学園連続狙撃事件 ②

 私立日下部高等学校しりつひさかべこうとうがっこう

 日向市にある高校の中でも指折りの名門校であり、わざわざ県外から来る者や国外から来るものもいるほどである。

 ここを卒業する者の大半は政治家や社長、中には著名人になる事が多く、将来有望な若者が多い。

 大きな時計塔がそびえ立つ校舎の前に立ち塞がる門を、東間悠と南碧はくぐろうとしていた。

 2人とも、制服の格好で。


「……これからハイスクールライフが始まるのかぁ」

「ちょっと待って!? なんで私も生徒なの?! 普通は私は教師で潜入するんじゃないの!?」

「仕方ないだろ、北崎が男女1着ずつ持ってきたんだから、教師の方々も俺らが潜入捜査してるのは聞いてるみたいだしな」

「それでも20歳超えてこの格好は……」


 日下部高校の制服は男子は上はブレザーの下にワイシャツを着て、ネクタイはつけてもつけなくても良く、東間はネクタイをつけないでワイシャツの1番上のボタンをひとつ外して着ている。女子はスカートで上は男子とほぼ変わらない。

 しかし、何の因果かスカートが膝下ギリギリで碧は恥ずかしかった。


「はぁ……まさか仕事で制服着るとは思わなかった……」

「まぁ良いじゃねぇかよ。転校生で来てんだから。事件解決したら着ないんだし。にしても北崎センスいいな、膝下ギリギリのおかげで太もものチラmグッホォ!」

「やめろこのエロガキ!」


 碧の鉄拳が東間の頭に炸裂する。

 そんなこんなで校門をくぐり、中に入るとさっき居た所とは全く違う景色で、まるで異世界の様だった。

 いつものように校舎へ向かう生徒が朝から会話を弾ませながら玄関で靴を履き替える。

 しかし、2人は教室ではなく校長室に向かった。

 流石に名門校なだけあって校長室は東間や碧が見るようなちょっと威厳のあるような物ではなかった。

 そんな見掛け倒しではなく、国王でも居るのかと思える程の重厚な扉が建付けられていた。


「……ここ?」


 東間が碧に確認をとると、碧は唾を飲み込んで頷く。


 2人は恐る恐る入ると、中はもっと凄かった。

 コーヒーでもこぼしたら十数万単位の弁償を求められそうな赤いカーペットに、傷をつけたらこの学校を出禁にされるのではないかと思える高級感溢れる机、そして脚をおったら首が飛びそうな上品なソファが置いてあった。

 その後ろは校長の机だろうか、金で出来た馬の像が置いてある。

 触るのに手袋が要りそうだと東間は思った。


「よく来てくれました。特殊捜査課の皆さん。私はこの高校の校長の日下部高雄ひさかべたかおと申します」

「「は、はい」」


 パッと見四角い黒縁のメガネをかけた小太りの優しいおじさんなのだが、2人にはこの国を統治する殿にあっている気分で内心ビックビクである。

 高雄は特に何も考えていない。むしろ来てくれてほっとしている。


「早速なのですが、お2人には潜入捜査をしてもらうという事で制服を着てもらいました。まぁ見れば分かりますが。それで捜査をして貰いたい内容なのですが」

「「は、はい」」

「あまり固くならずに……お茶でも」

「「あ、ありがとうございます」」


 2人は未だに硬い。それはまるでコンクリートの様に。


「実は、我が校で


 2人は驚いた。

 あんな平和な高校で殺人事件が起きたのかと、ありえないと思っていた。


「先週、我が校の生徒ひとりが頭を撃ち抜かれたんです。それで警察に調べてもらったのですが銃創に残った線状痕がどこの銃の弾丸にも一致せず、何より撃たれた後に付くはずの地面の弾痕も見つからないのですよ」


 東間が碧の耳元で話す。


「おい、なんだ銃創と線状痕って」

「銃創って言うのは銃弾で身体を撃ち抜かれた時に身体に出来る傷のこと。線状痕って言うのは弾丸が放たれた時に弾丸に出来る傷の事よ、無論、それは体にも付くことになるから、そこからどんな銃を犯人が使ったか特定出来るの。だから線状痕がどの銃にも一致しないってのはおかしい話なのよ。まぁ自作の銃とかなら話は別になるかもしれないけど」

「とにかく、この怪事件を解決できるのはあなた達だけなんです。どうかよろしくお願いします」


2人は校長室を後にし、それぞれの教室に向かった。


その頃、喫茶店サンライズでは、北崎が閑古鳥が鳴く店内を眺め、コーヒーを飲んでいた。

手元には数枚の資料を並べていた。

その資料は14年前のとある事件だった。


『S-101号事件 資料』


北崎は紙を1枚めくる。


『被害者 南春香みなみはるか死因 毒殺

容疑者少女A 事件発生時刻午後11時半 』


淡々と書かれた文章を読んでいくと、北崎の手は次第に震えていき、資料を手放した。


「……あいつは、絶対に許さない。何があろうと」

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