恋愛フィールド!
山本翼
I .星光学園サッカー部!
第一節星光イレブン
1、幼馴染と湊くん
桜も先の春風により、桃色の絨毯が濃くなりかけている今日、星光学園は入学式を迎えていた。
おろしたての深い紺色のブレザーに身を包み、少し緊張も含まれる顔つきの新入生が列をなして校門を潜っていく。
その中で、さらさらとした黒髪を靡かせて上機嫌に歩みを進めるのは、
「やっぱり大きいなー!」
校舎まで続く道の途中で立ち止まり、目の前に広がる大きな
赤煉瓦色の校舎はこの地域でも歴史ある学校であり、文武両道を理念としており、スポーツに関しては全国でも名の通った名門校である。そのためか全国各地からの入学希望者も多い。
憧れの高校へと入学できた紗奈は、その嬉しさを味わうように深呼吸した。
「おい!紗奈!!」
「痛っ、何すんのよ!」
「お前がぼーっと突っ立ってるからだろ」
突然、紗奈の背中にバシッと衝撃が走る。顔を顰めながら振り向くと、そこにはニシシと悪戯に笑う
「喜びに浸ってたの!嬉しいんだもん、ここに入学できて……」
「お前ずっと言ってたもんな、星光学園じゃないと!って」
「そうよ、なんたって私の憧れの日本代表選手、
「はいはい、それはもう何回も聞いたよ」
紗奈はまだ幼き頃、テレビの中で世界と闘う勇敢なサムライブルーを見た。その中に絶対的エースと言われた選手がいたのだが、それが藤野浩輔だった。どんな時でも攻める姿勢を忘れない彼に心を奪われた紗奈は、彼の出身校であるここ、星光学園へ入学することが夢だったのだ。そして、今日、それが叶った。
「ナナちゃんも元気かな……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、なんでもない!」
無意識にボソリとつぶやいた紗奈の声は、航也のもとへは届いておらずそっと胸を撫で下ろす。
目を閉じると、トントン、トントン、とリズミカルなボールを蹴る音が記憶の中から蘇る。春になるといつも思い出す、もう顔もあまり思い出せない、彼の事……
ドンッ
前をよく見ずに歩いていたからか、紗奈は誰かに勢いよくぶつかってしまっ《》た。
隣にいたはずの航也も、いつのまにか知り合いに会ったのか側には居なかった。
「うわあっ!ご、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそごめんね。新入生?」
「はい!」
見上げると短髪の爽やかな男子生徒が立っていた。航也も背が183センチメートルと高い方ではあるが、この人も同じぐらいだろうか。ぶつかった感触で、体幹をしっかりと鍛えられていることにも気づく。おそらく何かしらのスポーツはしているであろう体つきだ。
爽やかな笑みを浮かべる彼をまじまじと見つめ分析していると、不思議そうに、困ったように首を傾げられた。
「そんなに見られると恥ずかしいな」
「すみません、つい。鍛えてるのかなーって思ってしまって」
「ああ、まぁ並には鍛えてるんだろうけど」
「あーーーーー!」
と、そこへ航也が勢いよく割って入ってくる。
「
「航也か!久しぶりだな、元気だったか?」
「もちろんっす、トレセンの合宿以来ですね」
「そうだな、お前なら飛び級でU-17に来るかと思ってたんだが」
「無茶言わないで下さいよ!タダでさえ化け物揃いの年代なんですから」
「確かにな、俺も去年は選ばれないかとヒヤヒヤしたよ」
目の前で繰り広げられる会話に目を点にして眺める紗奈は、紺野という名前を何度も頭の中で復唱する。
「紺野、こんの、コンノ……ってえーー!もしかしてU-17日本代表キャプテン、
「おっ、知ってるんだ」
「もちろんです!紺野選手の同点ゴール、からのPK!!素晴らしかったです!!」
「はははっ、結局ベスト8止まりだったけどね。君、サッカー好きなの?」
「はい!!星光学園のサッカー部マネージャーになりたくてここへ来ました!」
「そうか、こんな可愛らしい子がマネなら嬉しいな。これからよろしく」
湊はニコッと笑顔で手を差し出した。紗奈は興奮冷めやまない状態で、その手を取ろうとした時、急に隣から腕を奪われる。
「紺野さん、爽やかそうな顔して以外と手が早いんじゃないですか?」
「何の事?俺は挨拶しようとしただけだよ?」
さっきまで仲良く話していたはずの二人の間では、何やら火花が飛び散っていた。
何が起きているのか分からず二人を交互に見ていると、湊は口角を上げながら両手をパーにした。
「なるほどね、お前がユースの話を蹴ってまでここへ来た理由がわかったよ」
「……」
「え?航也ユースのセレクション落ちたって言ってなかった?!」
「知るか!もう行くぞ!!」
航也は紗奈の腕をガッチリと掴んだまま、足早にその場を去っていった。
残された湊は、二人の後ろ姿を眺めている。
そこへ背後から人影が現れる。
「なになに〜?もう入部希望者見つけたんっすか?」
語尾を上げ軽そうに話しかけてきたのは、前髪がアシメントリーに切られ、黒髪に一束青いメッシュの入った髪をした男子生徒だった。
制服は湊とは真逆に着崩され、片方の耳にはイヤホンが挟まれている。
「
「え〜!イヤですー。ネクタイつけてるだけマシっしょ?」
「はぁ……」
紺色のストライプのネクタイを摘んで左右にふりふりする彼の名は、
「今年は何人残るかな?」
冷やかすように呟いた浬の言葉に、湊は返事をせず、ただただ二人が人混みに消えていくのを眺めていた。
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