第2話 それは雨の土曜日
『夢の二大巨頭、遂に激突! 荒れ狂う海原からの侵略者、迎え撃つは猛きサバンナの皇帝! でっかい牙、おっそろしい爪! 巻き込まれる人類に逃げ場無し! 海から空から地中から電子レンジから奴らはやって来る!! ビッグ過ぎるモンスター達の戦いの最中、男は愛する家族を守れるのか!? 今こそご当地最終兵器ロボットMOGUTA出撃の時、そして戦いの舞台はチョモランマ山頂へ、唸れ叫べ【ビームチェーンソー!!】 各映画祭で次々と賞を獲得、全米が唖然とした衝撃の問題作遂にBlu-ray化! 感動のクライマックスを見逃すな!
映画「ギャラクシー・シャークVSヤマタノオロチVS皇帝ペンギン MOVIE決闘GIGAMAX!!!!」 九月十三日――レンタル開始……君は、星の涙を見る』
「……ナニコレー」
液晶画面に映し出された映画予告に目が点となった少年『
淀みを見せないミルク色に近い澄んだ肌、前髪と襟足をギザギザのウルフカットで揃え、背中まで伸びたセミロングの赤みがかった栗色の髪。百六十五センチの細い体に身に纏う白の着物と足元に向かって膨らむ紅の
袴の前腰で結ばれたリボンと着物の白に刺繍された
「あははは! 何でサメが宇宙からやって来るの? 骨董屋のツボから出て来るヤマタノオロチって何? そもそもペンギンどこから出て来た、映像には居なかったよね!? ははっ、あーおかしー!」
白き肌が魅せる
「ふーっと、でも【ビームチェーンソー】はカッコいい? 男のロマンを感じるような、そうでもないような」
目尻に浮かんだ笑い涙を拭い改めてベッドの反対側、自室のドア側に置かれた二十四インチ液晶テレビに視線を戻す、映像は次なる映画の予告へと移り、テレビラックの中央に設置された大型家庭用ゲーム機は再生の音を静かに奏でる。
小さく、降り注ぐ音が外から聞こえた。
(雨強くなってきた、学校休んだ僕が言うのもなんだけど、皆気を付けて帰ってねー)
窓から見えるのは薄暗い曇天、小雨は程なくして本降りに進化。
土曜日の今日、玲亜が通う高校は午前中まで授業があったが、彼は体調の関係で休み十五時を過ぎた現在、のほほんと知人から借りたBlu-rayの映画鑑賞に興じていた。
数ヶ月前から始めた映画鑑賞は思いのほか楽しく、ド派手なアクションやSFを中心に見ていたが、今回は殆ど触れてなかったジャンルに挑戦する。
「ホラー映画か、部長が貸してくれた一品だけど、怖い系は全然見ないからなぁ」
まだまだ続く予告編を他所に、玲亜は隣に置くパッケージを見た。
白く書かれた映画のタイトルの元、暗闇の寂れた廊下の中央にボールを持ちながら佇む幼き少女が写された構図、前髪の隙間から覗く赤い瞳は確かに恐怖を掻き立てる要素がある。
パッケージの中からこちらを見る少女、淀みのない宝石の如き血の瞳から伝わる殺意、まるで外側に居る彼さえも刺し貫くような……チクリと胸に痛みが刺す。
「ごほっごほっ、ん、始まった、コーラにポップコーン準備良しっと」
気づけば予告は終わり、20thと某Hリウッドのマークが豪勢な演奏で表示され暗転。やがて暗闇の中から静かにオルゴールが聞こえ始めた。
(この音色、もしかして……きらきら星?)
