11 - 僕、初めて居残り組




 霧に変わるはずが大きさのせいかまだ身体が動いている。これは…。

 慌てて魔法を唱えてナージャとウィゼルドに魔法を3つずつ付ける。


「シャロン!?」

「なんだ!?」


 2人の声が同時に聞こえたその瞬間魔物の身体が破裂した。中心部に毒があるからそれが飛び散ったんだ。勿論周りにも飛び散らないよう、風魔法の防御壁を作ってあるので外側にいるキーラや馬たちには当たらなかっただろう。


「爆発…したのか?」

「シャロン!!!」


 身を呈して親友達を守れたのはよかった。だって、僕の大切な人達は守れるなら守りたいじゃないか。

 もろに毒を受けている僕は立っているのもやっとだった。

 意識朦朧としながらも解毒の魔法を唱えているあたり、まだ死にたくはないんだな…。


「だいじょぶ…ちょっと、食らっただけ」

「絶対嘘だ!!キーラ!早く来て!!キーラぁぁ!!」


 ナージャがこんなに取り乱して叫んでいるのなんて初めて見た。立っていられていると思ったけれど違った、ウィゼルドが支えてくれているんだ。

 キーラが来てくれたのですぐに解毒治療を行ってくれているので徐々に呼吸が楽になってきた。


「ありがと、キーラ…もう、平気」

「絶対に嘘よ!病院!急いで病院に向かって!私達も救護班に彼をあずけたら行くわ」

「シャロン…行こう」

「大げさだって…後は自分で治す…」

「大げさじゃないだろう…エルンドーが処置してくれなかったら今頃死んでいた…頼むから、言う事聞いてくれ」

「あー…わかったよ…じゃあウィゼルド、抱っこして。やっぱり歩けそうにない」


 馬に乗った所までは覚えているけれど、目が覚めて病院にいるって分かるまで死んだのかとちょっとヒヤヒヤした。

 半日くらい寝ていたらしい。すぐに処置したからよかったものの、じゃなければ死んでいたとはっきりと先生に言われてしまった。キーラに感謝しないとだね。


 あいつの毒を受けると暫く抜けるまで時間が掛かるので数日入院になってしまった。寝て起きては解毒の治療が2日程続いてからは経過観察で1日入院。

 毎日見舞いに来てくれているんだけれど、無菌室に入れられている僕は直接会うことが出来なくてガラス越し。


「シャロン、今日はどう?苦しくない?」

「泣かないでよキーラ、大丈夫だよ」

「おま、なんて、無茶…」

「もっと泣いてるよ、ナージャ…君達に苦しい思いさせたくなかったんだよ、僕男の子だもん…これくらい頑張れるよ」

「昨日までお喋りも出来ず寝ている姿しか見れなくて…心配だったんだもん」


 ああもう、キーラもわんわん泣き始めてしまった。


「シャロン…」

「ウィゼルドも無事でよかったよ」

「無茶…しないでくれ…心臓がもたん…」

「皆を守りたくて、頑張っちゃった…ごめんね、心配させて」


 流石に泣かないけれど、あんなに声小さく暗いウィゼルド初めて見た。


 翌日には無事退院出来たので昼ごはんを外で食べてからアパートに帰って、酸で溶かされてしまった自分の服を見てため息が出る。予備は勿論あるけれど新調しないといけないな…請求したら出してくれるかな…仕事着代。

 服はウィゼルドに頼んで着替え持ってきてもらったけれど、デカい。同じ身長なんだけれど…体格の差だな。そのウィゼルドは仕事の半休を貰ったとかで午後一で迎えに来てくれるし今は晩ご飯の買い物をしてくると行ってくれている。


 しばらくして何やら色々と買い込んできたウィゼルドが何か作ってくれるという。えええ…この人出来るの?僕は村で1人暮らししていたから多少出来るけれど…米とかあるけれど炊ける?洗剤入れて洗ったりしない?

