第3話 ミルクプリンが固まるまで
「あのねー、霧里さん。そんなおねだり顔をしても無理なものは無理!」
「きっと、お似合いですわ。レースは日本製のラッセルレースを使っておりますの。繊細な模様は美しく、高級感が違いますわ」
「そんなスケスケ、ひらひらを着たら、もうあんなとこもこんなとこもばっちり見えちゃうでしょー!? 考えただけで、恥ずいしー」
「たしかに、透け感がありますが、抵抗感が少ないよう、ギャザーがたっぷりのAラインドレスにしましたの。太もものあたりでレースがひらひらと揺れて、清楚なミルク色のオーガンジーもきっと蒼下さんに映えると思いますわ。、全体的にふわっと広がって、体型もカバーしますから、きっと可愛いらしいですわよ?」
「いやいや、裾が短いのも問題だけど、一番の問題は胸よ。胸! 胸元がざっくりと開いたベビードールって、私よりも霧里さんみたいな胸のある人が着た方が、エロかわいいってものだし。無理!」
「蒼下さんは、胸がなくても首筋がとても奇麗ですから、それを強調するのはありだと思いますの。ああ……、その首筋に唇を当てることを想像しただけで、ドキドキしてしまいますわ。それに、この時間、わたくし達しか起きていませんから、蒼下さんの姿を目にするのはわたくしだけですから、安心してくださいませ。もしも、蒼下さんの姿を見ようとする不届き者がいたら、わたくしが成敗いたします」
「さらりとなんかすごいこと言ってない? だいたい、なんで、こんな服を選んだの? 服ならワンピースとかシャツとか、他にもあると思うんだけど?」
「わたくしとおそろいを着てくださると嬉しいと思いまして、作らせましたの」
「おそろい?? えっ……、もしかしなくても、霧里さんってこういうものばかり着てるの?」
(療養生活が長いって木島先生が言っていたから、霧里さんは寝間着にオシャレを求めたのかな?)
「わたくしのは、血がついても目立たないような深紅色ですわ」
「血がついても……って」
(普段から、血を吐いたりしちゃってんのー?)
「……、わたくしも一緒に着替えればよろしいかしら?」
「いや、それはそれで、心が折れそうだから、遠慮したい……」
「どうしても、ダメですの?」
「……」
「ぜったいに、ダメですの?」
「……」
(そんなウルウルした顔で迫ってこられても……。ビキニだって来たことないのに、ハードル高すぎ)
ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピピッ
「ほっ……、み、ミルクプリン、固まったみたいーだねー。鬼塚さん! タイマー! タイマー、止めなきゃ!! 近所迷惑になるよ」
「ちっ。無粋なタイマーですこと。もう少しで蒼下さんが着てくださったというのに……」
「いや、着ないし」
「じらして、わたくしの気持ちを煽るタイプなのですね。ふふ。……、我慢も大切ですよね? わたくし、『待て』はできますわ」
「じらしてないし。断ってんだけど?」
「またまた、ご冗談を。でも、まずは、蒼下さんがお作りになった『ふるふる濃厚ミルクプリン♪』を味わなくてはいけませんね。さ、運んできてくださいませ」
「まだ、出来上がってないし。ミルクプリンをデコるつもりなんだけど?」
「はい?」
「やっぱり、スイーツは味も大事だけど見た目も大事じゃん?」
「食べられる前には奇麗に着飾りたい? つまり、蒼下さん、さっきのベビードールを着る気になったのですね。わたくし、嬉しいですわ」
「どうしてそうなる? ……、もしかしなくても、霧里さんって、TL小説好き?」
「TL? なんですのそれ?」
「知らないなら教えない―。さ! 仕上げにとりかろーっと。まずは、生クリームを泡立てるとこから始めよっか。氷水を入れたボウルに、生クリームを泡立てるボウルを入れて、ボウルごと冷やしたまま泡立てると泡立てやすいんだよ」
「蒼下さんの手首のスナップをきかせて泡だて器を動かす様は、しなやかな動きの中に力強さがありますわ。その腕にほおずりしたいです」
「もう。……、霧里さん、やってみる?」
「ええ? ほおずりしていいのですか?」
「ダメに決まってるでしょ。泡立ててみる?って聞いたんだけど?」
「それは無理ですわ。わたくし、蒼下さんの邪魔はしたくないですもの。……、でも、そんなに腕を動かして痛くなったりしないのですか?」
「大丈夫。慣れているからね」
「その腕の太さは、生クリームを泡立てたことで鍛えられたのですね」
「ん? 軽くディスられた気がする」
「? わたくし、蒼下さんのこと、褒めていますわよ?」
「そう? それはそれで、なんか、悲しい」
「褒めたのに悲しいだなんて、蒼下さんって不思議な方ですわね」
「不思議ちゃんは霧里さんの方だよー。そうそう、ミルクプリンを六個作ったけど、今食べるのは一つずつでいいよね?」
「残りはどうなさるのですか?」
「残りは、私が帰った後にでも食べて」
「今すぐ全てを食べてしまいたいところですが、我慢も大切ですよね? わたくし、『待て』はできますわ。えっへん」
「はいはい。それでは、今食べるミルクプリンに、生クリームとイチゴを盛りつけまーす! 霧里さんは、ミルクプリンをのせる奇麗なお皿をだしてくれない?」
「わかりましたわ。お皿はこのカールスバードでいいかしら?」
「カールスバード?!」
「ブルーオニオンの中でも、わたくし、カールスバードが一番好きですの。ブルーオニオンといえばマイセンですが、カールスバードのほうが柔らかくて、青色が濃いと思いますの。
濃いコバルトブルーの模様に、白いミルクプリンがとてもきれいに映えること間違いありませんわ。でも、ミルクプリンは器に入っていて、このままでは、ミルクプリンの美しい白色が見えませんわ。どうしましょう。器をぶっ壊しましょうか?」
「はぁ……。貸して。器からだしてのせるから……」
ぷるるん
「まあ、蒼下さん、魔法を使ったのですか? ミルクプリンがぷるるんとお皿の上にのっております。ぷるるんとふるるんと恥ずかし気に揺れております。まるで、服を脱ぎ捨てた蒼下さんのようですわ。このまま、食べてしまいたいですぅ」
「その、たとえ、絶対に間違ってる」
「もう、これで食べられますの?」
「泡立てた生クリームと、イチゴをのせるよ」
「イチゴですか? イチゴはつぶして牛乳に入れるのが好きですわ」
「イチゴ牛乳って美味しいねー。でも、今日は、イチゴを飾りとして使うよ。スイーツは映えが大事だからね! そこで、とてもセンスのいい霧里さんにミルクプリンをデコってもらっていい?」
「蒼下さんをイメージして飾ればよろしいの?」
「……、私より霧里さんをイメージしてデコってクダサイ。生クリームは、この絞り袋の中に入っていて……、左手でこの口金の部分を持って、右手でしっかりと持つ。そして、右手で袋をおして、生クリームを絞り出す」
「こ、こうですの?」
「うん、上手、上手!! あとは、好きなように生クリームを絞り出してね。私、片づけているから……」
「……………できましたわ!」
「わー、上手じゃん! 美味しそう!! 器も盛り付けも素敵だから、高級洋菓子じゃん!!」
「これで、食べられますの?」
「うん」
「「いただきまーす」」
◇◇◇◇
私と霧里さんの声が重なって、二人でふふふっと笑った。
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