始まりの事件 ②

 後日、碧は関係者に話を聞くことにした。

 主に金融会社の人間が主だが、やはり誰がやったなどの重要な証言は無かった。

 しかし、金融会社の社長に恨みのある人物はいるという情報を掴み、今はその男を追っている。

 男は現在パチ屋に入っており、店内で碧は様子を見ていたが、特に何か怪しい事はしておらず、そのまま店を出ていった。

 そして街中を散策していたが、怪しい事は何もしていなかった。

 こうして時は過ぎ、日は沈み、男は住んでいるアパートの部屋に戻って行った。


「何も無い……か」


 すると、視界が塞がった。

 よく見ると手なのがわかる。


「だーれだ」

「セクハラですよ、辞めてください」

「堅いこと言うなよ〜」


 東間悠だった。


「とにかく、私は今仕事中なんです。辞めてください」

「まぁでも、社員の中に犯人がいるって線は俺と同じだろ?」

「そうですけど……」


 東間はチャラチャラしながらも一応それなりに情報は掴んでいるのがわかった。


「……でも動機が分からないんです。あの男は確かに社長さんに冷遇されていたり、パワハラを受けていたりはしているけど、殺害時に同僚と飲んでいたっていうアリバイがあるのよ……」

「そんな行き詰まりの女子中学生ちゃんに取っておきの情報教えてあげようか?」

「私は女子中学生じゃありません。南碧です、私もう24です」

「へ〜あっ俺17」

「えっ!?」


 唐突な年齢暴露に流石に碧も驚いた。


「ちょちょっと! なんで未成年なのに警察に協力してるのよ! 学校は!?」

「あー俺高校行ってねぇから」

「まぁ……事情はあまり聞かないけど」


 すると、男が部屋から出てきた。


「おっ出てきた出てきた」

「邪魔しないでくださいね」

「了解」


 男は道を歩いていると、ある丁字路で止まった。

 2人は電柱の裏で感じを続けている。


「なーにあそこで止まってんだあいつ」

「なにかの取引でしょうか」

「……まぁそういう感じか、あそこ闇金融らしいし」

「!? なんでそんなのを先に言わなかったんですか!?」

「いや雰囲気でわかるだろあんなの!」


 2人の会話に男が気づいてしまった。


「おいゴラ、何てめぇら見てんだ」

「「はい!?」」


 東間はすぐに碧の手を掴んだ。

 それぞれの指を交互に掴むように。

 その握り方は俗に言う恋人繋ぎである。


「いや〜ちょっとデートをしてまして……」

「えっちょ」


 東間は碧にしか聞こえないように耳元で囁く。


「合わせてくれ、尾行だとバレたく無いんだろ?」

「で、でも……」


 男はタバコを吸いながら2人を舐めまわすようにみる。


「スーツ姿でデートなんて珍しいやっちゃのう〜」

「あはは、私仕事帰りでして……」

「ほーん、ならあっち行けや、あっちにバーがある。あっちで飲んでな」

「「は、はぁい……」」


 2人は男が見えない所まで行った。

 碧は即座に恋人繋ぎを辞め、東間を問い詰めた。


「な、何やってるんですか! 急に情報を漏らしたり、何より……は、恥ずかしいじゃないですか!」


 碧は顔を赤らめて怒るが、東間は手を気にしていた。


「聞いてます?! 何手を見てるんですか!」

「いやそれ以前にあんた握力強くね? めっちゃ痛いんだけど」


 碧は頬を膨らませて、東間にビンタを一発放つ。


「もういいです! あなたとは協力しません! 若い子は帰る! 良いですね!」


 碧はそういうと東間の元を去った。

 東間は赤く腫れた頬を抑えるのでいっぱいで何者出来なかった。


「クソいてぇ〜、あいつ大丈夫か……この事件、のに……いってぇ〜」


 碧は再び男を見ていると、男は着物の着た女といた。


「……あれは、社長の奥さん」


 男の懐から出てきたのは札束だった。


「ありがとよ、奥さん。どうやったかは知らねぇが、あのクソ野郎殺してくれてほんま助かるわ」

「あらそう。あなたが出世すると為なら、私は何でもしてあげるから……」


 碧は驚きで声が出なかった。

 確かにあの男は主犯だ、しかし、実行犯は彼女なのである。

 碧はその真実を受け入れ、2人の元に駆け寄り、警察手帳を見せる。


「てめぇ……サツか!」

「ええ、警察です。御二方、ちょっと署まで来て貰っていいですか?」


 男は焦って逃げようとするが、碧がすぐに取り押さえた。


「がっ……おいあんた、早くこの女を!」


 男が助けを求めるが、彼女は何もしなかった。

 それどころか、彼女は男を嘲笑する。


「あんたみたいな男、誰が信じると?」

「……は? てめぇ何言ってんだ!」

「あなたの出世なんてどうでもいいのよ。私はただ……あの金融会社を潰したいだけ」


 すると、彼女の影が伸びあがり、彼女を包み込んだ。

 そして彼女は筋肉の塊のような怪物に変わった。

 あまりにも非現実的な光景に碧は力を緩めてしまい、男は悲鳴をあげて逃げてしまう。


「逃がさないから」


 怪物は濁った声でそう言うと、男の目の前に立ち塞がり、男の頭を片手で持ち上げた。

 そして片手で男の頭はトマトのように握り潰された。

 周りに血や脳の欠片が飛び散る。

 碧には、これが事務所内でも起きたというのがはっきりイメージ出来た。


「この男はもうおしまい……次は、

 碧は腰を抜かして、震えていた。

 怪物は右腕を振りあげて、彼女を叩き潰そうと振り下ろす。

その時、横から何かが現れ、怪物の右腕を弾き飛ばした。

怪物は反動で倒れ、地面に背中を叩きつけられる。

碧を助けたのは、三角帽子を被り、コートを纏い、両手にはカットラスと呼ばれる、やや刀身が曲がっている剣を持っていた。

その姿は海賊そのものだった。


「……やっぱり影の仕業か、見た目から……影乃復讐者シャドウ・リベンジャーって感じかな」

「お前……何者だ」

影乃海賊シャドウ・パイレーツ。さぁ、爽快に行こうか」


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