戦闘医 ゼマ・ウィンビー

高見南純平

ゼマの人生

第1話 

 私は完璧なお姉ちゃんである。

 きっと、家族にそう聞いたら、皆が笑顔で指を丸の形にして笑ってくれるだろう。


 そんな私の朝は早い。何故なら、朝食を作らなければいけないからだ。


 目標は朝の6時起床。だけど、だいたいその5分前くらいに目を覚ます。兄弟たちを起こさないように目覚まし時計は使わない。その結果、自然と目を覚ます体になってきた。


 私の兄弟は6人いる。それと、私と母親。計8人家族。父親は仕事で亡くなった。7人目の末っ子、ヘレシアが生まれてすぐのことだったっけ。

 姉弟によっては、父親の記憶はほとんどないと思う。


 その頃から、母さんの容態が優れなくなった。その前は、大勢の兄弟を育ててきた元気な人だった。けど、どんどんと病弱になってしまった。


 だから、今は私が母親代わりだ。母さんにはここまで育ててくれたお礼があるし、姉として私がしっかりしなきゃと思ったからだ。


 部屋はさすがに8人は入らないので、2つの部屋を4人ずつで寝ている。1つは寝室で、1つはリビングだ。

 だからリビングの場合は、布団を片付けた後にテーブルを出さなくちゃいけないのが面倒かな。


 家自体はそこまでボロ屋ってわけじゃない。父さんの収入はそこそこ良かったみたいだし、少ないけど死亡保険も出たから家のローンも大丈夫そう。


 けど、木造だし8人で住むには狭すぎる。


 まぁ、贅沢は言ってられないよね。


 私が寝ているリビングには、4男のバニ、次女のミーキー、そして末っ子で3女のヘレシアがいる。皆、まだ10歳にもいっていない年少組だ。部屋割りは特に厳格には決めていない。けど、リビングからの方がトイレに近いから、必然的に小さい子がこっち側になっている。


 たまになんの前触れもなく泣いたりグズることがあるから、私が傍にいた方が何かと都合がいい。私はずっとリビングで寝ている。何故なら、台所に一番近いからだ。


 私は目を覚ますと、テキパキと動き始める。無駄な音は出さない。子供たちが起きるとやることが増えてしまうからだ。

 彼らが起きる前に、出来るだけ事をすまさなければならない。

 いわばタイムアタックだ。

 何年か前は、もう少し早く起きていた。けど、今はこの時間からでも間に合うぐらいには、早く動けれるようになった。

 随分成長したな、私。


 布団を静かにまとめて、その場に置いておく。押し入れには後で、みんなと一緒になってしまえばいい。


 私はすぐさま、台所へと向かった。

 まだ冬だから、この時間は結構暗い。

 けど、もう何年も住んでいる家だから、感覚的にどこに何かあるかが分かる。


 台所とリビングは扉で区切られている。スライド式のドアなので、ゆっくりと引く。そっと入ると、再び音を出さずに閉める。


 ようやくこれで、電気をつけられる。

 台所中央にある電球の紐に手をやり、それを真っすぐ引く。少しガタがきているのか、一度じゃダメな時がある。軽く舌打ちをしながら、もう一回引くと、ほらついた。これで明るい台所の登場だ。


 さすがに凄腕お姉ちゃんの私でも、暗闇で料理を出来るスキルは持っていない。いや、修行すればできるかな。

 あーもう、変なこと考えだしちゃった。


 私は自分のくだらない妄想をかき消しながら、エプロンをつけ始める。今は結構髪も長いから、髪を結ぶのも忘れずに。

 そして台所の水道を使って、軽く顔を洗う。本当は洗面所が良いんだろうけど、効率を考えてここで済ましちゃっている。


 まずは、お湯を沸騰させる。鍋に水を入れて、コンロをつけてその上に置く。これはみそ汁用だ。


 コンロは3つある。大体、1つはみそ汁用で、もう1つは米を炊く用の土鍋だ。もう1つは、炒め物とか用のフライパン。

 どれも大家族用だから、凄くおっきい。フライパンなんて動かすだけで大変だ。そのおかげあって、腕の筋肉は発達した気がする。


 私は台所の隅にある茶色の袋から米を取り出す。だいたい4号ぐらい。朝はあんまし食べない子も多いから、これぐらいで足りる。大変なのは夜かな。だから、5㎏入っているこの袋はすぐに無くなっちゃう。


 そして適当なボールに入れて、バシャバシャと研いでいく。水を切る時は、お米用のザルを使っている。最初は手で押さえていたけど、私が下手なのかいくつか米を落としちゃってた。

 だから、ザルに切り替えた。


 大量のお米を土鍋に入れて、水を入れてとりあえず置いておく。

 この間に、みそ汁を作る。


 ぶくぶくと沸騰してきたので、少しだけ火力を下げる。

 今日のみそ汁の具材は何にしようかな。


 だいたい、豆腐とわかめだ。でも、ずっとそれだけ飽きちゃうし。

 確か冷蔵庫にキノコあったな。あとは、ネギもあるか。

 よし、それにしようっと。


 いちいち冷蔵庫を見なくとも、中身を把握している。といっても、すぐにすっからかんになっちゃうから、残っている食材が少ないだけだけど。


 私はそれらを取り出して、包丁で細かく切っていく。兄弟たちは野菜が好きだ。それは、自宅の庭で野菜を育てているからだろう。

 季節によって違うけど、にんじんとか大根とか、色々育てている。

 少しでも自分たちでまかなえると、食費が随分違う。

 肉は高いし、野菜を好きなのはありがたい。(まぁ、本気を出せば猛獣の1匹や2匹狩れるけど)


 鍋に入ったお湯に味噌を入れて溶かすと、切った材料を入れていく。あとはだしを入れれば完成だ。


 この間に、隣の風呂場で洗濯を行う。

 これも当然、8人分あるから大変だ。

 けど、状況柄、体を動かすことには慣れているから、そのウォーミングアップだと思っている。


 これが終わったら、土鍋が蒸気を吹くと思うから、お米の仕上げにかかる。

 毎日米っていうわけじゃない。みそ汁じゃない時もある。

 スープとか、パンも食べる。

 特にこの村には、主流の朝ご飯はない。色んな地方の料理の仕方や食材を取り入れているらしい。

 子供たちは飽きるのが早いし、それは別にいいんだけど。


 そして洗濯物を洗い終えると、朝食の仕上げに取り掛かる。服を干すのはそれからだ。

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