いにしえの印章

紫月 雪華

洞窟の先に

僕は、先祖から続く冒険者の家系の末裔だ。

僕が覚えてる限り、身内の冒険者たちは、冒険に出かけては財宝を手にして戻ってきていた。

そう、みんな命知らずなのになぜか悪運が強く、毎回生きて帰ってくる。

当時幼かった僕は、それが不思議で魔法にかけられているみたいだなんて思っていた。


実際、この世界では魔法という技術がある。みんな浮遊して空を飛んだり、色を変えたり、服を自動で着替えたり・・・。

不思議で便利で、冒険者の証とも言えるのが、この魔法という技術。この世界の常識で。


そんな冒険家の一族に生まれた僕は、当然のことながら魔法は――。

これぽっちもなかった。なにも発現しなかった。大体の冒険家は15歳までには、初歩の魔法の代表でもある、火を手から出したりするのに。

僕は、この一家の唯一の落ちこぼれだった。


コツコツと、薄暗い、奥から冷たい空気が流れてくる洞窟に入っていく。

ここは、蒼の洞窟と呼ばれている洞窟で、どこかにいにしえの国の印章が隠されているとか。


大した報酬はないけど、落ちこぼれの僕には大きなミッションだ。洞窟は途中から水没していて、綺麗な蒼色に光っている。

もちろん魔法のない僕は泳ぐしかない。

もちろんどこに印章があるのかもわからない。

もちろん魔物が出てもわからない。


それでも、僕は魔法なしで生きていかなければならない。どこかにある印章を探しながら、暗闇を手当たり次第に、でも今までの経験をもとに予測を立てていく。


魔法が使えなくても、この世界の常識から落ちこぼれでも、それでも僕は生きていくしかないのだ。

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いにしえの印章 紫月 雪華 @shizuki211moon

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