5、初めてのお友達


 「_______以上が今後の予定になっています。選択科目は来週の火曜日までに提出をお願いします。それでは、今日はここまで!」



 担任の須藤先生はハッキリとした話し方が好印象な先生だった。年齢は35歳、自己紹介の時に独身だと言っていたのが不思議なぐらい、好青年である。



 時計は15時半をさしている。終了のチャイムとともに騒がしくなる教室。立ち上がる面々の中にお馴染みの彼らもいた。


 「紗奈、いこーぜ!」

 

 紗奈の元へ一直線にやってきた航也は、このクラスへきてからも、まるでボディーガードの様に周りを固めていた。おかげで休憩時間に声をかけようとしていたクラスメイトはことごとく断念させられていた。

 ぱっちりと大きな黒い瞳を輝かせて立ち上がった紗奈は、航也の後に続いてやってきた潤も一緒に教室を出た。



 一年の教室が並ぶ廊下を歩き出した時、後ろから女の子の声が聞こえてきた。


 「あの!!」


 と同時に紗奈の手が掴まれる。驚いて振り向くと、そこには朝にサッカー部マネージャー希望の中にいた女子生徒だった。



 「私も、一緒に行ってもいい、ですか?」

 「それってもしかして……」

 「はい。私もマネージャー、やりたいんです!」


 拳を握りしめて、力強く紗奈にそう言い放った彼女は、迷いのない目をしていた。


 どんな理由があるかは知らない。それでも、向かう先は一緒。拒む必要などない。



 「そんなの私が決める事じゃ無いじゃない!一緒に頑張ろう!!」

 「っ、はい!!」

 「じゃあグラウンドまで早く行こう、私は新井紗奈よ、B組!貴方は?」

 「私はA組の立花優美たちばなゆうみです」

 「優美ちゃんね、同じ一年なんだから敬語は無しよ!」



 星光学園へきて、初めての新しい友達が

できた紗奈の足取りはさらに軽くなった。


 「そうだ、貴方達も自己紹介しなさいよ」


 他人事のように眺めている男子2人にむかって、紗奈は優美の背中を押した。


 「僕は山口潤、よろしくね立花さん!」

 「こちらこそよろしくお願いします!」

 「俺は……」

 「あの、知ってます。佐々木君、ですよね?見てました!あと、たまに試合も……」

 「おぉ、ありがとな」



 心なしか少し顔を赤らめる優美に気づいているのは潤だけで、あとの2人の心はすでにグラウンドに向いていた。



 「(ほんと、2人は変わってないな。鈍感というか何とゆーか……)」



 この先、サッカーだけで無く他の面でも苦労が絶え無さそうだと覚悟を決める潤であった……。





***

 




 グラウンドへ着くと、既に20人程の学生が集まっていた。その視線の先にいる中でも、ユニフォーム姿で軽くアップをしているサッカー部のメンバーが目立つ。

 青のユニフォームと白のアウェイ用のユニフォームに身を包む人たちがいる。あれが星光の伝統的な群青色、揃って歩く姿は、まるで海が波たっているように見える。


 「集合ー!」


  キャプテンの湊が声を上げる。すると一斉に新入生達の前に整列をした。そうぜい40人はいるであろう。その最前列に並ぶのが、青と白のユニに身を包む人達だった。



 「よく集まってくれた。これから入部届を配るので明日の朝担任に提出してくれ」


 その合図と共に、マネージャーの愛美が手際よく紙を配る。紗奈と優美にも手渡されたあと、その横に愛美は残った。



 「うん、配り終わったかな?今日は簡単な紹介と、明日の流れだけ説明させてもらう。全員は難しいので一部のメンバーのスタメンとサブだけこの場でする。あとはゆっくり覚えてくれ」


 湊は説明の後、皆に座るように合図をした。それにならい、全員が芝生の上へと座る。


 「じゃあまずは俺から。キャプテンの紺野湊だ。背番号は10番。よろしく」


 お願いします、と新入生が一斉に応える。

 U(アンダー)に招集されている紺野は、サッカーをしている者には有名で、その姿を生で見れて嬉しそうな新入生も数多かった。


 その後も順に自己紹介が続く。

 

 「俺は副キャプテンの武野恭介たけのきょうすけ。キーパーだ!お前ら、気合い入れてけよ!!」

 茶髪の襟足を少し刈り上げている彼は、口を孤にし、声を張り上げて腕を組んでいた。GK(ゴールキーパー)の為、彼だけはユニフォームではなく星光の校章が入った長袖の黒いジャージを着ていた。



 「じゃあ次は僕かな。はじめまして、小林智樹こばやしともきです。背番号は6番、主にボランチやセンターバックなどを担当しているよ」

 顎下まで伸びる透けるような綺麗なミルクティー色の髪をハーフアップにしている。上品に笑う彼は、物腰柔らかそうな人だった。



 「俺は五島明希ごしまあき、背番号は7。コバと一緒でMFだ。主にウイングが多い。筋トレの仕方なら俺に聞けよ!」

 不敵に笑う彼の口元には八重歯がきらりと光っていた。青みがかった髪をかき上げながらポーズを決める彼はガッチリとした体格で、その威圧感に多少なりとも怯んでいる一年も居そうだった。



 「はいはーい!じゃあ次オレね〜⭐︎大崎浬、二年F組!背番号は2!ポジションはDF、よろしく〜♪ちなみに彼女は居ないよん」

 一際目立つ青メッシュの彼は、お昼休みに紗奈達に絡んできた人だ。ノリの軽さにも驚くが、数多い三年生を抑えて背番号を、しかも2番を持っていることに皆が驚いていた。



 それからも4人、簡単な自己紹介を済ませて、ユニフォームを着る9人の名前を知ることとなった。そのメンバーは、お昼休みに食堂で集まっていたメンバーでもあった。



 「今紹介した9人が、既に決定されたレギュラーメンバーだ。明日は、残りの椅子をかけて紅白戦を行なってもらう。と、同時に一部と二部にもわかれる。そこで選ばれたメンバーは、来月行われる県内独自のリーグ、新人合流試合に出場してもらう!一年でも実力が有ればすぐにスタメンに起用されるから、全力で望んでくれ」



 ただの一部・二部を分けるテストでは無い。レギュラーの椅子をかけた争奪戦が、始まろうとしていた。

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