12 - そんな所で頑張らなくても…




 僕がウィゼルドに振られ続けてもう5日になる。休みも間に入ったけれど…。


「バロンドシャルフ、何故最近シャシャを避けているんですか?お陰で私達のランクアップにとっても貢献してもらっていますが」

「ああ、俺も皆のお陰でしっかり仕事させてもらえている、ありがとう!!」

「お礼言ってもらえるのは嬉しいのですが…シャシャが最近内勤ばかりしているんですよ、せめて理由を教えてあげて下さい!」


 隠れていたわけではないんだけれど、偶然そんな会話を立ち聞きしている。

ウィゼルドは一緒に仕事してくれないし、全然話もしてくれないし、どこにいるのかもいつも分からない…。いや、自分で一緒に仕事してくれるか聞いてきたよね?何で僕がこんなに…。


「シャロンが、また…無茶をしてしまう気がしてな…」

「バロンドシャルフ達を守ったって聞きました…別にガルとしては普通の事をしたまで、ってシャルフなら思うんじゃないんです?」

「俺はそうは思わん…ガルだって大切な仲間で、俺達はガルがいないと戦えないんだからな…」

「じゃあ他の人と出るように言ってあげればいいじゃないですか…最近はずっと内勤でストレス溜まってそうでしたよ」

「別に…俺にこだわる事もないだろうに」

「だーかーらー、言ってあげればいいんです、そうやって!わざと最後に来て、拒否してシャシャが出ないようにしてません?」

「むぅ…やはりそう見えてしまうか…」

「あからさますぎます」


 ほんとだよ、最近僕だってそうなんじゃないかと思っていたんだよ。


「シャシャが1番ガルでの実力高いんだから戦場に出さないなんて大損です」

「でも、俺じゃまた怪我でもさせてしまうかもしれないし…他のシャルフと一緒でも心配になるんだ…どうにか出さない方法はないものか…」

「無理です、ダメです、本人が出たがっています!なので!何とかして下さいね!バロンドシャルフの責任ですからね、内勤の仕事なくなって皆困っているの!」


 いや、それは本当にごめんとしか…。ささっとその場から逃げてガル塔に入ると食堂でおやつとお茶をもらってのんびりと休憩しよう。解読の仕事を始めたけれどこれは流石にすぐ終わらないからな。


「シャシャ…」

「ん?」

「バロンドシャルフに愛されてるわねぇ」

「は?」

「さっきの話どうせ聞こえていたんでしょ?」

「まあ…」

「告白とかされたの?」

「凄い事を教えてあげよう…僕達周りは皆ウィゼルドが僕の事を好きなのをわかっているが…本人が自分の気持ちに気付いていない!!」

「…!!!」


 よっぽど衝撃だったのだろう、凄い顔している。


「ま、マジ?」

「本当さ…キーラにも聞いてごらんよ」

「ねえ、キーラ!本当なの?」

「ええ、本当よ、彼は超が付く鈍感なのよ。鈍感どころかそういう感情を持ったことがないんじゃないかしら?だからむしろ知らないのかもしれないわね」


 ああ、ありそう。

 しかし、そういう事ならもう知らん、あいつとは仕事してやらないんだから!!って事で次のサイレンが鳴ると誰よりも先に出て先頭で仁王立ちして声が掛かるのを待つ。


「シャシャガル…機嫌悪そうだな…」

「そうじゃないよ、声かかるの待っているだけさ!」

「え、じゃあ俺といく?」

「ああ!行こうか!思う存分仕事させてもらうよ!!バリバリ働かないと尻燃やすからな」

「えええ、やっぱ機嫌悪いじゃん!!」


 1番最初に一緒に仕事したグフトを引っ張っていき仕事を一緒にして、超頑張って1位まで押し上げた。ここのシャルフは別に弱くはない、能力をちゃんと計算通りしっかり引き上げてあげれば誰だってトップになれる。


