酔いのせいにでもして
あの日は飲み過ぎていた。
しかし、酒の効果はただ身体を蝕むだけで、緊張を溶かすことはなかった。
おそらくだが、私は強い方だ。
ビール、日本酒といった『大人な』味より、
甘いカクテルや果実酒を好んで飲む。
単純に甘いものしか飲めないのだ。
甘いカクテルは、たまに度数が高いにも関わらず、ジュース感覚で飲めてしまう。
知らないうちに少しずつ蝕んで、
身体が重い
歩行がぐらつく
それくらいになったらストップのサインだ。
あの日から『特別な時間』は続いている。
彼とは時々学校で会っていた。
LINEは、常に稼働していた。
私たちは互いの深いところまで掘り下げあっていた。
私は完全に、彼に委ねていた。
話すことで自分の承認欲求を満たしていた。
彼は私を否定することはなかった。
じわじわと、
私は、
私にとって
彼が特別な存在であること
を認めざるを得なかった。
それと同時に、
彼にとって
『特別な存在』
でありたいと、
どこまでも
私は
欲張りな人間だった。
彼を飲みに誘った。
友人2人も飲みに参加した。
4人で彼がよく行くという居酒屋へ。
私は運良く、彼の隣の席に。
友人の恋愛話を聞いた。
彼の話も少し聞いただろうか。
気が張っていたせいで
会話の内容があまり思い出せない。
私は、喉が渇いて仕方がないようなふりをして
勢いよく飲んでいた。
ケロリとしていた。
得意の演技で。
丁度良い機会だった。限界を知るための。
結局、限界が来る前にお開きになったが。
『写真を撮ろう』と、友人が言った。
画角に入るために、
彼の方へ椅子を近づけた。
彼の左肩が私の右肩に触れた。
写真を撮り終え、椅子を戻すことはなかった。
戻す必要なんてなかった。
酔いのせいにでもしておけば良いのだ。
私は彼の太腿に、私の太腿をわざとくっつけ、
テーブルの下は
完全に私の支配下になった。
私は、7杯ほど飲んでいた。
終盤、店側のサービスで
テキーラをもらった。
美味しくなかった。
ちびちび飲んで、何とか飲みきった。
ある意味、目が覚めたような
その瞬間だけ、いつもの自分だった。
帰り、彼と私は、酒を飲まなかった友人の車に乗せてもらった。
学校で降ろしてもらい、
彼は私を家まで送っていく、と言った。
深夜、
私と彼は
ゆっくり、
ゆっくり、
歩いた。
今までにない緊張感を
漂せながら
私は、
この理性をどうするべきか、
何が『良い』のか、
抗い、
抗い、
踏み出す足を迷い込ませていた。
もう、
壊してしまって良いのか、?
確実に、壊して、もう戻れない関係に。
あなたから壊しに来てくれたら、
どんなに楽だっただろうか。
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