4、青メッシュの彼

 「学食も力が入ってて、さすがスポーツ校!!」


 紗奈と航也、そして潤は昼食を取るために食堂にいた。

 彼らの前に並ぶのはカロリーやタンパク質等が計算された学食名物、""だ。自分の希望するカロリーを選択できる等、学生自身も食事に対して考えるきっかけにもなっている、なんとも優秀な定食だ。



 「1ヶ月学食食べ放題券があるのもいいよね」

 「寮生が多いからこんなシステムにしたって聞いたよ」



 実は学食なんでも1ヶ月食べ放題券は、7000円で売られている。1日に何度使っても良いので間食にも使えるこれは、親達にとってもありがたく、寮生は同じ値段で特別に朝食も夕食もついてくる。何とも優しい値段設定だ。

 そのせいか、食堂は沢山の生徒で溢れかえっていた。



 


 「あ、いたいた〜!!」


 スポ根定食を頬張る3人の元に、聞き覚えのない陽気な声が飛び込んできた。



 「やっほい⭐︎君たちサッカー部に入部希望の子達だよね〜?」


 黒髪に青いメッシュの入った髪をした、制服を着崩している男子生徒はズカズカと割り込み、紗奈の隣へと座った。その向かいには航也と潤が目をパチパチさせている。


 サッカー部と聞いて、3人は先ほどのグラウンドの光景を思い出す。

 湊が前で話している時、その後ろの方でずっとリフティングをしていた人がいた……その人と、今紗奈の隣に座った人の顔が一致する。



 「もしかしてリフティングしてた人ですか?」


 紗奈がそう尋ねると嬉しそうに頷いた。


 「そうそう!オレ二年F組の大崎浬おおさきかいり、ポジションはDF(ディフェンス)、よろしくね、マネージャー♪」

 「私は一年B組の新井紗奈です。よろしくお願いします!」

 「一年B組ね、おっけい!たまに遊びにいっちゃおっかな〜」



 にこにこと人懐っこい笑顔で紗奈と握手を交わす浬に、睨みをきかす男が1人いた。



 「大崎先輩ですね。覚えました」

 「これはこれは、嬉しいねぇ、青獅子あおししの佐々木航也君に覚えて貰えるなんて」

 「俺も一年B組なんで、これからよろしくお願いします」

 「(それは手を出すなって事かな?)男にはオレ興味無いんだけどね〜」

 


 青獅子とは、航也のプレイを観ていた記者がつけたあだ名だった。中学生時代にはサッカー専門誌のジュニア特集で取り上げられた事もあり、その時に載せられていたのがこのあだ名だった。



 「大崎さん、潤ちゃんもサッカー部入部するんです!」

 「初めまして、山口潤です!!よろしくお願いします!」

 「どーも⭐︎でさ、紗奈ちゃんは彼氏いるの〜?もしかして航也が彼氏とか??」

 

 潤の尊敬の眼差しもひらりとかわし、直ぐに紗奈を見る浬は、いわゆる女好き。チャラチャラした奴だった。


 浬の質問に

 「違いますよ!幼馴染なんです」

と即答すると、満足そうに肩に手を回した。

 その動作に眉間の皺が深くなる航也。


 「そっかそっか〜よかった♪」

 「ん?何がですか?」


 肩を組まれても男の子の中でサッカーをしてきていた紗奈にはなんの抵抗もない。上機嫌な浬や不機嫌になる航也に理解できず、キョロキョロしていると、突然浬の頭の上にゲンコツが落とされた。



 ゴツンッ


 「イデッ!ちょっと何するんすか、キャプテン!!」

 「お前こそ何してんだ!後輩に絡みに行くなよ」


 ゲンコツの主はキャプテン、湊だった。



 「悪いな紗奈ちゃん、コイツ調子に乗りやすいから気をつけて。航也たちも悪かったね」

 

 湊は相変わらず爽やかな笑みを浮かべながら、紗奈から浬を引き剥がし、3人に謝った。



 「オレ何もして無いっすよ!ただ話しにきただけじゃん」

 「はぁ……周りを見てみろよ」


 さっきまでは自分達の会話に夢中で気にならなかったが、周りの視線が紗奈達に集まっていた。特に女子生徒は、黄色い声を上げる物もいて、頬を赤く染めたり、中には写真におさめようと隠し撮りする者までいる。そのお目当ては、湊と浬だということもよくわかった。


 

 『浬くん、キャプテンに怒られてるね』

 『そんな姿も可愛い〜!』

 『私はやっぱり湊さん推しだなぁ!』

 『ってかあの女誰?なんで浬くん達といるの?』

 『新入生?マジありえないんだけど」


 その中には友好的な眼差しだけでは無く、彼らと仲良く接している紗奈に敵対視する視線も含まれていた。


 「浬はもらっていくよ。食事中にごめんね。ほら浬立って。俺たちの席はあっちだろ!」

 「ちょ、襟を掴むな〜〜!!紗奈ちゃん!またね、遊びにいくね〜〜!!」



 首根っこを掴まれ引きずられていく浬を、苦笑いしながら見送る。

 その行き先を見ると、少し離れたところで異様な雰囲気を醸し出す集団がいた。



 「あれってもしかして……」


 潤が目を輝かせながらその集団をみていた。


 「あぁ。多分サッカー部、しかも一部の奴らだろうな。オーラ半端ねぇぜ」

 


 航也は闘争心を剥き出しにして、顔をニヤつかせていた。


 「航也、あそこに入る気満々でしょ?」

 「当たり前だろ。スタメン以外考えてねぇ!」


 そんな航也にエールを送るように、背中をバシッと叩いた紗奈は、満面の笑みを浮かべていた。



 「奪ってやろう!レギュラーの座を!」




 

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