襖を閉めた。
「ももももももももももも申し訳ございませんでしたァ! お熱い所!」
「「誤解だから!」」
2人揃って、朝から騒がしいのであった。
その後、2人は着替えて1階に降りて、朝食を食べる大きな畳の部屋に来ていた。
料理は箱膳の上に乗っており、ご飯、味噌汁、漬物にイワシの塩焼きと典型的な和風の朝食といったところである。
影山涼馬も既に座っていたが、何故か修斗は来なかった。
「……遅いな、あいつ何してんだ」
涼馬が煙草を取り出し、ライターで着火させて吸う。
「涼馬様、それが部屋にも居なくて……」
翠が周りを見回すと、ある事に気づいた。
そして彼女はその瞬間に、手に持っていたお盆を落としてしまう。
「ひっ……」
「どうした、翠。朝から」
「よよよ……鎧に……」
「ん? このご先祖さまがつけてたとかいう鎧がどうかしたのか?」
「ち……血が」
涼馬が近づいてよく見ると、兜から血が垂れていた。
「全く……誰がここに血を……」
鎧から兜を外すと、そこにはとんでもない物があった。
影山修斗の頭から血を流した、生首だった。
修斗の顔は白目を剥き、まるで何者かに襲われたかのようだった。
修斗の生首は床に転げ落ち、翠は悲鳴をあげる。
「……修斗」
その場にいた碧と東間は絶句し、由香里は嘔吐、涼馬は腰を抜かした。
もはや皆、朝食所では無くなっていた。
その後、大きな畳の部屋には規制線が貼られ、碧と東間は朝食をタッパーにまとめた弁当を食べながら修斗の生首を見ていた。
「これまた……綺麗に切れてんな……」
「|むぁむねしゃんふぁふぉのふぉくしゃんとのしゃつじんとふぉういつふぁんのふぁのうせぇいふぁふぁふぁいふぁね(政宗さんやその奥さんの時の殺人と同一犯の可能性が高いわね)」
「碧は口の中の物を飲み込んでから喋れ。何を言ってんのかわからん」
その隣で甲冑を調べていた鑑識は死体なんかよりもこんな現場でのうのうとタッパーの弁当を食べている2人の方が怖かった。
すると、東間はある事に気づいた。
「……なぁ碧」
「何よ」
「なんでこの生首、後頭部から血を流してんだ?」
「え? それはただ殴られたんじゃないの?」
「いやそれはおかしいだろ、今まで影山冬夜の亡霊の犯行に見立ててた犯人が急に撲殺なんて」
「……た、確かに」
「しかも今回は姿を表さなかった」
「……む、むぅ」
「つまり犯人は……」
「お、おお……!」
「わからん」
その場にいた捜査員は全員コケた。
「ふざけてないで! さっさと証拠集める!」
「でも、俺の推測が正しかったら、事件現場はここじゃない」
「……そうよね」
その時、北崎が現場にやって来た。
その様子はどこか慌てている様だった。
「北崎? どうした?」
「さっき、深山由香里の素性を調べていたんだが、とんでもない事が分かった」
「何が分かったんだよ」
「彼女は結婚詐欺師で、多分影山家の財産を狙ってる」
「え? って事は」
「今までそれを知った影山家の人間を口封じで殺したとすれば……」
すると、向こうで何か慌てている様子の涼馬と翠の2人がいた。
「どうかしたんですか?」
碧が聞くと、翠はあたふたしながら理由を話した。
「先程部屋の金庫からお金が盗まれてたんですぅ。そそそそそしたら由香里も消えて」
「由香里が財産を独り占めしようとしてんじゃねぇかって」
2人は慌てて外へ走り出して行ってしまった。
「……まずいな、このまま逃げられたら行方を追うのが難しくなる」
「なら追っかけましょう」
碧はすぐに翠と涼馬について行く。
北崎も慌てて走り出し、東間は置いてけぼりになってしまった。
「…………どうしよ」
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