第8話 トイレの救世主
「『あと5分なんだからトイレは我慢しなさい。という先生がたまにいる。だがこう言う先生のいうことを聞いてはいけない。』」
「なんだいきなり、何の話だ?」
「苦肉の策を実行した哀れな学生のテスト内容よ!そして学生は『トイレに関しては手をあげ「トイレに行ってもいいですか?」と生徒が聞いたなら、そこで先生に断られても問答無用でトイレに行くべきである。生徒が45分トイレを我慢してあと5分がどうしても我慢できそうにないからあらゆる勇気を振り絞って「トイレに行ってきてもいいですか?」と聞いたという想像がまったくできない先生。どんなに勉強を教えるのがうまくてもトイレに関してはダメな先生と思って良い。』」
「トイレに関してダメな先生ってなんだ。」
とげらげら笑いだす正樹。
「『45分我慢していたかもしれないという想像力のない先生に人生の良し悪しは判断できない。休憩時間にトイレに行かない生徒も確かに悪い。だが『トイレに行っていいですか?』なんてことを生徒は学生生活で毎日のように言うだろうか?否。そんなことはない。』」
「まぁそれはそうだろうね。トイレに行くこと自体が恥ずかしいって思うし小学校中学校の頃は大きい方は行きづらい雰囲気があったよなぁ。食事中失礼。」
「そうよね。だからこそ学生も『むしろみんなの前で恥ずかしいけど我慢できそうにないから勇気を振り絞って言ったのだと考えるのが自然だろう。それならばあと5分我慢しろという先生の言うことなんて無視してトイレに行くべきだ。』と書いたのよね。」
ここでちょっと明美は店員さんが持ってきてくれたカシスオレンジをちゅーちゅーストローで飲んで一息ついてまた話を再開する。
その両頬を頬張ってカシスオレンジを飲んでいる姿を見てリスみたいでかわいいなぁとまったく違うことを考えていた正樹だった。
気合をいれた明美は話し続ける。
「学生はさらに『先生の言うことを無視するのは良くない。だがしかし、トイレに行くなという先生の発言を無視してトイレに駆け込んで事なきを得るのと、先生の言うことを守って漏らしてしまう可能性を考えた場合、どう考えてもトイレに行くべきだろうと思うのだ。』と主張したの。」
「まぁそれはそうだろうね。大きい方だったらどうするのって話だし。またも失礼。」
「まさにその通り。『ついでに言えば漏らしたと一生みんなに言われ続けないといけない程、休憩時間にトイレに行かなかったという事実は重い罪なのだろうか?』と学生は続けたの。」
おつまみをぽりぽり食べる明美。
「『こんなことも考えられない想像力のない先生は。この生徒の将来なんてどうでもいいと思っているとしか思えない。一生、トイレ漏らしちゃったよね?あの子? と記憶に残ってしまうのに。5分後の最悪の悲劇を想像することができない先生に、10年後、20年後の将来のことを相談しても仕方ないと思わないだろうか?』」
「うーーん。極論だけど間違ってもいない感じなのかな。当たらずとも遠からず的な?」
「そうね。でも私は結構この学生と同意見でこう書いたらしいのよね。『どう考えても先生の言いつけを守って漏らした方が生徒の将来に影響を与えると思う。トイレに行くなと言われても無視してトイレに行って悪いなと思うのであればトイレにいって事なきを得た後『無断でトイレに行ってすみませんでした。』と謝れば良いだけのことだ。大事なのはフォローの仕方だ。』ってね。」
「なるほど。言われてみれば確かにそれだけの話だね。」
と笑ってしまうくらい単純な結論だった。
「『想像力のない先生から5分で人生を変えるほどの重要な発言はでてくるとは思えない。百歩譲ってそんな先生から人生を左右する発言があったとしてもそもそもトイレのことで頭がいっぱいになっている生徒の頭に入る訳がない。自分で注意してないと他人に言われた言葉なんて頭の中を右から左に通り抜ける。」
明美はおつまみをぽりぽり食べながら続ける。
「結局のところ、人生を変えるほどの重要な考えは答えを欲したときに色んな体験をしたり人から聞いたり本を読んだり想像したりして自分でその答えに気づくものだ。だからこんなことを言う先生がいたとしても気にせずさっさとトイレに行きなさい。』という文章を『トイレの利用方法』というお題を勝手に作って書いて提出したら可をもらえて48単位すべて取れて卒業できたんだって!」
「マジカー!」
「『トイレの利用方法』ていう答案を書いて単位が全部とれて卒業できた人がいたからトイレの救世主、佐原教授ってあだ名がついたの。生徒思いの愛嬌ある教授でね。でも4年生で美術史の授業受けてたからぎりぎりだって気づいて単位くれたんじゃないかって言う人もいたの。でも本当のところは出席はしっかりしてて出席点で単位くれたんじゃないかしらって私は思ったりするかな。」
「なるほどね~。確かにトイレの救世主なんてあだ名つけられても怒らないあたりは懐深い教授だね。」
「人の噂も75日って思ってあんまり気にしてなかっただけかもだけどね。教授自体は全然悪いことしてない訳だし。むしろ学生の味方!」
「いい教授なのは同意だけど僕ならそんなあだ名つけられたら下向いて歩きたくなるなぁ。」
と正樹は佐原教授に同情した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます