第19話 何故テレビから飛び出した? 推測その二

「その異世界人が映画の人物とそっくりなのは何故ですか? 異世界と映画、全く関係ないのでは?」

 部長が意味不明な事を言い出した時は、こうして鏡一郎が率先して質問してくれる。玲亜も気持ちを落ち着かせ話に集中した。

「それが関係あるのだよ、異世界人が映画の人物とそっくり、そしてそれだけでない、映画の内容そのものが異世界と同じ内容を辿っているんだ。国、歴史、気候、人、文化、出来事、事件、それら全てがぴったりと酷似してる」


「同じ……例えるならSF映画で宇宙人が地球に攻めて来たとして、それと同じ出来事が知らない異世界で起きたってことですか? 登場人物の容姿も名前も全て同じで、そんな偶然あり得るんですか?」

「無いとは言い切れないよ玲亜君、人類がこれまで生み出した映画の数は数えきれないほど膨大だ、もしかしたらその中に異世界とそっくりな内容を歩んだ作品があってもおかしくはない」

 そうだろうか、かなり無理があるのでは? と考えてしまうが、美左の言葉通り無いと言い切れないのも事実。


「さて、映画そっくりな異世界人が何故転移したのか、その理由を語る前に、テーマ出題者の玲亜君に聞きたい、君は異世界が本当に存在すると思うかな?」

「うーん、どうでしょう、存在すると断言できませんが……あったら面白いなとは思います、その方が夢がありますよね」

「そうだな私も同じ想いだ、では仮に異世界が存在するとして、それを周囲に証明する為にはどうすれば良いと思う?」

 投げ掛けられた問いに思わず口籠る、異世界の証明なんて当然だが不可能、地球とは異なる剣と魔法が溢れた幻想世界はフィクションの中のお話だ。それでも証明するするのなら。


「……やっぱりその異世界を実際に見せるのが一番だと思います、直接目にすれば信じる他ありませんから」

 それは玲亜自身が体験した事だ、あの日セリエルを目にしたことで、それまで半信半疑だった幽霊の存在を信じるようになったのだから。

「うむ、五感のなかで最も多く情報を得られるのが視覚からの情報だ、聞くよりも嗅ぐよりも遥かに優先される、直接異世界を見れば、それが存在の証明になるだろう。さて、この見ることを覚えたまま話を白百合ちゃんに移そう」

「白百合ちゃんて映画を見てただけの被害者じゃ無いんですか?」

 ここで杏子が軽く手を上げて聞く、白百合=玲亜のことだが、異世界転移と一体何の関係があるのか、玲亜自身はさっぱり分からない。


「映画を見てた事が重要なのだ、白百合ちゃんはとある異世界とそっくりな内容の映画を鑑賞していた、見方を変えるとこうも言える……彼女は映画を通して異世界の存在を、と」

「……観測?」

 それはあくまで想像の話、美左の仮定に過ぎない。だが僅かに低くなった彼女の声は重くべったりと鼓膜に張り付いた。


「白百合ちゃんは知らず知らずの内に異世界を観測した、見たということで異世界の存在を証明したのだ、そして証明した結果、現実世界と異世界に繋がりが生まれ、そこから干渉できる道が出来上がった」

 美左は軽く息を吐きカップを置く、気づけば彼女の話を三人は黙って聞き入っていた。

 

「恐らく映画はこちらとあちらの道を繋げる門の役割を果たしてる、だから異世界人はテレビから出て来たんだよ、意図して来たのか巻き込まれて来たのかは分からないけどな、ともかくこれがテレビから映画の人物が飛び出した件に対する私の答えだ……玲亜君」

「は、はい」

「君が望んだ答えは得られたかな?」

 美左は不敵な笑みを浮かべて玲亜を見下ろす、見慣れた表情の筈なのに。

「得られたと、思います」 

 かけた眼鏡の奥から覗く瞳は、笑っていないように見えた。


「そうか……では私の話は終わりだ! 鏡一郎君も杏子君もご苦労、最後に誰の話に興味を引かれたのか玲亜君に選んでもらおう」

 にぱっと笑顔を咲かせて美左は席に着く、いつもの変人オーラを纏い、瞳は凛凛と輝いている。

(気のせい?……)

 彼女の話と自分の現状をリンクして真剣に聞きすぎたせいで、見間違えたのかもしれない。談議を終え杏子は伸びをして、鏡一郎はコーヒーを飲み干す。

「はー何か難しい話でした、ちょっと頭が混乱してます」

「いつもの部長の話とはちょっと違ったな、さっきの十分間で考えたんですか?」

「いんや? 普段から異世界行きたいなーと思いを馳せてるだけだ」

「あ、そうすか」

「引きますね」

「杏子君ボソッと言うのはやめたまえ、就寝前に思い出して部長泣きたくなるんだぞ?」


 玲亜はいつもの部の空気に安心しながら時計を見る、時刻は十六時五十分、下校の時間がそこまで迫ってた。

「では玲亜君、誰の話が良かったかな? 遠慮なく選びたまえ」

「はーい、選ぶのは勿論鏡ちゃんです♡」

「え、あれ玲亜君!? 部長の話をあんなに真剣に聞いてたじゃないか! 今回は手応えを感じたんだぞ!」

「そうですね部長のお話はとても面白かったですよ、それはそれとして僕は鏡ちゃんを選びます」

「くっ、手強い!」

「何がだ?」


 わいわい騒ぐ他所で杏子はテキパキとカップを集めて、呆れた視線を先輩達に送る。

「黒百合先輩が阿流守先輩に投票するのは何時ものことじゃないですか」

 その後、部室を閉めて四人で校門前に向かう中で、玲亜は今日の談議を繰り返し思い出していた。

(夢か幻覚、テレビに憑りついた幽霊、そして異世界……全部、想像の話だけど、帰ったらセリエルに話してみよう、クリームたい焼きとティラミスどっちが喜ぶかな?)

 昨日と同じく校門で二人と分かれ、鏡一郎と並んで帰路に着く。

 

「玲亜君」

 突然名前を呼ばれ振り向くと、校門の前まで戻った美左が両手でカバンを持ち静かに立っている。

「いろいろと、気を付けてね」

「? はい分かりました」

(もしかして紅染の雷が近くに落ちた事、まだ心配してるのかな) 


 玲亜の返答に納得したのか彼女は笑顔で手を振り、黒髪を揺らしながら帰路を駆けて行った。

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