10 - 僕には味方がいないのか!?




 ある日の事だった。急にクルミに呼ばれて話をする事になったのは。


「どうしたの?珍しいじゃないか、僕に…なんて…ウィゼルド今日休みだっけ?」

「その、バロンドさんについてちょっと…」

「なあに?」


 ベンチに腰掛けると隣に座りなよとポンポンと隣を叩く。ペコッとお辞儀して少し間を開けて座ったクルミが小さく深呼吸した。


「昨日、告白をしたんです」

「脈見当たらないのに良くぶつかりに行ったね」

「いや、無さすぎて意識してもらうためにと思ったんですけれど…あの人絶対シャシャガルの事、好きですよね!?」

「あー…気付いたか…」

「知ってたんですか!?」

「あれだけ懐いてくるし、見てるとね…流石にわかるじゃない?周りも気付いている」

「シノノメシャルフ達ですね…」

「そう」


 いつも一緒にいるもんね…僕たち。


「僕は色恋沙汰には興味無いから無視しているけれど…あれさ…ウィゼルドってさ…鈍感じゃない?」

「ええ…本当に…」

「自分の気持ちに気付いていないよね?」

「はい、昨日も告白の際に話をしたけれど…ずっとシャシャガルの事ばかり…」

「やっぱり…」

「無自覚で無意識に好きなのに全く気付いていなくて…こんな人本当にいたんだって…思いましたよ…」

「まあ誰か他に好い人出来てくれたらって思ったけれど…そこにも到達しなそうだよねぇ」

「無理、でしょうね…」

「諦めるの?」

「いえ、暫くは頑張ってみようかと思います…やっとそういう意識をし始めたと思うので」


 ウィゼルドがクルミを好きになることがあるかもしれない…それに上手くいくかもしれない。っていうか…


「いや、意識させちゃダメじゃない!?」

「…あ…」

「気付かないでくれ、自分の気持ちに…」

「…何故そんなに嫌がるのです?」

「え、僕は…パートナーは不要だから!誰かと合わせていかないとならないのは面倒くさいじゃない。ずっと1人だからこれからもこれでいい。ちょっとの友人とちゃんとした職があれば僕はいいんだよ…だから是非ともウィゼルドには気付いて欲しくない、自分の気持ちに…」

「私…じゃ…ダメかな…気付く前に私で彼の頭の中をいっぱいにすれば」

「出来ればいいけれどね…クルミ…じゃ無理そう」

「えええ」


 いや、本当に無理そう。多分ウィゼルドのタイプじゃない。いや、わからないよ?でも、苦手なのは確か。


「あまりグイグイこれらるの好きじゃなさそうだったしな」

「でもいかないと…すぐシャシャガルの所行くじゃないですか!」

「それなー!」


 そういえば気付けば僕も結構ウィゼルドのキー取っていたからそのせいかも、懐いたのって思って少し距離開けていたのに…休憩時間とかいたもんね、横に。


「シャシャガルが他に好い人見付ければ」

「絶対に嫌だ!!それに僕が誰かを気になっているなんて知ったら気付いてしまうかもしれないだろう?」

「そうか…」


 2人して腕を組んで悩んでいると横に誰か来た。勿論誰だかはわかっているけれど。

 更に2人して同じポーズを取って並んできたので流石に笑ってしまった。


「ぷはっ…キーラもナージャもなんだよ」

「いや、何か真剣に2人して悩んでいるみたいだから、何悩んでいるのかなぁって悩んでいたのよ」

「私もだ!」

「ああ、ウィゼルドに僕への気持ちを気付かせない為にはどうするべきかと」

「気付かせなさいよ」

「そうだそうだ、付き合ってしまえ!」

「ウィゼルド好きな子の前でよくそれが言えるな、君達は」


 クルミも困った顔しているじゃない。

 周りは敵だらけってか…いや、2人だけれど。


「でも、正直シャシャガルだったら…勝てなくてもいいかなとは思います」

「急にどうした?」

「だって、シャシャガルといる時のバロンドさん幸せそうじゃないですか…それにあの笑顔も素敵…それは私では無理かなって」

「うん、待て、急に向こう側に行かないでくれるかな?僕の味方は君しかいないと今思った瞬間に砕かれたよ?」

「だって…意識し始めてくれているとはいえ…前よりも避けられるようになっているんですよ?私!」

「きっと彼も悩んでいるんだ…っていうか今日会ったの?」

「会ったもなにも…出勤日ですから…」

「うん、待て話は終わりだ…近くに隠れているとかないよな?」

「隠れるもなにもさっきからいるわよ」

「私達の…横に」

「何っで気配消すかな!?能力の無駄遣い!!」


 キーラとナージャの向こう側のベンチに座っていらっしゃるじゃないか、ウィゼルド!


「いや、珍しい組み合わせだったし、真剣そうだったので邪魔してはいかんと思ってな!」

「じゃあこっそり現れて話盗み聞きしたのは良くないことだよね!?ウィゼルド!?」

「…はっ!」


 「…はっ!」じゃないんだよ!!1番聞いてはいけない本人が聞いてしまっていたんだろう!?どう誤魔化せばいいんだ…。


「しかし…俺は譲らないぞ!」

「な、何をだ…」

「シャロンの男友達1番の座だな…エルンドーにシノノメには勝てないが」

「いやどっから聞いてそんな話になっているんだか分からないけれど!君は僕の親友だ!3番目に入れてやる!!男友達1号の座も揺るぎない!!ずっと仲いい友でいてくれ!ウィゼルドぉ!!」

