第18話 何故テレビから飛び出した? 推測その一

 十分間、熟考して答えを発表する時間が来た。

「まずは杏子君から、今回のオカルトテーマに対する理由を述べてくれ、愉快な答えを期待してるぞ」

「はーい、それじゃあ可愛い女子高生の一般的な意見を言いますね」


 〇解答者、星礼杏子の場合。

「その白百合ちゃん、夢でも見てたんじゃないですか?」

「いきなり夢の無い発言が飛び出したね」


 この談議を全否定しかねない発言に、玲亜はツッコミを入れる。

「いえいえ、適当に言ってるわけじゃありません、真面目な意見として白百合ちゃんが夢を、もしくは幻覚を見ていた答えを私は提出します」

「杏子君はリアリストだな、しかし夢の可能性も確かにある、ちなみに夢ではなく幻覚だとしたら、それを見た理由を説明できるかな?」

「そうですねー映画を見てたんですから、映像酔いからの眩暈でしょうか? 見てる画面がぶれて飛び出してるように見えたんです」

「何かそれっぽくなったな、オカルト要素はゼロだがそれなりに理屈は通ってる」


 感心する鏡一郎に頷き、杏子の解を改めて考えてみる。

 テレビからセリエルが飛び出し始まった、ここ数日間の奇奇怪怪な出来事は全て夢の中の出来事であり、自分は未だ自室のベッドで惰眠を貪っている可能性。

(幻覚……流石に映像酔いは無いよね、でもこれが本当に夢なら、起きれば解決するのでは?)

 試しに左頬を指でつまんでみた……痛い。

 もうちょびっと強めにつまんでみた……凄く痛い。

「何やってんだ?」

「理論を実証してみました」

「?」

 しかし変化は訪れない、只々頬が痛いだけ。ここは夢想の世界では無いらしい、頬が痛い。

 自信ありげに髪をいじる杏子には悪いが、夢の可能性は低いだろう。


「私はこれで終わりです、次は阿流守先輩どうぞ」


 〇解答者、阿流守鏡一郎の場合。

「そうだな、ここはオカ研(仮)らしく心霊系列の可能性を突いてみるか。元々、俺達の世界に存在する幽霊がテレビかBlu-rayディスクのどちらかに憑りつき、そいつが映画の人物に化けて白百合を驚かせた、つまりこれは悪霊が仕出かした悪戯イタズラだ」

「おお、君から心霊を語ってくれるとは部長感激だな」

「うんうん、つまりテレビの人物が飛び出したのは悪霊による錯覚、映画の人物が本当に出てきたわけじゃ無い、その点は杏子ちゃんの意見と似てるね」

「ああ、テレビから飛び出したソイツは自我を持ってるんだろ? テレビは只の機械だ、映像も光と液晶分子の組み合わせにすぎない、そこから魂を持つ存在が出て来るのはちょっと考えづらいな」


 今の意見は玲亜の心にすとんと入った。自身は今までセリエルは映画の中から出て来たのだと確信に近い思いを抱いていたが、テレビは機械であり映画は架空、そこから意志を持つ存在が生まれるなんてあり得ない。セリエルは幽霊ではあるが、はっきりと自我を持ちその内には魂が宿っている。

「だが映画を見る前から、外部から悪霊が憑りつき、登場人物に化けて、タイミングを合わせて画面から飛び出すふりをすれば、恐らく白百合は見間違えるだろうな、映画の登場人物が飛び出したと」

「成程ー、私のと違うのは幽霊が存在することが前提の答えって事ですね」

 

 鏡一郎の解が正しいのなら、セリエルを名乗る幽霊が映画の人物に化けて、玲亜を騙してる事になる。

(これは、どうだろう……数日の間にあの子が見せた感情は、多分どれも本物だった)

 初対面の時の零度の殺気と怒り、アイスを食べた時の喜び、交差点の悪霊を弄んだ時の冷酷さ。どれも嘘偽りの無い少女自身の素顔だと思えた。


 しかし本当に映画の中から来たとすれば鏡一郎の解と大きく矛盾する、自我を持つ少女は本当は何処からやって来たのだろう?


「まあ只の想像だがな、俺の話はこれで終わりだ、次は部長どうぞ」


 〇解答者、柊美左の場合。

「ふっふっふ、ではこの部長が大トリを飾らしてもらおうか。鏡一郎君と杏子君も内容は違ったが、映画の中から出て来ていない点については合致していた。実は部長が出す答えもその点については同じだ」

「鏡ちゃんの言っていた、映像からは魂は生まれないと部長も思ってるんですか」

「うむ、ぶっちゃけそこまで考えていなかったのだが、彼の説明に納得してしまった、無から命を出すなど賢者の石が必要になるからな確かに不可能だ」

 何の話? 三人が首を傾げても気にせず、美左はコーヒーを握り何故か立ち上がった。


「私の答えはこれだ、その人物は映画からはやってきていない、もっと別の世界から転移して来たのだ」

「別の……世界?」

 今までのとは遥かに角度のズレた答えに玲亜の思考は一時停止した。

「分かりやすく言えばだなパラレルワールドの一種、映画から魂を持つ人物が出ないのなら、魂が存在する世界からやってきたと考えればいい、つまりその者は異世界人だな!」

「ま、待ってくれ部長、いつものことだが話が突拍子過ぎて付いて行けない、その、なんだ、異世界? パラレルワールド? そこから人がやって来たってのか?」

「そうだとも、私が好きな異世界転移と言うものだ、次元の壁を越えて転移した来訪者、全く知らない世界に飛ばされた主人公はそこで現地のお姫さまやエルフと出会い、絆を育んで魔王を倒しに行くのだ!」


「あークラスの男子がそう言う本の話題で盛り上がってましたよ、トラックにぶつかったら別の世界に行けるんですよね」

「正確にはそっちは、転移では無く異世界転生だな」

 話が反れ始めたが、異世界転移が美左の答えらしい。玲亜は一瞬だけ成程ーと納得しかけるが、次々と疑問点が浮上して聞かずにはいられなくなった。


「部長、異世界人なのは分かりました、だとすればその人はどうしてテレビから出て来たんですか? 関係性を感じませんが」

「いい質問だ、だが答える前にもう少し情報を出そう、テレビから飛び出した異世界人は、映画の登場人物と容姿がそっくり所か鏡写しのように瓜二つだ、そして体格も服装も――名前も同じだ」

 追加された情報が小さな混乱を生む、困惑する三人を前に美左はぐいっとコーヒーを飲んで、にやりと笑った。


「そしてもう一つ、部長の答えで最も重要な役割を果たしているのは、映画を見ていた視聴者、白百合ちゃんだ。異世界転移の切っ掛けを作ったのは彼女だ」

 向けられた言葉にとくんと、心臓が大きく反応した。

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