2、山口潤
「ねぇ航也!もう離してよ!」
「悪ぃ……」
湊と(無理やり)別れた後、体育館に着いた紗奈と航也は、掲示板の前で立ち止まっていた。
「せっかく紺野さんに会えたのに、あれじゃあ失礼じゃない」
「可愛いなんて言われて調子乗ってんじゃねーよ」
「乗ってないしー!あーあ。紺野さんは優しかったなぁー、流石将来有望な日本代表キャプテンだー」
「うるせぇ」
掲示板の前で言い合いを始めた二人を、好奇の目で見つめる新入生たちの中から一人、紗奈達に近づく者がいた。
「ちょっとお二人さん、痴話喧嘩は他所でやりなよ?」
「痴話喧嘩じゃない!!」
「そうだ、なんでこんなやつと……ん?お前、、確か……」
航也は見覚えのある彼の顔をみて、喉元で突っ掛かっている名前を思い出そうと頭を悩ませる。その答えを待ちきれずに、先に話し始めたのは声をかけてきた男子生徒だった。
「山口だよ!
「おおお!潤か!!お前引っ越したんじゃなかったのかよ?!」
「そうなんだけど、ここは寮があるからね。数日前から寮で過ごしてるよ。君は紗奈ちゃん、だよね?」
「……え、え、えーー!潤ちゃん?!」
「うん、正解。航也はすぐわかったけど、紗奈ちゃんはすれ違ってもわからなさそうだね」
「それって褒め言葉?」
「もちろん」
何とも和やかな雰囲気を纏う山口は、素朴な顔つきでつぶらな瞳をきゅっと閉じて笑った。
つられて紗奈も優しく笑う。
小学生の頃、どうしてもサッカーがしたいと両親に駄々をこねてようやく入部させてもらえたのが、当時住んでいたマンションの近くにあった"ラメールJr.サッカークラブ"だった。そこで出会ったのが、同じ小学校に通っていた航也と、隣の小学校に通っていた潤だった。
感動の再会を味わった後、三人で掲示板に張り出されたクラス表を見て、自分の席を探す。
「なんてゆう偶然」
「ほんとになー」
「僕たち、一緒みたいだね」
三人の名前は、1年B組の中にあった。
それを確かめたあと、一行は体育館の中へと向かっていった。
******
『これにて入学式を終了します。新入生の皆様は、F組から順番にゆっくりと退場して下さい』
長いと感じてしまう入学式が終わった後、端に座っていたクラスから順に外へと出ていった。
式典中は気づかなかったが、外が何やら騒がしい。
「ねぇ、なんか賑やかじゃない?」
紗奈は隣に座る航也に話しかけた。
「お前ここに入りたがってた癖に何にも知らねぇんだな」
「…かっちーん」
「今時それ口に出す奴いねぇぞ」
航也へと睨みをきかせていると、順番が回ってきたのかB組の面々が立ち上がる。つられて紗奈も航也も立ち上がり、列にならって外へと出た。その後ろに潤も並ぶ。
『女子バスケ部でーす!本日体験入部15時から第2体育館にて行いまーす』
『新聞部です!新入生の諸君、活字に興味はないかい??』
『テニス部でーーす!あ、そこの君!どうどう?テニス部!』
外へ出ると、在校生達が部活動のプラカードを持って花道を作っていた。
そこは校舎まで普通に行けば一分で通り過ぎれそうだが、今は人がひしめき合いなかなか前に進まない。
「すごい……」
「ここへ来た奴らはだいたい目当ての部活は決まってるんだろうけど、なにせ星光は推薦が無ぇからな。俺たちはまだどこにも所属していない優秀な人材、取り合いなんだよ」
「な、なるほど」
ビラを配る人たちが集まってくる。それは航也の元へも同様で、既に沢山のビラを抱えていた。
「航也人気者で大変だねー」
「それ褒めてねぇだろ。ってかお前も人のこと言えねぇから」
航也が紗奈の方を見ると、様々な部活からマネージャーへ勧誘しようと後をつけてくる男達が目に入る。
「あー、私サッカー部以外興味ないんで!」
紗奈は両手を合わせて謝るポーズを後を歩く人達に向けたあと、何事もなかったかのように前を向いて歩き出した。
その姿に航也は顔を緩ませる。
「よし、じゃあサッカー部まで行こうか!潤、もたもたしてっと置いてくぞ」
「もちろん!」
三人は花道を掻い潜り、その先にあるグラウンドまで一直線に走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます