事件file1 始まりの事件

始まりの事件 ①

 その後、男は逮捕され、碧は警察にその時の情報を伝えた。


「いや〜男も不幸だね〜。碧ちゃんの背負い投げ喰らっちゃうとは」


 刑事課の上司の男は紙パックの野菜ジュースを飲みながら、連行されていく男を見てボヤいた。

 碧は情報を伝えた後、上司のパトカーに乗せて貰って、日向署に戻る事にした。

 車に乗っている間、彼女はとあるものを目を通していた。


「なーに事件の資料見通してんの?」

「この事件、おかしいと思いませんか? 被害者3名は全員頭を潰されているんですよ。鑑識によると、タイヤで頭を轢かれたとかではなく、手で握られた痕跡があると言われていますし……明らかに人間の仕業とは思えません」

「ああ、あのヤマか、金融会社の人間が次々と殺されてる奴ね。また新しい被害者が今朝発見された」

「えっ、本当ですか! すぐに行ってください!」

「えっ署にもd」

「早く!」

「はいっ!」


 上司はすぐに進路を変更した。


「相変わらず怖い後輩だなぁ……」


 こうして、パトカーは金融会社のビルに着いた。

 ビルとビルの間に挟まるやや古めのコンクリートのビルで、2階が事務所になっている。

 2階に直接繋がる階段には黄色い規制線が貼られ、そこをくぐって2階に向かい、事務所に入ると、そこには、鑑識と思われる人が現場の証拠を探している。

 そして、奥にはブルーシートに覆われた死体があった。

 碧は一礼をしてからブルーシートをめくると、椅子に座った頭の無い茶色いスーツ姿の死体が机に伏せて寝ていた。

 もう死んでから結構立っているのか、腐った匂いが事務所に立ち込める。


「これまた酷いですね……」

「ああ、今回殺されたのは金融会社の社長だとよ、半年前に結婚した新婚さんだってのに、これじゃ残された妻は可哀想だよな」


 碧は死体に近づく。

 机の周りには脳の欠片と思われる物が落ちており、握り潰されたのだろうと推測できる。

 流石に碧でも、この死体は見るに耐えない。

 あまり見たくは無いものの、仕事として見なければと思い、死体を確認した。


「犯人の目星ってついてますか? 警部」

「いや全く、会社の人間が怪しいとは見ているけど、どうもアリバイがあってね」

「そうですか……」


 その時だった。


(……私を)


 その声は自分とそっくりだった。

 碧は驚き、周りを見回すも、誰も喋っている様ではなかった。


「警部、今なんか女の声が聞こえませんでしたか?」

「女? 何言ってんの、碧ちゃんだけだよここにいる女の子は。疲れてるんじゃないの?」

「……そうですか」

「現場は逃げないよ、今日は休みな。入ってきてもう半年になるけど、自分の街だからって焦ってない? 碧ちゃん真面目だから」

「……わかりました」


 碧は事務所を出ようとすると、スニーカーに短パンとTシャツのラフな服装のチャラそうな茶髪の男が事務所のドアを開けて入ってきた。


「よっすー、八尾やおさん」


 八尾とは、碧の上司の刑事の名前である。


「おっ、東間あずま。好きに見ていいけどあんまり荒らすなよ」


 東間と言う茶髪の男が現場に普通に入っていくのを見て、碧はすぐに彼の目の前に立ち塞がった。


「ちょっとちょっと! あなた何勝手に入ってるんですか!? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

「まぁまぁまぁまぁ、碧ちゃん。その子通していいから」


 東間は八尾の言葉を聞くと、碧の頭をポンポンと叩いて死体を見に行く。


「八尾さん、いつからこんな女子中学生を連れ回しんの。ロリコン?」


 東間は冗談めかして言う。

 それに碧は怒って警察手帳を見せる。


「半年前に日向署の刑事課に配属された南碧です! 女子中学生じゃありません!」

「にしても背低いね〜140?」

「148です! 低くで悪かったですね!」

「俺172〜」

「なんの自慢ですか!」

「んじゃ死体を見させてもらいま」

「待ちなさい! あなた何者ですか!」


 八尾は碧をなだめてから


「彼は東間悠あずまゆう、特殊捜査課の協力者だよ」

「特殊捜査課って、あの?」

「そうそう。不可解な事件を解決する部署だよ。全容はわからんけど。あとはあいつに任せとけ、こう見えて何個か犯人を捕まえてんだ」


 碧は東間を疑いながらもら現場を後にした。

 そして八尾に言われた通り、今日は家に帰ることにした。

 既に夕日が沈み、子供達が公園から家に帰っていくのが見える。


「なんなんだろ……あの声」


 すると、またあの声が。


(私を……)

「えっ!?」


 碧は周りを見回すが、やはり何もいない。

 余計疲れだと思い、碧は家に早く帰ろうと思い、歩く足を早めた。

そしてまた声が。


(私を……)


碧はまた周りを見渡す。

すると碧は驚く。

それは、壁に映った自分の影だった。

しかし、それは自分の形をしていなかった。

なにかの戦士のような、形をしていた。


(私を……使え)


碧は自分の声が不気味に聞こえた。

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