2年生

「小倉ちゃん」

 鼻の奥がツンと痛い。言葉にならない何かが溢れてくる。優しい声で私の名前を呼ぶ先輩は、くしゃりと顔を歪めた。

「ありがとうね。今まで、私たちに付いてきてくれて」

 笑っているのか、それとも泣き出しそうなのを堪えているのか。きっとどちらもなのだろう。

 だって、私もそうだった。先輩を笑顔で送り出したいのに、視界がどんどん滲んでいく。先輩の顔も、滲む。背景と混ざりあって、それが雫になって落ちていく。

 今年こそは、と意気込んで臨んだ大会だった。私も梶原もメンバーに入って、先輩や後輩と一緒に上を目指して練習を重ねた。あれ以上はない、というくらいのパフォーマンスだったと、そう思う。

 それでも及ばなかった。けれど、確実に私は――私たちは成長している。

「先輩、先輩……来年は、絶対、行きますから。見ててください」

 それは不可能なことじゃないと、そう思えるくらいの自信が芽生え始めていた。




「梶原くん」

「なんですか? 先輩」

「小倉ちゃん、よろしくね」

「……はい」

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