怪盗シャドウの殺人劇 ⑥

 その後、諏訪信之は逮捕され、怪盗シャドウは捕まえられずに終わった。

 あの後、碧も追いかけたのではあるが、煙幕を騙されてしまい、何も出来なかった。


 東間の影も自然と戻ってきたらしく、事件は一件落着となった。


 影が戻ったからか喫茶サンライズで、東間はノリノリで床をモップで掃除していた。


「良かったわね。影が戻ってきて」

「おう! 鏡に写ったからちゃんと髪の毛整えられて良かった〜」

「髪の毛整えられないのがそんなに嫌なの」

「いや俺意外と寝癖酷くてさぁ〜」

「……可愛かったよ」

「あっなんか言ったか? おい碧なんか言ったな今! 吐け! この脳筋女子中学生!」

「うーん、やだ」

「やだじゃねぇ拒否権はなしだ!」


 東間が碧を問い詰めていた中、サンライズに入店する人物がいた。


「あの……ここがサンライズ……ですか? 」


 宝条真希だ。


「そうだよ」


 カフェラテでサクラダファミリアのラテアートを作っていた北崎が答えて、真希は碧の隣に座る。


「……あなたは真希さん」

「刑事さん、これ」


 真希はとあるファイルを碧に渡した。


「……なによこれ」

「あの館長さんの不正の証拠てんこ盛りセットです」

「何を言ってるんですか? そんなものあるわ……ものすごい不正の証拠」

「あの子が殺人なんてしなきゃ、あの悪党を成敗できたのにねえ……」

「なんであなたがこんなものを」

「相変わらず勘が鈍いねぇ、だからあの子にも言われちゃうし、彼氏くんにも脳筋と言われるんですよ」

「……まさか」


 すると、真希は煙幕を店内に放つ。

 煙が晴れるとそこには、怪盗シャドウがカウンターに立っていた。


「……その通りだ、私こそが、怪盗シャドウ」


 怪盗シャドウはそう言うと、カウンターから降りて、テーブル席のソファに寄っかかる。


「あっお前か! カッコつけて偽物に逃げられたやつ」

「その事は言わないでくれないか!」

「真希さんが……怪盗シャドウ……確保よ東間」

「おけ」

「えっ」


 碧は手錠を取り出し、東間に渡すと、怪盗シャドウの片腕に取り付けた。


「ま、待て! さすがに決めゼリフ位は」

「馬鹿野郎、ここ警察の部署だぞ?」

「……アッソウダ」

「……お前本当はドジだな?」

「……はい」


 怪盗シャドウ、まさかの逮捕である。


「だ、だが君達、ここで私を大塚武に連行したら、影の情報が得れなくなるぞ!?」

「「影の情報?」」

「……あ、ああ。北崎巧、君なら欲しがるような情報だ。あの男のね」


 ラテアートを作っていた北崎の手は止まり、先程までほとんど無関心だった東間は怪盗シャドウに目を向けた。


「嘘じゃないんだな」

「ああ、私は嘘はつかない」

「じゃあ、話して貰えるかな」

「ああ……ここ最近、やたらと影の事件が多いよな? なぜだと思う? 碧君」

「えっ……そりゃあ、心に影を持った人が、多いとか? 現代社会のストレスとか……」

「そもそも、私や君が使う影の力を自ら引き出す人間はレアだ。そう簡単に使えたら、世の中は影だらけになる」

「えっ、それじゃあなんで」

「……え?」

「名前までは分からないが、天性のカンで心に影を持つ人を探し、その力を引き出させ、殺人教唆を行っている人間がいるということだ。今回の事件や、学園の件も、それに入るね」


 すると、東間はある質問をする。


「それじゃあ、今までのヤツらは全員嘘を着いてたってこと?」

「それは違う。影の力を引き出させている人間の影は、『影乃商人シャドウ・トレーダー』その名の通り、影の力を引き出させるサービスの対価として、出会った記憶を全て貰っている。だから、犯人たちは全員自然と覚醒したと思っている」

「トレーダー……商人、か」

「んまぁ、これくらいかな、ちょうど外れたし」

「「「え」」」


 怪盗シャドウは宝条真希の姿に変わり、ドアから素早く外へ出る。

 碧達3人は、追いかけるようとするも、既に彼女は向かいの道路の建物の屋上に立っていた。


「最後に言っておくわね警察さん達ー! 宝条真希を調べても本物の人しか出ないから、じゃあねー!」


 そう言って、怪盗シャドウは、昼下がりの街中に消えていった。


「「「取り逃してしまった……」」」


 3人はその後、大塚警部に怒鳴られた。




 某日、日向少年院ひなたしょうねんいん

 諏訪信之は、部屋で1人隅に座り込んでいた。

 目の前を通る看守達がこそこそと話をする。


「……あの子、元気ないな」

「ああ、そりゃ好きなおじいちゃんの復讐なんて……」

「……分からなくは無いがな。なんとも言えないな」


 その時、少年院内に放送が鳴り響く。


『院内に侵入者発見、直ちに捕まえよ』


 看守達は急いで外へ向かっていく。


「ったく誰だよこんな時に」

「少年院に来てまで何する気だよ!」


 ドタドタと騒ぐ足音も、諏訪信之にとってはなんてもない物だった。


 その時、どこからともなく、部屋の前にある人物が現れた。


「……お前は」

「やぁ、諏訪信之君」


 怪盗シャドウだった。


「……笑いにでも来たか」

「違うよ、ちょっとしたプレゼントさ、本当はこんな所じゃなくて、君の部屋にプレゼントしたかったんだが、まぁなんとか刑期を乗り越えたまえ」


 怪盗シャドウが指さす方向には、油絵の道具が揃っていた。

 そして、『親子』の絵が置いてあった。


「……まさか」

「そうさ、この絵を狙ったのも、本来の持ち主である君に渡す為さ」

「嘘だ……」

「怪盗は嘘をつかない」


 諏訪信之は絵を目の前にして、大粒の涙を流した。


 その後、少年院の廊下に少しずつ絵が置かれるようになったのは、また後の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る