事件file5 影山武者殺人事件
影山武者殺人事件 ①
碧達は北崎の運転で山道を走っていた。
一応コンクリートの道ではあるが、作られた当初から全く補修されていないのか、ガタガタでまるで砂利道を進んでいるようだ。
後部座席に座る東間は外を見ているが常に揺れているせいで綺麗な森林を見れず、その隣にいる碧も事件の資料を確認したいものの、紙が揺れるものなので文字が残像を作り出す。
3人は、とある村に向かっていた。
「北崎さん、こんなところに村があるんですか?」
「そう、
すると、東間が助手席にある物に目が止まる。
「おい、北崎。俺たちは一応事件の捜査に来たんだよな?」
「うん、そうだけど?」
「その風呂桶とシャンプーとリンスはなんだ?」
「君達、知らないのかい?
「何てめぇは温泉を満喫しようとしてんだ! はっ倒すぞ! おい碧。なんか言ったれ!」
「温泉……まんじゅう!」
「あーだめだこいつは食い物しか頭にねぇ!」
「なぁに、知らない君達が悪いのさ。温泉まんじゅうは無いけど……温泉卵ならあったような」
「……後で買っといてください」
「おい!」
そんなやり取りをしていると、段々と道路も綺麗になっていき、目の前に広がる田園と点々と佇む民家。
その雄大な自然は、暗すぎない影に包まれ、どこか陰湿な雰囲気を醸し出していた。
「ここが……日陰村」
車から降りた碧がそうつぶやくと、山から吹き降ろす風が、碧の髪をなびかせる。
「行くよ、現場に」
北崎がそう言って風呂桶とシャンプーとリンスを小脇に抱えて行くと、目の前に茶髪の女が立っていた。
白い着物を着ているが、顔つきはどこか田舎の芋娘という感じで3人を目の前にオドオドしている。その様子はまるで道路に間違えて飛び出した狸のようだ。
「……君が、
北崎がそう問いかけると、彼女はビクッと驚き、泳ぎまくってシンクロナイスドスイミングを始める目で、自己紹介をする。
「わわっ、私。
彼女は慌てながら自己紹介を済ますと、3人に案内し始めた。
「……なぁ北崎」
「ん?」
「影山家ってなんだ」
「ああ、それも説明してなかったっけ」
「事前情報くらいよこせ」
「碧ちゃんはわかってるんだよね?」
「はい、東間にも資料渡したのに」
「あの車の状況下で読めるかぁ!」
「とにかく、影山家ってのはこの村じゃ村長と同等の権力を持つくらいの名家でね。殺害現場は影山家の所有する屋敷の中らしいんだ」
「名家ねぇ……」
その時である。
「ぎゃあああああ!?」
翠が何かを見て叫んだ。
「大丈夫ですか!?」
「むむむむむむむ虫虫虫虫!」
彼女が指さす先には、道を一生懸命横断する黒とオレンジの芋虫だった。
東間は心配したのが馬鹿らしく思えてきた。
東間が芋虫を木の枝で拾って森に返し、翠が案内を再開してから数分後。3人は影山家に到着した。
とても大きな武家屋敷であり、土地の周りは草木の塀で囲まれ、大きな木造の門がその屋敷の偉大さを出している。
おそらく江戸の時からあるのだろうか。
門には達筆な文字で『影山』と書かれている。
門を抜けると、綺麗な松の木や鯉の泳ぐ池にししおどしもついている。建物は昔の武家屋敷といった感じで、侍でも居るのかと勘違いするような佇まいをしている。
そして隣の別館と思われる建物には規制線が貼られ、事件現場と一瞬で認知できた。
北崎は警察手帳を見せて、現場の刑事に現場の立ち入りの許可を求める。
「特殊捜査課課長の北崎巧です。現場見させて貰えますか」
「特殊捜査課ぁ? ああ、あの日向市で噂のよく分からん奴らか。いいよ、そこの兄ちゃんから話は聞いてる。なんかわかるんなら見てきな」
かなり年のいった日陰村の刑事は、頭を掻きむしりながら北崎と東間は通したのだが、碧だけは通さなかった。
「ちょっと、私はなんで入れさせないんですか」
「お嬢ちゃんね、いくらお兄ちゃん達と仕事したいと言っても流石に殺害現場はダメだよ。というかね、まず未成年が」
碧はすぐ様警察手帳を見せつける。
「特殊捜査課兼日向署刑事課の南碧です! 未成年じゃありません。もう24歳です!」
「……中学生じゃ無いのか」
刑事は唖然とした顔で碧を見ていた。
そんな刑事を横目に、碧は殺害現場に入る。
畳の間に飛び散る血と、真ん中にあるのは、袈裟斬りにされた、着物姿の女性の遺体だった。
死亡してそこそこ経つのか、腐敗臭が碧の鼻にツンと来る。
「亡くなったのは、
北崎が淡々と殺害現場の状況を説明し、東間は鼻をつまみながら死体を見る。
「うーん、こりゃ見事に……って言いたいけど、やっぱり腐敗臭慣れねえ〜」
「東間、殺害現場はわかったんだから、次はここの人に話聞くわよ」
「はーい」
「それじゃあ被害者の身内の話は2人でお願いね、僕はここで刑事さんと話があるから」
鼻声のまま東間は返事し、碧と東間は本館へ向かう。
本館は歩いて30秒もかからない所で、別館の1.5倍程の大きさがある。
「改めて見るとやっぱりでけぇよなー」
「こんなおっきい家、掃除大変そうよね〜」
2人は引き戸を開けると、石畳の玄関と、その奥に部屋を通路を隠すように立つ屏風の前に正座で座る使用人が居た。
その使用人は先程案内した畑貫翠とは違い
白の長髪で幽霊と見間違えてもおかしくない手の白さ、そして何より特徴的なのは、顔に着けた白狐のお面。
「……お待ちしておりました。私、この家の使用人を勤めさせて頂いております。
その奇妙な雰囲気に、2人は少し背筋が冷える。
だがまだ2人は気づいていない。
この家の深く暗い闇に……。
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