映画『グラッジ・ホワイト――悪魔の瞳の少女霊(邦題)』
十四年前にアメリカで公開されたゴーストホラー映画。
舞台はカリフォルニア州の田舎町、一世紀以上前にとある事情から住民たちの手によって殺害された少女『セリエル』が現代に悪霊として復活を果たし、町を恐怖と血の惨劇に塗り替えていくと言うのが主な内容だ。
アメリカでヒットしたのであろう後に二作目、三作目と続編が作られ、玲亜はその三つをまとめて借りた。
物語の序盤、主人公の女子大生『ソフィア・ブラウンリード』の日常が穏やかに写される。
切れ長の目に高い鼻筋が魅力的な美女、ジーンズを着こなす長い脚に橙のシャツとシンプルに完成された衣装がお見事だ。そして綺麗に解かされた長髪は玲亜に似た栗色で輝きを見せる。
朝は両親と他愛もない言葉を交わし家を出るソフィア、友人達とのほのぼのとしたキャンパスライフが描かれる。友人女性二人との微笑ましい交友シーン、彼女に恋心を寄せるバスケット部所属の金髪長身イケメン青年が来週の試合を見に来てくれないか? と、果敢に攻めるが鈍感な彼女に笑顔で断られる涙のシーン。
特に意味の無い授業シーンはオールカットで、正午前を迎えたその時、大学へ二人の刑事が訪ねる、そして大学の責任者と面会した刑事はこう告げた。
『町はずれの山中にある古い館の庭にて、若い男性と思われる三人の変死体が発見された』と。
その三人はこの大学の生徒であり、今日無断欠席していたソフィアのクラスメイトだと言うことが判明した。そして偶然刑事に事情を聴かれた彼女は恐ろしい事実を知る、見つかった三人の遺体は全身の骨が折られ、首がねじ切られていたと。
まるで癇癪を起こした子供が小さな人形を力任せに破壊したような、異様な損壊だったと聞かされた。
ここから泥水がタオルに染み込むように日常が変化する、変死体が見つかった主のいない無人の館は町では呪いの館と恐れられており、近づけば不幸に見舞われると昔から言い伝えられていた。
この呪いの館こそセリエルが生まれ育ち、僅か十一歳で殺害された忌まわしき場所。
犠牲者三人は動画サイトのポイント稼ぎの為、面白半分で館に侵入。そして地下室にて老朽化で崩れた壁の隠し部屋からセリエルの骸が埋葬された棺を発見、蓋を開けた瞬間、この世界の全てを怨む幼き悪霊が解き放たれた。
三人を殺害した悪霊セリエルはソフィアの暮らす町に降り立ち、憎悪の赴くまま住民を無差別に襲い始める。やがてその血濡れの牙はソフィアと彼女の周りに接近して――。
「わわわ、先生そっち行ったらダメだって、確認とかいいから逃げて逃げてっ……うん……んっ!!?? ……あぁ」
悪霊少女が行う殺害シーンは趣向が凝らされており、当時のVFX技術も使われているのか多才で鮮やかなショッキングシーンが連続した、ホラーに耐性が無い玲亜はおっかなびっくりしながらも、しっかりと練り上げられた作品の完成度の目が離せなかった。
地面から人物の顔へ這い寄るカメラワーク、安らぎを与える小さな音から恐怖を教える金切り音への変化のタイミング、視聴者の意表を突く悪霊の登場と重なって起きるVFXによる空間演出。何よりセリエルを演じる役者の子の暗く重く何処までも静かに、それでも憎しみ溢れた演技が画面外の全てを凍り付かせた。
上映中、雨はさらに勢いを増し雲の彼方から小さな轟きが届く、お盆に用意したポップコーンは半分無くなりコーラは飲み干された。気づけば物語は終盤、惨劇を終わらせる為に根幹の館に乗り込んだソフィアと数名、探索の中、妨害を受け離れ離れになり一人になったソフィアは玄関広場でセリエルと対峙した。
(うわ首が爆発した、強すぎるよこの子、ソフィアはどうするの解決法がまだ分かってないのに)
クライマックスを見逃すまいと集中力極まる玲亜、彼の後ろの窓の向こうで曇天が赤く滲む。
階段で倒れるソフィアに止めを刺そうとセリエルは突撃。
――ほぼ同時に世界を二つに裂くような雷鳴が少年の鼓膜を襲った。
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