 そんなに手際がいいわけではないけれど着々と何かが出来ていく。


「ウィゼルド全然出来なそうなのに、なんで出来るの?」

「ははっ俺の師匠がな料理も作れと教えられてきたからな…修業行くと朝晩作らされたな…お陰で多少は出来るようになった」

「そうなんだ、面白いお師匠様だね」

「凄腕のガルなんだがな」

「ガルが師匠なの?」

「ああ、以前相棒がやっていた修業方を教えて下さる、お陰でSランクだ」

「凄い師匠だね…僕も会ってみたいな」

「いつか行こう」


 座っていろと言われたので椅子を持ってきて座って料理する手を眺めている。


「ウィゼルド」

「ん?なんだ?」

「罪悪感でも感じてる?」

「え?」

「別に何も思わなくていいよ…僕が勝手に飛び込んで、勝手に2人を守って、勝手に毒を受けただけだから…ウィゼルドは何も悪くないんだよ」

「罪悪感というよりは、無力な自分に腹が立つくらいかな…あのくらいの核、一瞬で霧に出来るくらいの力があれば…って」

「一撃で壊せるだけ凄いんだぞ」

「まだまだだ…」


 中央でも通じると思うんだけれど…ウィゼルドは今の自分の実力は低いとずっと言っている。今の場所だとトップクラスなんだけれどな。


「いつか中央行って、ベルさんと肩並べて戦えるようになりたい」

「ベルさん?」

「ああ、弟達の父さんだ」

「ああ、シャルフの」


 そんなに強いんだ、その人。


「僕ね、両親死んじゃったの6歳くらいの時でさ、5つ上の兄さんと2人で村の人達に助けられながら育ったんだ…だから村の人達皆が父さん母さんみたいなものなんだけれど…やっぱり皆どこか一線引いて見ているのがわかったからさ…あまり好きじゃないんだ…隣のね家族と族長は僕のこと大切にしてくれたから好きだけれど…だからいつか恩返しはしたいと思ってはいるんだけれど…」

「ピピガルの家か?」

「ううん、彼女の家は特に関わり無かったからね、別に興味もない…。兄さんが15で家を出てしまって…それから1度も会ってない。手紙は今でもやり取りするけれど」

「そうなのか…」

「10歳で本当に独りぼっちだったからさ、弱っている時にこうして誰かが僕の為に一生懸命何かをしてくれるっていうの…久しぶりで、なんだか嬉しいようなこそばゆいような…なんとも言えない気持ちなんだ」

「シャロン…」

「ありがとね、ウィゼルド」


 何かちょっと自分じゃないみたいだな。まだ毒抜けきってないんじゃないか?


「俺は、君に助けられた…俺こそありがとう…でも、もう無茶はしないでくれよ?」

「あー…うん、出来るだけ気を付けるよ…」

「そうしてくれ…それと」

「ん?」

「こんなダメな俺と…これからも組んでくれるか?」

「ダメじゃないだろう…君がダメだったらあそこのシャルフ全員もっとダメになってしまう…君が1番強いんだから」

「そんな事…」

「全員と組んだことのある僕が言うのに、信じられないかな?」


 多分どのガルよりも全員の能力を把握しているのは僕だ。その僕が言うんだから間違いない。恐らくルブル組んでいる他のシャルフ達よりも強い。


 ウィゼルドの作った料理はそこそこ美味しい程度だったけれど、今まで食べた何よりも美味しく感じれたのは…多分僕の為にと作ってくれた手料理をこうやって一緒にテーブル囲んで食べているからかな。リア家で食べていた時とは違ってなんだかとても温かい気持ちになれたからね。


 仕事復帰しているのにキーラとナージャがずっと僕の隣で泣いては喜んで、泣いては喜んでを繰り返している。嬉しいけれど、困ってしまうんだよね。


「2人共、そんなに泣くなら今度退院祝いでもして」

「する、するわ!」

「勿論だよ!」


 あーあー…また泣き出してしまった。泣き顔見たくないって思ったけれど…僕の為に泣いてくれている2人を見てちょっと嬉しく思う。だって、他でもない…僕の為に泣いてくれているからね。

