影山武者殺人事件 ④

「影山……冬夜」


 武者は2人を見ると、すぐさま縁側へ逃げ出した。


「待ちなさい!」

「あああ碧さん! 服服!」

「えっ? あっ!」


 碧は慌てて寝間着を着て、庭へ逃げ出した武者を追いかける。

 庭にサンダルを履いて駆けつけるも、既に武者の姿は居なかったが、足跡が門から外へと続いていた。

 碧は門から外へと出ると、山奥へ逃げる武者の姿があった。


「待ちなさい!」


 碧は武者を追いかけるも、山奥に灯りなどある訳がなく。あたりは闇ばかり、碧は武者を見失った為、1度戻ろうとした。

 その時、ある臭いを感じた。

 山では嗅がないような、独特な青臭さ。


「……この匂い」


 その時。



 ガンッ!



 碧は目の前が真っ暗になり、そのまま彼女の意識は途絶えた。




「……お……い……おーい…………おーい! …………起きろ! 脳筋女子中学生!」

「誰が脳筋よ!」


 そんなツッコミで起きると、既に日が上り、朝を迎えていた。

 碧は布団の上でボタンの外れたパジャマを地肌の上に着ている。

 東間も隣で必死に起こしてくれたらしく、その後ろには翠がいつものようにあたふたしているのがわかった。


「……良かった。起きて」

「東間……わたし」

「ああ、山の入り口に倒れてて、急いでたぬきが運んだんだよ」

「たぬきが!?」

「翠の事だからな」

「あっそうだった」

「……たぬき呼び辞めて貰えますか?」

「……ごめん」


 翠が本当に嫌そうな言い方だったので東間も何も言えなかった。


「……あっ東間! 正宗さんは!?」

「ああ、あの日人か、バッサリ斬られてて、即死だとよ。今現場を北崎が調べてる」

「んじゃ行かないと」

「いや、辞めた方がいい、下は修羅場だぞ?」

「……え?」


 その時、階段の先から誰かが怒鳴る声が響く。


「お前がやったんだろ!」


 その声と共に、皿の割れる音が鳴り響き、慌てて碧は下へ降りて行った。

 するとそこには修斗の胸ぐらを掴む涼馬の姿があった。

 慌てて碧が駆けつけるも、2人は揉み合いになっており、体格の小さい碧では中々止められない。

 東間も揉み合いに巻き込まれる碧を見て、すぐさま2人を止めようとする。


「ちょっと2人とも辞mぶっほぉ!」


 東間は二人の間に入るも、涼馬の拳を顔面に食らう。


「あっ……」

「あ……」


 兄弟は共に気まずくなった。


「朝から見苦しいですよ。御二方」


 使用人の女、宮下朱音が朝食を運びながら、2人に釘を刺す。


「……結局は俺が当主になるんだ。今更死のうが関係ねぇ。だが修斗、お前最近、親父と色々と揉めてたよな?」

「それは……」

「お前、

「兄さんそれは」

「今警察が目の前に居るんだぞ? もし嘘でも着いたら……」

「……もう過ぎた事だろ! 今はそんな事よりも、今は母さんと父さんを殺した犯人を探すべきだ。刑事さん、犯人はまだ見つからないんですか」

「はい、正宗さん殺害時に私もその場に居たのですが見失ってしまって……」

「警察もこれじゃあ……」


 影山家の雰囲気がより一層ピリピリとしたものに変わり、碧と東間は、朝食が喉を通らなかった。

 2人は部屋に戻ると、北崎がくつろいで温泉卵を頬張っていた。


「ああ、2人ともお疲れ様。朝食食べてたのかな?」

「「お前は何をしてんだ!!!!!!」」


 2人の怒号が部屋に響き渡り、北崎の最後の温泉卵が吹っ飛び、北崎は固まった。


「温泉卵……」

「北崎ィ! 温泉卵じゃなくて俺らは事件の捜査をしにここに来てんだ! それを部下に任せてお前はなーに温泉を満喫してんだ!」

「いやぁ、そう見えちゃうかもしれないけど、僕だってちゃんと捜査してたんだよ?」


 そんな北崎の発言とは裏腹に北崎の格好は、日陰温泉のオリジナルタオルを首にかけ、日陰温泉のお土産コーナーで買ったのであろう熊の手の形をした孫の手や、日陰温泉の温泉まんじゅう、通称日陰まんじゅうを3箱も買っているなど、バリバリに観光を楽しんでいる観光客でしかない。


「……嘘つけ」

「北崎さん、ほんとに捜査してたんですか?」

「うん、これ」


 北崎はとある資料を渡した。

 その資料は影山家の収入と支出を表した表だった。


「これ、この家の収入と支出をまとめたものなんだけど、明らかに収入が多いんだよね」

「……それがどうかしたのか?」

「東間くん、なんでその収入をここに書かないのかわかる?」

「……えっまさか」

「そのまさかだよ」

「……ネコババした金」

「随分とちっちゃい収入だね」


 北崎は改めて説明を続ける。


「碧ちゃん、君は3ヶ月前にとある闇取引を見つけて、それを阻止した事があるよね」

「はい、小規模な組織だったんですけど、かなりの大麻を持っててちょっと驚いた位です」


 すると、東間が碧に質問をした。


「碧、それってどんくらいあったんだ」

「確か先輩が言ってたけど、あれくらいの組織なら1キロほど、値段ならざっと600万位占めてるって話だったけど、実際に押収したら100キロも出てきて、値段なら6億は出るわね」

「宝くじでしか聞いた事ねぇぞ値段」


 あまりにもデカい値段に東間はそれしかいえなかった。


「そう、あの組織だけだと、あんな大量の大麻を用意出来ない。ただでさえ栽培したら逮捕されるしね」

「ということは北崎さん、まさか……」

「そう、あの組織は別の場所から仕入れていたんだ。まぁよくある事だけど」

「それと影山家になんの関係があるんですか?」

「……あまり大声で言えないが……影山家は、

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