怪盗シャドウの殺人劇 ⑤

 その声は、諏訪信之だった。


「……なんで、あなたがここに」

「……警察の癖に勘は鈍いんだね」


 影乃泥棒もとい、諏訪信之は言う。


「まさか、あなたが館長とその妻を」

「ああ……殺したよ……俺のじいちゃんを死なせた。あのクズを……俺は許せなかった……」














「ねぇおじいちゃん! 僕に絵の描き方を教えてよ!」


 僕、諏訪信之は祖父の家に遊びに行っていた。

 友達と遊ぶのも楽しいが、祖父の家に遊びに行くのがもっと楽しかった。

 おじいちゃんは、無口で、堅物で、ちょっぴり怖い所もあったけど、その瞳の奥には魅力的な風景で溢れていた。

 僕は見よう見まねで、おじいちゃんと同じ物

 を模写していた。

 最初は、下描きもめちゃくちゃで、おじいちゃんの絵とは程遠い物だったけど、少しずつ、おじいちゃんの技を見て学び、僕はいつしかおじいちゃんと同じ画家を目指したくなっていた。

 中学生になった頃、僕がいつものようにおじいちゃんの所へ向かうと、何やら口論している声が聞こえてきた。


「あんたももう長くはないんだ。良いだろう? うちで個展をすりゃ、あんたもこんなみすぼらしい家なんかじゃなく、大豪邸に住めるんだ」

「断る」


 何やら、おじいちゃんに個展の話を持ちかけていた。

 おじいちゃんは昔から絵を渡す人は基本的に近所の人や、遠くからわざわざ見に来たような人ばかりで、お金の絡むような人はそんなに居ないはずだ。

 昔、おじいちゃんは金の事で良くない目にあったらしく、それ以来画商に売るのを辞めたという。

 それに、長くないってどういう事なのかと、僕は不思議に思った。

 男が部屋から不満げに出ると、俺は入れ替わる様に部屋に入った。


「おじいちゃん、長くないって」


 すると、おじいちゃんは机の引き出しからあるものを出した。

 それは、錠剤だった。


「……それって」

「これで言うこたァねぇだろ、今日は何描くんだ?」


 僕は何も言えないまま、部屋を去り、1枚だけ、絵を描いた。

 おじいちゃんはもう長くないのだと悟り、僕はどことなく、心の穴が空いたようだった。

 その日からか、おじいちゃんは1つの絵に没頭するようになった。

 それで何日も、家から出てこなかった。

 いつも鍵を持っている僕にも、入るなと言った。

 そして、1ヶ月が経った頃。

 おじいちゃんは亡くなった。

 病死らしい。

 俺は、葬式を済ませると、ふらりとおじいちゃんの家に向かっていた。

 そこには、1枚の絵が、置かれていた。


 それは、僕が昔、外で遊んでいた写真を元に描かれていた。

 そして一通の手紙がその写真の下に置いてあった。

 俺は、その手紙を開ける。

 内容は、俺に当てた物だった。

 おじいちゃんは、無口で、昔から絵のこと以外は不器用だった。

 でも、おじいちゃんは僕を影ながら見守っていた。

 無邪気に絵を描く俺を見て、おじいちゃんは嬉しかったらしい。

 だから、おじいちゃんは僕の為に、この絵を描いた。

 その文は優しく、おじいちゃんが目の前に居るようだった。

 手紙が涙を受け止め、俺は葬式ですら流さなかった涙が止まらない。


「……なんだよ、ちゃんと口で伝えろよ……じいちゃん」


 その後、おじいちゃんの死から四十九日経った。

 すると、おじいちゃんの絵で個展を開きたいと、ある男がやってきた。美術館の館長らしい。

 無論両親はそれを承諾し、おじいちゃんの所から絵は全て持ち運ばれた。

 無論、僕も最初はおじいちゃんの絵をみんなに見てもらいたかった。個展は盛況でどことなく心が軽くなった。

 その日の夜。僕は館長に呼ばれ、その日は家族と一緒にパーティーに参加した。

 ご飯も美味しかったし、とても楽しかった。

 そんな中僕は酒に酔った館長が、ある言葉を口にした。


「いやぁ〜今の医学は凄いねぇ1。おかげであのクソジジイの絵で稼げるってんだ……」 


 僕は、理解できなかった。

 あの時の錠剤は、毒だったのか?


「私が、処方したんですもの。楽になったでしょうね……あの人も……」


 何を言ってるんだ?

 お前らが……おじいちゃんを……殺って、あの絵を?

 ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!

 あの絵は……お前らの金の道具じゃない!


 その時、僕は決心した。

 おじいちゃんを殺したあいつらを……。











「……その絵は、僕の為にあるんだ。だから」

「何言ってんのあんた!」


 碧は信之の言葉を遮った。


「おじいちゃんは、こんな事望んだの?」

「それは……」


 すると、怪盗シャドウは、ため息をつき、影乃泥棒に寄る。


「全く……君は、私が紳士であるのを知らないのかね」

「何が紳士だ。おじいちゃんの絵を遊びの道具みたいに盗む泥棒だろ」

「泥棒は君だ、人の命を盗み、人々を悲しませている」


 影乃泥棒は絵画を手放し、膝をつき、涙を流した。


「君自身も、悲しい。復讐ほど、悲しい行為は無いよ」


 影乃泥棒は、ガラスの様に砕け散り、事件は幕を閉じた。

 月明かりに照らされた絵画『親子』は、昼間とは違う明るさを、出していた。


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