 今日はウィゼルドが全然近寄ってこないのがちょっと気になっているけれどね。


「仕事着がさ、溶けちゃって新調しないといけないんだよ」

「今度休み合わせて買いに行きましょうよ!」

「ところで、バロンドとは喧嘩でもしたのか?」

「いやぁ…なんで今日は微妙に距離があるのかわからないんだよね」

「昨日何かあった?バロンド君半休取ってまでお迎えに行ったでしょう?」

「いや、迎えきてくれて、晩ご飯作ってくれて一緒に食べたけれど」

「うーん女の勘が言っているわ…あれは流石に自分の気持ちに気付いてしまったのよ」

「キーラもそう思う?」

「え、でも良く考えて…ウィゼルド…だよ?」


 そう言うと2人が目を見合わせてため息をついた。

 だって、あの超鈍感で面白いウィゼルドが何をきっかけに気付くって言うんだ?気付ける要素沢山あっても見えなくてガンガン突き進んで行くような奴だよ?


「じゃあ何かしらね?」

「まあ一緒に仕事してくれるか?って聞かれたからやっぱ罪悪感とかあるのかな」

「なんだろうな…」


 サイレンが鳴るまで一切近寄ってこなかったよね。本当。

 列に並んで相変わらず大人気の僕は全員断ってウィゼルドを待ったんだけれど、なかなか来ないし違う人選ぼうとしているしで慌てて前に出た。


「ちょっと!僕ここにいるけれど!?」

「あー…そうだな、今日はまだ休んだ方がいいと思って…って事で他の子と行ってくるからのんびりしてろ」


 人生で…初めて…僕は居残り組のガルの中に取り残された。


「シャシャ、一緒にお茶でもしましょ…」

「そうそう、無理したばかりだから気を使ってもらっただけよ」


 それから何日だろうか?僕から行くって言っても全部拒否されてしまって、何度か待機になったんだけれど。キーを投げ付けるという強硬手段も綺麗に弾かれて手元に戻ってきたし。

 その日は僕の機嫌が物凄い悪かったので開錠の仕事が物凄い捗った。多分請け負ってたのほとんど終わらせてやった。


「シャシャが来ると開かない本は無いわね…残り1冊よ…」

「ふんっ!!!」


 手をかざして鍵を無理矢理こじ開けてやった。周りは大変な開錠の仕事が捗ったのが嬉しいし、僕は八つ当たりが出来て少しスッキリしたのでよかった。

 研究も手に付かないし解読もイライラしてきて出来ない。アイテム作りに今度は没頭し始めた。


「シャシャが来たおかげで納期の3日前なのに全部作り終えれたわ、ありがとう」

「作り足りねぇなぁもっとないの?修理の仕事でもいいよ…なんでも持ってきな」

「じゃあこれお願いー」


 魔道具の修理も綺麗に直したし、剣の打ち直しも綺麗に仕上げてやった。こんなに優れた僕を置いていくとは…いい度胸だ…ウィゼルド・バロンド…。


「シャシャのおかげでティータイム出来るーありがとう!!」


 皆ガル塔に戻っていったので今度は研究所の職員に絡みに行くが、仕事がないと追い出されてしまった。ほぼ終わらせてしまったようだ。

 仕方ないので魔法練習場に向かう。


「あら、シャシャが来るなんて珍しいわね」

「1番強いのどれだい?」

「あの1番奥のやつよ、誰も使うこと無いからカバーかかったままのやつ」

「あれね」


 練習用の魔法人形のカバーを外して起動すると少し離れて黒魔法を撃ち込み始める。最初は軽いのから、徐々に強くしていく。最終的に魔法人形からギブアップの音が鳴ったのでやめざるを得なかった。


「あー…シャロンったら…凄い荒れているわね…」

「あ、キーラ、ナージャお帰り」

「またバロンドに拒否られたらしいな」

「おう、お陰で仕事やり尽くして何もないんだけれど」

「聞いたわ…開錠の仕事も、アイテム作りも、武器修理も全部やってしまったそうね…職員さんたちが逆に困っていたわよ」

「僕を内勤にするからいけないんだ…」


 いや、本当にウィゼルドが悪い!




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