影山武者殺人事件 ②

「影山家の皆さんは既にお集まりですのでらそちらへ案内致します」


 朱音の案内で2人は、大きな畳の部屋で着いた。

 壁には掛け軸や、先祖が身につけていただろう甲冑があった。

 そして、机を囲む様に影山家の人間が4人座っていた。


「これは刑事さんかな? 大柄な男性が来るかと思えば、なかなかべっぴんさんじゃないか。私は影山正宗かげやままさむね影山家の当主をしている」


 入口から1番奥に座っている年老いた男は自ら自己紹介をするなど、人付き合いは良さそうな印象があり、さっきまで背筋が冷えていた2人も少しだけ落ち着いた。

 何しろ厳格そうな家なので、2人もどことなくぎこちなくなってしまうのだ。


「まぁそんな緊張せず。ここに座りなさい」

「「は、はい」」

「あら、お似合いだね、おふたりは」


 2人は一緒に顔を赤らめる。

 そんな2人を見て正宗は微笑んでいた。

 2人から見て左奥には、男にしては少し長めの黒髪であぐらをかいたスーツ姿の青年が煙草を吸っていた。


「こら、涼馬りょうま、客人の前で煙草をすうのは良さないか」


 涼馬と呼ばれた男は、煙草の先端の赤く燃えている部分を灰皿に押し付けて、口の中の煙を漏らす。


「父さんこそ、そろそろ終わりの身なんだ、早く終活しときな。第一、母親だって、もう死ぬ身だっただろ?」


 すると、隣にいたスーツ姿の短髪の黒髪の男が涼馬を怒鳴りつける。


「おい兄貴、母親が死んでなんとも思わねぇのかよ」

「あんなババアさっさと死んだ方がマシさ」

「んだとてめぇ!」

「やめろ! みっともないぞ兄弟揃って!」


 2人の喧嘩は正宗の一声で止まった。


「お前たち、客人の前なんだぞ。そんな醜い所を見せるんじゃない。刑事さん達、先程は失礼した。奥から、長男の影山涼馬かげやま りょうまそして次男の修斗しゅうとだ」


 涼馬は胸ポケットから煙草を取り出し、再び煙草を吸い始める。

 どうやら反省はしていなさそうだ。

 すると、2人から見て左手奥側にいる黒い着物の女性が2人に話しかける。


「すみませんね、涼馬とその弟がはしたない所お見せして。私、涼馬の婚約者の深山由香里みやまゆかりと申します」


 嫌悪な雰囲気の中、深山は2人に挨拶を済ます。


「ところで、皆さんは事件当時何を?」


 影山家の方々は順番に事件当時の自分を話し始めた。

 正宗はその時間は就寝していたと言う、最近眠りの質が悪いので、睡眠薬を服用しているという。

 涼馬はその時間は酒を飲んでいたらしい。そこそこ飲むらしく、その時は瓶一本飲んだとか。

 修斗は司法試験の勉強をしていたと言う。そろそろ試験なので追い詰め時だったらしい。

 深山や使用人の畑貫翠や朱音は普通に就寝していたという。

 まぁかなり遅い時間帯なので寝ているのが当然だろう。

 つまり、この時間帯にアリバイのある人間は居ない。

 誰もが犯人だと言える状況だった。


「……ありがとうございます」


碧がその時の状況をメモし終えると、涼馬は本日三本目の煙草を吸い始めた。


「なぁそろそろ良いだろ刑事さん。俺がこの家継ぐのは変わりねぇんだし」

「そうですが、まだ和枝さんを殺した犯人が分かりません」

「……ったく。刀で斬られて死んだんだろ? 意外と、

「兄さん! そんな事言うんじゃない!」


涼馬はそう言って高笑をし、部屋を出ていった。


その後、碧達は別の部屋に案内された。

どうやら事件が収まるまでここに泊まって欲しいとの事。

部屋は10畳程の大きさで、押し入れには布団が2枚ある。

テレビは生憎無いが、そこまで困ることではない。


「さっぱりした部屋ね」

「そうだな、ここで2人きりになるんだもんな」

「そうね2人きり……ふっ!?」

「ん?……んんんんー?」


2人は察した。

こいつと2人きりでここにいる事に。

喫茶サンライズではそこそこ広いのである程度距離を取れるが、この10畳程の狭い空間は2人とも初めて。

そして男女といういかがわしい事が起きてもおかしくは無いシチュエーション。

同じ屋根の下で1晩過ごすという恋愛の一大イベントが起きたのである。


「し、仕事上ここここうなっただけであって」

「そそそそうだよなぁ!」


2人とも恋愛未経験の為、ガッチガチの口調である。


「ゆゆゆ、夕飯も出るみたいだし、それまでででで、事件の資料まとめるわわわわよ!」

「ぉぉおおおああああそそそそうしよ」


2人は作業に入ると意外と緊張しなかった。

それもそうだろう。

喫茶サンライズでも東間はある程度彼女の仕事を手伝う事はあるのだ。

資料をまとめる他にもコーヒーを入れてあげたり、報告書の手伝いもしている。

それはもういつもやってる事なのでそんなドキドキクライシスは起きないのだ。


「あっそういえば碧」

「どうしたの」

「涼馬が言ってたご先祖さまの呪いって……なんだろうな」

「さぁ、やっぱり何かこの家、何か隠されてそうなのよね。北崎さんに連絡して情報集めて貰おうかしら」

「そうだな、一応LINEしとくわ」


すると、北崎から一通のLINEが届く。

内容は、温泉の写真だった。


「……あの野郎」


その時部屋の襖が開く。

そこには正座をした翠の姿があった。


「翠さん、どうかしたの?」

「実は……私……見ちゃったんです」

「……何を?」

「涼馬様の仰っていた。ご先祖さまの姿を」

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