第9話 トイレの救世主の派生バージョン

 同情していた正樹のところに店員さんがやってきて


「ラストオーダーになりますが何か注文されますか?」


「ビールと枝豆を!」


と即答した。


 まだまだあるわよと明美は話を続ける。


「あとは映像の授業で夏休み中に藤巻ふじまき教授っていう教授の執筆した本を買ってレポートを20枚書くって課題もあったんだけど、写真ばっかりの本のぺージ数が薄くて全文を丸々写さないと文字数が足りないとか。」


「ん?それってつまり?」


「全文丸写しのレポートを提出しないと枚数が足りない。イコール教授はみんなのレポートを見ていない。藤巻教授が提出されたかどうか確認したら段ボールに詰め込まれる。そしてみんなのレポートがつまった段ボールは藤巻教授の机には向かわずそのまま焼却炉に持っていかれて燃やされるとか。」


「えー。まとめすらいらないレポートか~。許されるの?そんな話?」


 正樹もぐびぐびとビールを飲んでつまみをつつく。


「そして藤巻教授の手元にはレポートを提出してきた人が分かるチェックリストと学生に売りつけた教科書の印税が残るという算段よ。」


「悪魔だ~、悪魔がおる~。」


 明美はにやりとしてみせ


「でもレポートの提出と出席していれば単位が取れるのもあって学生の人気はとてもとても高かったり!」


「なるほど、悪魔かと思いきや天使に見えてきた。結構いい教授もいるんだなぁ。」


 正樹も楽に単位をとれる教授は歓迎だった。


「他は、派生バージョンとしてはカツカレーの波白教授とか。」


「派生バージョンって……一応聞くとそれはどんな話?」


「時間がたらなくて全然勉強してない単位ぎりぎりの4年生がカツカレーのおいしい作り方をテストに書いて可が取れて卒業できたって話。」


「結構本気で信じてた僕が馬鹿だった!今までの話全部嘘なんジャマイカ!?」


 ふふふとにやりとしてみせる明美の適当な噂話を聞き終わりそろそろ閉店。ビールと枝豆も全部食べ終え会計を済ませた。


 明美もかなり飲んですっかり出来上がっているらしく


「まさきー。生きてるかー。めげるなー!」


と叫んでいて酔っぱらいのオヤジと変わらなくなっていた。


 明美を肩に担いで歩いていると不意にいい匂いがしてきてどぎまぎしていた正樹。そんなことは露知らず明美は


「まさきー、早坂なんかに負けるなー!」


と背中をバンバン叩いてきた。


「おうよ!その通りーだ!」


と正樹は答えた。



 酔っぱらいの戯言でもその言葉はとても嬉しかった。


 思いっきり気の抜けたのもあって良いリフレッシュになり負けるのもかと気合も入った。


 明美の実家のインターホンを鳴らすと明美お母さんがでてきて


「あらあら、いつもありがとうね。」


「いえいえ、僕も酔っぱらっててすみません。」


「お父さんが帰ってきたら大変だからこっちに。しっかりなさい明美。明美!柏君に迷惑かけないの!」


「ああ、お母さん。歩けるから大丈夫よ。」


スタッと立ち上がり


「立てるのかよ!」


と正樹はツッコミをいれる。


「じゃ、正樹。家まで送ってくれてありがとうね~。また明日ね。おやすみ~」


「おう、また明日な。おやすみー」


と明美と明美の母に挨拶をしてフラフラになりながら家路につくのだった。

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