「まあ、最近のシャロン、色んな顔が見れてとても楽しいわ、私」

「私もだ…所で親友1,2番は誰かね?」

「1番はキーラ、2番はナージャだ!文句あるか!?」

「うーわ…圧強っ」

「私嬉しいわシャロン!私も親友1番はシャロンよ!」


 うんうん、ほっこりする。ってことでこのまま話をうやむやにしてさあ解散をしよう。


「やっぱり私…バロンドさんのこと、諦めます!!」

「クルミ!?」

「そっとしておいて下さい!!」


 えええ!?失恋し泣きながら走って行く女性を誰が止められよう…。これ以上にない味方だと思っていたのに…まさかの裏切りからの逃走…。


「バロンドが泣かせたー」

「うーむ…しかし…俺にはシャロンがいるからなぁ」

「何の話?」

「彼女は俺の側にいさせてくれと言って来たんだが…俺が1番仲良いのはシャロンだからそれは困ると言ったんだ」


 あー…鈍感にそんな遠回しな言い方は伝わらないよ、クルミ…。


「彼女にしてくれって意味だよ」

「む、そうなのか!?」

「あはは、バロンド君面白いなー…でも、トーマスシャルフ泣かせたのは確かねぇ」

「そうか、そういう意味か…どうも今まで忙しかった為、恋愛に割いている時間も無かったのでそういう考えに至らなかったな…」

「しっかり考えてあげて答えをしっかり伝えてあげた方がいいわよ…」

「しっかり…断ってこよう」

「うん、今は傷口に塩を塗り込むだけだからやめてやってな」


 間違いない。

 しかし、ここまで鈍感なら刺激しなければ自分の気持ちにも気付かないで済むな…この2人をどうにか出来れば…僕達の友情は永遠だ…。


「あ、シノノメシャルフにバロンドシャルフ!いいところに!!」

「お?なに?」

「どうされた?」


 急に上から声が降ってきたと思ったら司令塔の事務員さんだ。窓から顔を出して声かけて来たんだ。


「今一般兵の班から連絡があって、山に厄介な魔物が出たみたいで討伐依頼が来たんですよ!討伐をお願いしたくて!今降ります!」


 事務員さんが降りてきて詳細を教えてくれる。

 大きな植物系の魔物らしいく、足もないので動かないんだが、成長速度が早く蔓を伸ばして攻撃してくるみたいでシャルフじゃないと厳しいとか。


「珍しいね、私はいいよ」

「じゃあ私達ルブル組でいきますね」

「俺も大丈夫だ」

「…これ、僕もって言わないといけない空気?」

「出来れば急ぎなのですが…他のガル呼んできて頂いても大丈夫ですよ」

「じゃあ私達は先に現地に向かう!行こうキーラ!」

「はい」


 2人は装備を整えに向かった。


「シャロン、無理はしなくていいぞ、誰か呼んでもらうから」

「いや、いいよ…行こうか」


 まあ、仕方ないじゃない仕事だしね。って唱えながら山での戦闘の為の準備をすぐに済ませて動物塔に向かう。


「シャロン」

「はい」


 既に愛馬のヴェラルドに乗っているウィゼルドに腕を引かれて後ろに乗ると現地へと向かっていく。

 たまにこういう依頼が来るんだが、滅多に僕は出ることが無かった。なんせいつも研究していたからね。


「魔物の詳細情報送られてきた」

「水属性の蔓での打撃攻撃をメインとしている、毒を持つ魔物…じゃない?」

「シャロン、よくわかるな!」

「昔に村でも皆で討伐したことがあるんだよね」

「流石だな…エ族は」


 現地の山に着くと既にナージャ組は戦闘を開始していたのでこちらも戦闘準備をしてから参戦する。


「キーラ!」

「私達は左を行くわ!」

「毒と蔓に気を付けて!」

「わかったわ!」


 少し離れているキーラと軽く話し、ウィゼルドが右側の蔓を切り落としつつ進む。


「キリがないぞ」

「根元を絶たないといけないからね」

「根元とは?」

「もちろんど真ん中の地中、核はそこにある」

「やはりそうだよな」


 一般兵は引いたって聞いていたけれど…人の気配。

 辺りを見回すと足と腕が見えた。


「ウィゼルド、あれ、人じゃない?」

「何!?…生きているか!?」

「分からない…」


 中心の花になっている部分に飲み込まれようとしているところだ。急がないと中で消化されてしまうだろう。

 風魔法を使いながらキーラと喋り、人命救助も必要になったので作戦を練りながらも僕も蔓を焼き切っていく。


「僕が飛び込んで引き上げる!」

「危ないだろ、それは」

「中から焼けば隙が出来るからその間に核を壊して」

「でも、シャロンが…」

「僕は大丈夫、Sランクのガルだぞ!ほら魔法効果延長させておくから頑張って!」


 魔法を付け直し、馬の上に片膝ついて乗ると風魔法を駆使して高く上に飛びそのまま人が食われかけている真ん中に飛び込む。食われかけている人を引き上げつつ自分達に魔法バリアを張ると花の真ん中で大きめの雷魔法を放つ。

 魔物が怯んでいる間にナージャとキーラ組が側まで来たので助けた人を引き上げてもらう。


「キーラ!頼んだよ!」

「ナージャ!!」


 引き上げた人をキーラに任せてナージャが真ん中に飛び込んできて中心の蔓を斬っていくので僕も蔓を焼いていく。やっと核が見えたが尋常じゃない大きさだ。


「でかっ初めて見る…」

「バロンド、今だ!核やれ!」

「はい!」


 高く飛んだウィゼルドが核目掛けて剣を突き立てる。高さスピード体重全てを駆使しての一撃は大きな核をいとも簡単に壊してしまう。やっぱ凄いやと感心してしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る