始まりの事件 ③

 影乃海賊はそう言うと、怪物に切りかかる。

 かなりでかい図体である影乃復讐者は素早い影乃海賊の動きに翻弄され、なかなか攻撃が出来なかった。


「この……喰らえ!」


 影乃復讐者は地面に拳を叩きつける。

 影乃海賊は一瞬地面の揺れでたじろいだ。


「死ねぇ!」


 影乃復讐者は影乃海賊に拳を放つ。

 影乃海賊は吹き飛ばされ、電柱に背中をぶつける。

 影乃海賊はその場に倒れると、泥のように解けていき、東間の姿が現れた。


「あ、あなた! なんでここに!?」

「説明はとにかく逃げるぞ!」


 影乃復讐者は碧に向けて拳を放つ。

 碧はそれを間一髪で避けるも、衝撃で地面を転がり、黒いスーツは土埃まみれになる。

 それでも影乃復讐者は攻撃を止めない。


「早く、逃げろ!」

「そんなこと言ったって! あなたをほおってはおけません!」


 その時、またあの声が脳に直接響き渡る。


(使え……)


「なんなの……」


 街灯に移された自分ではない戦士のような影。

 今、死ぬかもしれないという状況だと言うのに、影は何を訴えているのだろう。


(私を……使え)


「なんなのよ!」


 また影乃復讐者の拳が振り下ろされる。

 この拳で電柱は砕け、電線が垂れ下がり、火花が飛び散り、碧は火花を避けようとまた倒れる。

 それを狙って影乃復讐者は碧に向けもう片方の拳を放った。


「逃げろぉ!」


 東間は叫ぶが、その声は届かず、碧は拳に下敷きになってしまった。


「……終わりね」


 影乃復讐者が拳をあげると、血まみれになって倒れた碧が居た。


「おい! 起きろよ女子中学生! おい!」


 東間は駆け寄ろうとするが、先程の攻撃で足をくじき、上手く歩けない。

 そんな東間の叫びにも、彼女は答えなかった。



 碧は黒い空間にいた。

 とは言っても、暗闇で一寸先も見えない訳ではなく、周りは見渡せる。

 しかし、どこまでも続く平らな地面で、水平線も見えない。

 すると、目の前に顔が真っ黒な女が現れた。

 のっぺらぼうのように顔のパーツが無く、まるで墨でべっとり塗りつぶされた様になっている。

 それ以外はほとんど碧と変わらないのが碧にとって余計不気味に感じた。


「……死んだの?」


 碧は目の前の彼女に聞いた。


「……死んでない。ここは心の底」

「心の……底?」


 彼女は答える。


「……私を受け入れられる?」

「受け入れたら、元の場所に戻れるの?」

「私はあなた、あなたは私。受け入れれば、私とあなたは1つになり、影の力を手に入れる。そうすれば、あの怪物も」

「……倒せるの?」

「そう、だから私とひとつになる?」

「……わかった」


 碧が答えると、目の前は真っ黒になり、碧は気を失う。


 再び目を覚ますと、そこはさっき居た丁字路だった。

 目の前には影乃復讐者が、東間は再び影乃海賊となり、戦っていた。

 しかし、最初のように素早い斬撃はなく、攻撃を与えるだけでも必死で、見ていられない。

 碧は立ち上がった。

 もう体は動けないほどボロボロだったはずだが、何故か痛くない。

 影乃復讐者は碧が立ち上がったのに気づくと、胸ぐらを掴んでいた東間をほおり投げた。


「あなた……なぜ動けるの」


 碧は拳銃を構えるポーズをした。


「……投影」


 そう言うと、碧の影は身体を包み込んだ。

 そして碧の手には拳銃が現れ、全身武装の戦士に変わった。


「……影乃警察シャドウ・ポリス


 変身が解けた東間は変化した碧の姿に驚きを隠せなかった。


「お前……使えたのか!?」

「いや、初めて」


 そう言うと碧はすぐに拳銃で影乃復讐者を撃ち抜く。

 的確に胴体に2発命中し、影乃復讐者は痛みに耐えかねて膝をつく。

 その隙に碧は間合いを詰め、膝蹴りを顎に放ち、影乃復讐者を空へ突き飛ばす。

 空中に吹き飛んだ影乃復讐者に弾丸を5発当てる。


「その罪を……裁く!」


 銃口に黒い玉が現れると、膨張をはじめていく。

 だんだん大きくなるにつれ、黒い電流の様なものが流れていく。


絶対断罪砲ジャスティス・シュート


 射線上に来た影乃復讐者は放たれた黒いエネルギーの塊に激突し、爆発した。

 影乃復讐者は数十メートル先に吹き飛ばされ、影はガラスのように粉々に粉砕され、ボロボロの女の人の姿があった。


 その後、社長の妻は逮捕され、碧は全治1週間の怪我をしてしまった。

 碧は病室の窓から見える景色を見ながらぼぉっとしている。

 あの時の手の感触が何となく忘れられない。

すると、東間が果物の籠を持って東間がやって来た。


「お見舞いに来ました〜」

「……何よ」

「いや〜あのさ、あん時はごめんな、いきなり手を繋いだりとか、そりゃまぁ20歳超えてりゃ大丈夫なのかな……」

「……ちょっと良かった」

「……え?」


碧は東間から目線を逸らしてつぶやく。


「……は、早く帰りなさいよ!」

「……わかった」


東間は顔を赤らめて、せかせかと病室を出ていく。

そして、東間は病室の前で握った右手を見る。


「……ま、まさかね」


東間ほぎこちない動きで病院を去っていった。

2人の難事件恋愛は始まったばかり。

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