影山武者殺人事件 ③
「……ご先祖さまの姿?」
「はい、あの場でちょっと言いづらかったんですけど。私が和枝様殺害の第1発見者なんです。身内が居ると、少し気が引けたので」
「それで、ご先祖さまの姿って……」
「ああ、それがまだでしたね。まず、影山家の説明からさせていただきます」
翠は語り始める。
影山家は昔、この村を収めていた武士の一族だった。
その
しかし、彼に対して反逆を起こそうとする村人はほとんど居なかった。
しかし、そんなある日、1人の村人が影山冬夜の首をはねた。
理由は今でも分からない。
だが、その男は後になにかの悪霊に取り憑かれたかのように、家から飛び出し、川で溺れ死んだという。
村の人々はこれを影山冬夜の悪霊と恐れ、今でも影山冬夜の遺骨は
「それで、殺害現場でも見たんです……あの甲冑は正しく……」
翠の声はだんだんと震え始め、東間はもういいと言った。
「わかった。とにかく、その影山冬夜の殺人として見立てられた訳ね」
「は、はい……やっぱりあれ、呪いなんです! みんな殺されちゃうんですよ! 」
「落ち着けたぬき」
「たぬきぃ?!」
東間からつけられた突然のあだ名に翠は困惑する。
「ななな、なんでたぬ」
「だって、畑貫だろ? はを抜いたらたぬきじゃん」
「へ、へええぇぇぇ?」
「いいわね、私もそう呼ぼうかしら」
「ふ、ふううぅぅぅ!」
そんな悲鳴が部屋に響く中、深山由香里は家の裏で、涼馬と2人きりでいた。
「……そろそろね」
「ああ、これであいつらはこの家から消える……」
「そしたら……この家の財産は……私達の物」
2人は熱いキスを交わす。
舌が密接に絡み合い、2人の唾液が混ざり合う。
由香里の頬は赤くなり、涼馬はより舌を絡めていく。
その光景を、角から見ている人物が居るとも知らずに。
夜が来た。
東間は風呂に入る準備を始めていた。
どうやら影山家のお風呂はかなり広いらしい。
シャンプーやリンスも使っても良いらしいので、東間は存分に使わせてもらうことにした。
全裸になった東間が風呂に向かうと、そこはなんと露天風呂だった。
シャワーなどは一応室内の方にに配置されては居るものの、浴槽は石造りのまるで旅館かと勘違いさせられる代物だった。
「うっひょほぉー! 金持ちの風呂は違うねぇ!」
東間は透明な風呂に浸かると、体の芯から温まっていくのを感じた。
久しぶりに日向市から出たのもあり、今日は疲れていた。
それにこの風呂はとても効く。
いつもより長めに入ろうと思った。
その時である。
何故か引き戸の開く音が聞こえた。
東間は少し驚いたが、まぁ大丈夫だと思った。
影山家の男の涼馬か修斗、もしくは当主の正宗でもやって来たのだろうと思い、そこまで慌てることは無かった。
しかし、その冷静も直ぐに消えてしまう事になった。
「広いわねー、やっぱりお金持ちは風呂がでかくなるのね」
南碧だった。
東間は息を殺し、風呂の奥へゆっくりと移動する。
(碧!? 何故入ってきたんだ!)
東間は部屋を出る時、ちゃんと風呂に入ると言ったのだ。
そして碧も返事をしたので、東間は起きていると思っていた。
しかし、その時不幸にも彼女は寝ていたのである。
その返事は寝ぼけて言った返事で、本人は返事していないつもりなのだ。
こうして東間は初めて母親以外の女の全裸を目撃してしまう。
だがどこぞの幽霊温泉漫画の様に湯気で局所が隠されているのが東間にとってはある程度危険回避になっていた。
もし全部見えていたら鼻の血管が爆発していた事であろう。
(安心しろ俺、長風呂ならガキの頃死ぬ程してきた。のぼせるなんて事は無い)
東間はそっと岩陰に隠れて、お風呂に癒される碧から目を背けた。
30分後
(あいつまだ風呂でねぇのかよ!?)
気づかない碧も大概ではあるが碧はまだ風呂に入っている。
最初は腑抜けた声を出していたが、ノリに乗って来たのか、気まぐれロマンティックを鼻歌で歌っている。
東間の心臓はバクバクと鼓動を上げ、体も茹でダコのように赤くなり、意識が朦朧とし始めた。
(あ……やばい……のぼせた…………耐えろ俺……ギリギリまで頑張って……ギリギリまで踏ん張って……どうにも……こうにも……)
東間は限界を迎え、風呂から上がった。
「どうにもならねぇ……」
そして白目を向いて、石畳に倒れた。
突然現れた東間に碧は驚き、慌てて東間の元へ駆け寄る。
「東間?! 大丈夫……ってかなんで居るのよ?! そんな事よりのぼせてるじゃ無いの!」
碧は慌ててのぼせた東間の脇を持ち上げ、そのままズルズルと引っ張って脱衣所に向かう。
扉を開け、扇風機のボタンを華奢な足で何とか押して、東間を冷やそうとしたその時。
翠が脱衣所に現れた。
翠目線から見るその光景は気絶させた東間を運ぶ碧のようだった。
そこから考えた翠の結論は。
「さ、さささ、殺人犯んんンンンンンン!」
「違いますうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
「ででででででででも東間さんを」
「違います違います! なんかいつの間にが入っててのぼせちゃってるんです!」
「せせせせ扇風機をつけましょう!」
「つけてるよ!」
「ほんとだ!」
その後しばらく東間の身体を扇風機で冷やし、様子を見ることにした。
数分後。
「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!!!」
突如悲鳴が聞こえた。
その悲鳴に翠はビクッと驚き、碧は胸から下にバスタオルを巻き、悲鳴のあった場所へ向かう。
翠は走る碧を見て慌てて碧の着替えを持って着いていく。
「大丈夫ですか?!」
悲鳴のあった部屋の襖を開けると、そこには悲惨な光景が広がっていた。
部屋の奥には、袈裟斬りにされた影山正宗が苦痛に満ちた死に顔を晒した姿で壁にもたれかかっている。
そしてそんな彼を斬り殺したのであろう鎧武者が影山正宗の目の前に立っていた。
黒き甲冑を身にまとい、その姿はまるで鬼の様で、血に染る刀を片手に持ち、碧達に振り向く。
その視線は碧に冷や汗をかかせた。
その後、慌てて駆けつけてきた翠もその武者の姿を見て、手に持っていた碧の着替えを落とした。
「か、か……影山……冬夜」
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