第6話 恋に滲む筆(筆)

彼の持つ筆に墨は不要だ。


彼が筆を握れば自ずと液が滲み出て紙に鮮やかな銀の文字を落とす。


「この筆はね、恋心を吸い上げるんだ」


文字と同じ銀色の髪をなびかせ、彼は恋文を書き続ける。


昨夏亡くなった恋人宛だ。


銀の液が尽きる日は来るか、後日再び滲み始める日は来るか。


私はそればかりを考える。

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