学園連続狙撃事件 ③

 2年A組には碧が潜入捜査をする。

 ここは被害者のクラスらしく、重たい雰囲気かと思われたが、そんなことは無かった。

 むしろ今まで通りという雰囲気で、転校生である碧に目を向けている。

 校長の日下部高雄が殺人事件という情報を公にしていないらしく、知らない生徒が多い様だ。

 一応起きた翌日は休校になったが、そこまで大事にならなかったらしい。


「今日から2年A組の生徒になります。南碧です。よろしくお願いします」


 教室に拍手が鳴り響く。

 碧は転校生ってこんな気分なのかと少しウキウキしていたが、仕事である事を自覚し、心を引き締めて、担任に指定された席に座る。

 すると早速、隣の女子生徒が声をかけてきた。

 茶髪のショートボブで、向日葵のような明るい印象を受ける。


「碧ちゃん、私、百々谷佳奈ももやかなよろしくね」

「よろしくお願いします」

「かったいなー、もっとリラックスしていいんだよ?」

「あくまでしg……勉強をしに来てるので」


 碧はあまり年下が好きではなかった。

 自分より幼くて何かと面倒だと思ってしまう。

 なのでできる限り後輩を作りたくないのだ。


「もしかしてガリ勉ちゃん? その割にはオシャレしてるけど」

「流石に身だしなみ位はします」

「背もちっちゃくて可愛い」

「可愛いってちょっ」


 碧が顔を赤らめると百々谷はにやけて頭を撫でる。


「……年下のくせに」

「ん? なんか言った?」

「い、いえ。なにも」


 その頃2年D組では東間が自己紹介を終わらせ、席につき、とある男に絡まれていた。


「やぁやぁ、はじめまして、東間君。君はどういう家系なんだい? 社長の息子? それとも僕と同じ俳優の息子かな?」


 やや美形のその男の名は宮部陽介みやべようすけ。俳優の息子らしい。

 東間はそれを聞いた途端にこいつはうぜぇと確信していた。


「……一般家庭で育ってますが何か?」

「おや? こんな所じゃ珍しいねぇ、ここだと生徒会長位だよ? 庶民の子は」

「庶民って単語を素で使うやつを俺は初めて見たよ」

「んまぁ、この優しい僕が言っておくが、君みたいな粗暴な子は他の生徒に喧嘩を売らない方が身のためだよ。暴力でやったら権力で潰される。それがここなんだ」

「なるほど、要するにここはボンボンの集まりか」

「まぁその言葉が見合うやつもいれば僕のように七光りを嫌う奴もいる。だからかあんまり素性を言うやつは少ない。どこかで盗み見られてバレるか、自分から言うか、その2つだな」

「ふーん、お前お父さん嫌いなの?」

「いや別に、ただ俳優になりたい僕としては、親父の力を借りるつもりは無いってだけさ」


 午前の授業を半分寝て、半分聞いて過ごした後東間はとりあえず廊下に出て、周りの人を見渡す。

 たしかに皆同じ制服ではあるが、羽振りが良さそうな奴は何人かいる。

 しかし、この中に殺人犯がいるのは確かなのだ。

 東間は校内を回ることにした。

 すると、宮部も自然と付いてきた。


「おいおい、庶民が勝手に出歩くとろくなこと無いぞ? 学食なら1階だよ」

「ああそうかよボンボン、ひとつ聞きたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「この前起きた殺人事件なんだけど」


 その言葉を聞くと、宮部は慌てて、誰もいないような廊下の隅に東間を連れていき、真剣な眼差しで東間を見る。


「そのことは口にするな、

「……えっ?」


 その頃、碧は。


「へぇー碧ちゃんって空手してたんだ」

「まぁ中学の時は県大会とかで優勝してたし」


 食堂にて、百々谷主催による女子生徒達の転校生の歓迎会が行われていた。

 意外と碧は女子生徒のウケが良く、すぐに囲まれ、女子達に可愛がられて、お菓子やジュースが大量に差し出されるという皇帝のような状況になっていた。

 碧はとてつもなく困惑したが、女子生徒達に嫌われるよりかはマシなので受け入れていた。

 ちなみに女子生徒達はちっちゃくて可愛いのでまるで妹のように接している。


「碧ちゃんってカフェとか行く?」

「……いや、特に行かないかな」

「へぇー! それじゃあさ、おすすめのカフェが近くにあるんだけどさ。そこ行かない?」

「なんて名前の店なの」

「サンライズって言うんだけど」

「サンライズ!?」


 碧が驚きの声をあげると百々谷はもっと食いつく。


「えっ?! 知ってるの!?」

「えっまぁそのバイトしてたというか……」

「そうなんだ〜! あそこの店主かっこいいよね! なんかクールって言うか、優しくて」

「そ、そうね……」


 流石に特殊捜査課とは言えないが、カフェとして業績はあるんだと実感した碧だった。

 歓迎会が終わると、碧は大量のジュースとお菓子をカバンに詰め込み、中庭を通って次の授業が行われる教室へ向かっていく。

 中庭は上空から見ると長方形で周りが石畳の道で内側に芝と木々が点々と立っている。


「これ……どうしよ」

「飲めば?」

「うーん……あれ?」


 碧は中庭に一つだけおかしい物を見つけた。


「何であの木だけ、周りに柵があるの?」


 中庭の木は柵はなく、碧が指さした木だけが、柵で囲まれているのだ。

 それを聞くと、百々谷の明るい顔は一変し、暗い表情になった。


「あそこは……知らない方がいい」

「何かあったの? 教えてよ」

「……

「自殺……」



 学園の校舎に、暗く、重たい影がのしかかる。

 碧はこの学園には、闇があると、確信した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る