「流石シャシャガル…でもめちゃくちゃ疲れた」

「これくらいで根を上げてたら上位キープは難しいよ」

「はあ…上の奴らいつおもこれだけ動いているのか…そりゃ7位から上がらないわ…」


 納得したのか何なのか落ち込んだのか…キーを交換してシャルフ塔に入っていった。

それからウィゼルド以外のシャルフと毎回組むけれど皆ガツガツ働かせて1位や2位という成績まで押し上げたんだけれど…結果…


「何で皆僕を選ばなくなったのかな?」

「めっちゃ働かすんだもん…毎回はキツい」


 結局誰かしらが連れて行ってはくれるけれど、最近じゃ文句言われるんだよね。

 もう10日以上かな、皆をこき使って…もとい…成績を押し上げる手伝いをしたの。


「シャロン、シャルフから超苦情が私に来るんだけれど」

「ウィゼルドに勝つにはこれくらいしないと勝てないんだよ、皆…全く情けない」

「しかし、バロンドがシャロン離れするとはなぁ…あんなに好き好きって感じで寄ってきていたのに…本人無自覚だったけれど」

「もしかしてだけれど、気付いたのか…僕への気持ち」

「あれは、かもしれないな…」

「それはそれで困るんだけれど…」

「じゃあ尚更丁度いい機会だからバロンド離れすれば?」

「は?僕が?別に離れるならいつだって」

「あら?毎回バロンド君にキー投げつけて返されて怒っていたじゃない…離れられてないのは、シャロンの方よ?」


 頭にガツンと一発デカイのを食らった気分。そういえば…最近僕ばかりがウィゼルドウィゼルドって言っている気がする。


「も、もうほんっとうに知らないんだから!!」


 銃を新調したいから一緒に見て欲しいって言っていたのも全然話に来ないし、一緒に仕事全然してくれないし…一緒にごはん食べてくれない。ウィゼルドなんか嫌いだ。


 って思っていた矢先に相変わらず2号室を借りている僕の元にウィゼルド連れて来たんだけれど…キーラとナージャが。


「何?」

「暇そうにしていたから力仕事任せたいなと思ってー」

「シノノメ、エルンドー…これは…」

「あら、あの人は空気だと思っていいのよ」

「逆にシャロンもこいつは空気だと思っていいぞ」


 本当に力仕事頼みたかっただけらしく硬い木の実を割ったりする仕事を頼んでいる。僕は全然自分の作業に集中できないのに…あいつは僕を本当に空気扱いしている。


「助かったわ、バロンド君」

「では、俺はこれで」

「ああ、ありがとう!!」

「…」

「…」

「ところで、何で2人は喧嘩しているんだ?」

「喧嘩などしていないぞ」

「最近避けているじゃないか、互いに」

「いや、その…シャロンといると、胸が苦しくなるから…きっと俺はまだあの時の悔しい気持ちとかを忘れられないんだろうな…だからもっと自分に自信が付くまでは修業をつんでと思ってだな…」

「別に普段はいいじゃない…一緒にお昼食べましょうよ」

「いや、なんだか顔を見ていると物が喉を通らなくてな」


 あああ、本当にこれで自分の気持ちに気付かないとかどんな天然記念物だよ!!


「シャロンの事嫌いなのか?」

「そんな事ない!」

「じゃあ好きなのかしら?」

「いや…それは…」

「バロンド君、私ね…だぁい好きなの、シャロンの事…だからね、そういう中途半端に話もしないで突き放すような事するなら…今後一切彼に近寄らないで頂戴」


 ここでようやく僕もウィゼルドも視線が交わる。

僕は、別に…どうでもいい。今まで仲良かったとしても、結局はそこまでの関係だったんだって割り切れるからね。


「いいよ、キーラが悪者になることはない…僕も面倒くさがって本気で捕まえなかったからね…ウィゼルド、もう僕は君と仕事をしない。銃も自分1人で買いに行くといい、君の故郷にも行かない…今後一切君には関わらない…それで満足だろ?」


 立ち上がってウィゼルドの横を通り過ぎるとドアを押し開ける。


「さあ、ここを出たら君と僕はもうバディでも友達でもない、ただの同僚…しかも関係のない部署の関わりのない同僚だ…キーラにナージャまで巻き込んでいるんだ…いい加減子供みたいにウジウジするのはやめてくれ…」

「シャロン…」

「…」


 顎で出て行けと指示を出す。渋々といった感じに出て行くウィゼルドが振り返ると僕の腕を掴んで力任せに引っ張り、僕はあっけなく部屋から引きずり出された。


「わっ」


 後ろでドアが閉まったと思ったらそのドアに背中が付くくらいに押され、僕の顔の横に物凄い音を立ててウィゼルドが手をつく。中の2人もビックリしているんじゃないか?


