3、入江愛美


 部活勧誘の道を抜けた紗奈・航也・潤の3人は、航也先導のもと、グラウンドへと到着する。目の前に広がるのは、青々と輝く人工芝のフィールド。



 「これが公立高校のグラウンド?!」

 「さすが星光学園だよね。数々の日本代表選手を輩出しているからこその設備!照明もついてるから夜でも練習やってたよ」

 「ってかお前本当になんも知らねぇんだな」

 「だって説明会の時はここまで入れなかったんだもん」


 美しい芝生に見入っていると、航也と潤は先にグラウンドへと続く階段を降り始めていた。

 その先に待つのは、青いユニフォームを着た選手達と、おそらく新入生だろうか、制服姿の2、30人はいるだろう人だかりだった。


 「あれが、星光学園サッカー部」


 胸がドクンと波打つ。紗奈は2人の後に続き、階段を駆け降りた。




 航也と潤に追いついた時には、もうグラウンドへと降りた時だった。

 先に集まっている人たちの視線が突き刺さる。



 「遅かったな、航也」

 

 入学式前に会った湊が手を上げながら駆け寄ってきた。軽く会釈した紗奈達は、湊に促されるままに人だかりへと案内される。


 「多分今年はこれで全員かな。良く来てくれたね」


 湊は新入生達の前に立ち、話し始めた。


 「俺はキャプテンの紺野湊だ。よろしく」


 湊の声にその場にいた新入生達は礼をしながら返事をする。

 

 「知ってる人もいるかも知れないが、うちは人数が多いので、一部、二部と分かれている。そのテストを明日行う。もちろん二年生、三年生も例外じゃないし、俺も参加する。高校の正式な試合に出場できるのは一部の選手のみだ。三年間二部のままだと試合に出られない可能性だってある。それでも入部を希望する者は、今日の16時この場に集合だ」


 皆の前で話す湊は、堂々とした顔で話していた。その姿はキャプテンそのもので、逞しい背中に惚れ込む者は少なく無いだろう。



 「マネージャー志望の人はこちらへ」


 少し離れたところから、肩で綺麗に切り揃えられた茶髪の女子生徒が手を上げながら歩いてきた。


 「はい!!航也、潤ちゃん、私行ってくる!」

 「おう、行ってこい」


 紗奈は2人に手を振りながら、マネージャーを呼ぶ女子生徒の元へと走った。



 



 「私は星光学園サッカー部マネージャーの入江愛美いりえまなみです。さっき聞いてくれてたと思うけど、うちは一部、二部と分かれているにも関わらずマネが少なくてね。今は私1人だけなの。ここにマネの仕事を簡単に抜粋して書いてあるから、それでもいいよっていう人は、同じく16時にグラウンドまで来てくれるかな?」


 紗奈をいれて五人の新入生がその場にはいた。

 不思議だった。選手もそうだが、マネージャーですら事前通告みたいな、まるで試されているような、そんな感じがした。



 紙に目を通すと、学校のある日の流れ、休日の流れ、練習試合のときの動き等事細かに書かれており、さらには選手の癖や強豪校のリサーチ等、まるでプロかと思うほどの仕事が書かれていた。

 その内容に青ざめ、ヒソヒソと話し始める他の生徒達とは打って変わって、平然とした様子で紗奈はその紙を折りたたんだ。



 「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 「えぇ、いいわよ」

 「どうしてこんな事するんですか?」

 「こんな事、って?」

 「選手達もそうですが、丁寧に前置きを説明して……まるで試されているみたいに。それがなんだか不思議で」


 紗奈は気になっていた事を率直に聞いていた。その質問に一瞬驚いた愛美は、すぐに眉を下げながら答え始める。


 「実は去年監督が変わったんだけど、練習のキツさに根を上げる人が続出してね。一部、二部と分けられたのもその時からなの。完全なる実力主義。お陰でまた全国大会に出場できるようになって成績も上がってきたのは事実なんだけど……何せここは公立高校、ユースや私立のように優秀な人だけを集めた集団では無いから、退部者が後を立たなくてね。そのせいでマネージャーも私1人になっちゃったの」


 紗奈はその説明で大体理解できた。サッカー部へミーハー気分で志望してきたマネはついていけないから今のうちに脅しておこうってことだ。


 「なるほど……わかりました!よろしくお願いします」


 元気よく紗奈は答えて、航也と潤の待つ方へと走り出した。

 その姿をみて残った他のマネ志望者はヒソヒソと耳打ちをしていた。



 「あの仕事量を見て何とも思わないってやばくない?」

 「私自信ないかも」

 「私もー……」



 そんな彼女達を愛美は横目に、肩をすくめて眺めていた。


 


 その後予鈴の音と共に解散となり、紗奈達も校舎へと歩き始めた。

 騒がしい部活勧誘の時間が終了した。


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