「俺は、シャロンが好きだ…」

「うん、そうか…」

「気付いたんだ…これは友達としてじゃない、家族としても違う…この気持ちがきっと恋というものだと」

「…気付いちゃったか…」

「?」

「君が僕を好きなことずっと知っていたし、多分周りも皆気付いていた…君だけだよ気付いていなかったの…」

「そ、そうなのか!?」

「だから気付かせないようにしていたのに…じゃあ気付いたなら尚更離れよう…僕には恋というものは不要だから」

「何故だ…」

「誰かに人生左右されるのが嫌なんだ…だから生涯独り身でいるし、誰ともルブルを組む気もない…仕事だってそうだ…最近君に振り回されていて…いや、勝手にやっていただけだが…それすら…嫌で仕方なくなってやめた」

「じゃあすぐに今みたいに突き放せばよかったじゃないか…親友だの…バディだの…やめて最後まで気付かせないでくれたら、よかった…」

「友人としての君の側は…心地よかったんだ…。手放せなかった僕が悪かったよ…」

「シャロンとこれからも一緒にいたい…側にいて欲しい…」


 彼が泣くのを初めて見た。

家族がいない彼がその話をした時も一切悲しい顔すらしなかった、僕が運ばれた時だって一切泣いていなかった。弟達の話をしている時は優しい顔していたが…僕を見る目はもっと優しかった。

そんな彼が今は顔を歪めて泣いているというのに、僕は拭う資格なんてない…のに…そっと指で拭ってしまっていた。泣かせたくないという気持ちだろうか、身体が勝手に動いていた。


「泣くなよ…男の子、だろ…」

「男だろうが、本当に苦しい時は泣きも、する…」


 僕だって、君の側にいたいって思う。でも僕じゃきっとダメなんだ、この人を幸せになんて出来ない。人の愛し方とかを知らないんだ…僕は優しくないし。


「ウィゼルド…僕ね…誰かを愛せる自信ないんだ…自分の事だってちゃんと出来てもないのに他人なんてもってのほか…」

「それは…俺も同じだ…自分の気持ちにすらなかなか気付けない俺なのにって悩んだ、でも俺にはシャロンが必要なんだ…好きだって気付けてよかったって思っている…」

「なんでさ?既に僕にフラれているのに?」

「ああ、でも…だってシャロンに名前を呼ばれるだけで心が温かくなる…声を聞けるだけで嬉しくなる…顔を見るだけでなんだって頑張れそうだ」

「…熱烈だな…」

「きっと、これが愛おしいという気持ちなんだろう…今、君を抱きしめたくて、仕方がないんだが?」

「困ったな…いいよって言ってしまいそうだ…」

「シャロン」


 誰かに抱きしめられたのっていつぶりだろう?兄さんが出て行く前だから…10年以上前だ…。こんなに人の温もりって温かいんだな。


「僕、許可してないんだけれど…」

「言ってしまいそうというのは許可したも同然だろう?」

「強引だな…」


 後ろのドアが動いた気がした。そういえば中の2人を忘れていた。


「シャロン!大丈夫!?何があったの?ナージャ頑張って!」

「くっそ、ちょっと動いたのになんで開かないんだ」


 ウィゼルド片腕で押さえていたんだな…今も押し返しているし。


「ぷはっ…こんな所でそんな頑張らないでよ…」

「邪魔をされたくなかった」

「仕事終わったら、ちゃんと話そう…」

「ああ…」


 やっと解放されたし、ドアも開いた。


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