05 - 鈍感で見ていてなんだか面白い君
ランキング発表が行われていき下位から順に出て行く掲示板を見上げる。なかなかウィゼルドの名前は出ない…3位、そして2位。
「あ、そういえば僕…初めてトップかもしれないな」
「え」
「ほら、ウィゼルド…初日で1位だ」
「凄いな!シャシャガルのお陰だ!ありがとう!!」
「…そんな事…君が凄いから取れるんだよ、僕だって神様じゃないんだ…君の能力を引き出す手伝いをしただけだよ」
正直こんなに出来るとは思わなかったから驚いた。キーラ達2位との差も少しあるし。これなら他のガルも昇進に使えると分かって人気が出るだろうな。
「さてと、デザートも片付けられてしまっているだろうからおやつ休憩でも行こうかな…キーラは?」
「私もー詰所、今日はケーキ屋さんが来てくれる日だし」
「そう、それを狙っていたんだ、僕」
「なら!私も行くよ!」
ナージャは甘いもの好きだからね。
「あ、ウィゼルド」
「ん?」
「はい、キー」
「ああ、そうだった…まだ慣れないな」
こういうシステムはここに来てから初めてだろうからね。僕も最初慣れなかった。キー交換をする。
「ねえ、ウィゼルドもケーキ食べに行かない?」
「ケーキ屋と言っていたが…」
「ここの詰所にね、色んなお店の人が商品を持ってきたりするんだよ。僕が直々に案内も兼ねて教えてあげよう」
「お願いしようかな!」
うん、相変わらず声がハキハキしているし通るな…。
詰所の食堂に入るとケーキ屋さんが納品に来ているところだった。
「お、1番のりじゃない?」
「やったね、選び放題だ」
「なるほど…こんなに種類があるのか」
「好きなのを好きなだけ選んで食べていいんだよ」
キーラもナージャも2個にするだも3個だのって話しながら選んでいる。騎士団で買っているものだから職員は無料で食べれるのはありがたいと女子から大人気なんだ。
僕も2種類目を取っているとウィゼルドが初めて眉間に皺を寄せているのを見た。
「どうしたの?凄い顔してるけれど」
「いや、どれにするか…とな」
「何種類で悩んでいるの?」
「3種類あってな…」
「じゃあ全部」
「へ?」
「僕も一緒に3つ食べるからさ…それに、こっち見て…ほらねっ!」
指差した方を見ると既にキーラは5つ、ナージャも4つ皿に乗っている。ケーキをテーブルに置いて僕とキーラで珈琲を用意しに行く。
「今日は結局何個取った?」
「私は6つよ」
「食べるねぇ…」
「ふふっ魔力たくさん使ったから補給しないとね」
「キーラの回復方法は食べることだもんね、太らないように気を付けるんだよ?」
「全部魔力に持っていかれるから、大丈夫よ!」
4人分の珈琲をトレイに乗せて僕が持っていく。ナージャの皿にも6個乗っているなぁ。
「しかし、ウィゼルドが甘いもの好きなの何か意外」
「そうか?」
「苦手そうな顔してる」
「ははっ確かに甘味処行くと浮いているな、俺は」
「自分でもそう思うんだ…」
ケーキを食べ始めると徐々に女性が増えていく。中には男性職員もいるけれど圧倒的女性率が高い。
「食べ終わったら僕はアイテム作りに行くけれど、キーラは?」
「ナージャと話の続きをするわ」
「日程決めるんだ」
「へぇ、お祝いしに行かないとだね…僕がお店探すからお祝い飲みしよ」
「お、シャロンのおごりか!いいね」
「ふふっ大げさよ」
大げさなもんか…。だって僕の大好きな彼女達が両想いでそれにルブル組むんだもん。
「僕はね、嬉しいんだよ…君たちが幸せそうな姿を見れるのが」
「なんだ、結婚でもするような言い方だな」
「違うけれど、違わないかしらね…ナージャがルブルを申し込んでくれたの」
「ああ、なるほど…それは!おめでとうございます!」
相変わらず声が通るけれど、僕もそのくらいの気持ちなんだよね。まあ元々僕はそんなテンションにはないけれど。
ケーキを食べ終えて詰所を出るとキーラとナージャはシャルフ塔に向かっていった。ナージャの部屋で話すんだろう。
「ウィゼルドは待機中なにするの?」
「案内してもらったが、まだ敷地内挨拶などして回れてないからそれだな」
「じゃあ僕が今行くところまでの間なら僕が案内してあげよう…といってもまぁまぁ奥の方まで行くからほとんど案内出来るかな」
「何から何まで…ありがとう」
「君ってさ…なんでそんなにガルにお礼言えるの?珍しいね」
「え?してもらった事に対してお礼を言うのはあたりまえじゃないか…俺達シャルフはガルがいなければ戦えないんだから」
いいこと言うじゃないか。
案内を終えて俺がアイテム作成始めるからという事でウィゼルドは他に行ってしまった。新入りにしてはなかなかいいシャルフ入ったな。
翌日の仕事は休みだったからアパートでゴロゴロして午後は買い物をしてからアイテム作りをしたいので工房を借りに向かった。
敷地内はガランとしているので多分出撃しているんだろう。
作りたいものを半分も作り終えなかったけれどまあ晩ごはん頂いて帰ろうかな。休みの日でも食べに来ていいって言われているからね。
詰所の食堂に入ると事務員さん達に混ざってごはんを頂く。
「シャシャガル、今日は休みじゃ?」
「ああ、アイテム作っていたんだー…割るとバリアが張れるアイテム」
「それは凄いじゃないですか」
「それよりも紙とか数持てるようにしたいんだよね…明日研究日にしちゃダメかな?」
「申請頂ければ研究施設に行く期間を設けますよ」
「そっか、そんなのもあったなぁ」
「シャシャガルがいなくなると困るんですけれどね…でも画期的なアイテムを考えるのも大事ですからね」
「研究は没頭するとねぇやめられなくなっちゃう」
研究期間の申請書くれるっていうので一応貰って帰るために司令塔に向かう。
「取ってくるので待っていて下さい」
「はーい」
事務員さんが中に入っていくのを見送ってベンチに腰掛けてボーッと空を見上げる。暗くなるの早くなったな。もう秋だもんな。
「バロンドシャルフは好きな食べ物はなんですか?」
「俺か?俺はそうだな…特にないが…肉料理はスタミナを付けるにも体力を回復するのにも俺には合っているな」
「昨日はケーキをたくさん食べたと言ってましたが、甘いものは?」
ああ、ウィゼルドとクルミだ。動物塔か詰所の方から来たんだろう。
あの子あんなに声張って喋れるじゃない…まあ好きな相手というか、懐いた相手にだけなんだろうけれど。
「うむ、嫌いではないぞ」
「というと、好きでもないんですか?」
「身体が疲れるとなんでも食べて回復したくなるからな、特別好きというものではないな」
それで3つも食べたの?それはそれで凄いな。
「おお、シャシャガル!すまない少し話してくるから先に戻ってくれ!」
「食事は…」
「先に食べてくれ!」
そう言ってクルミから逃げるように僕の所に来ると間を空けて隣に座った。
「座ってもいいか?」
「もう座っているじゃない」
「そうだな!」
「彼女置いてきてよかったの?」
「ああ、構わん…というか今日は休みだったみたいだな。ガル塔に名前が無かったが、休みだと出ない…というわけではないよな?」
「休みだったよ、僕誰かと相部屋になるの苦手で外にアパート借りてるんだよ。騎士団の外寮だね」
「用事があってきたのか」
「うん、アイテム作るのに工房借りていたんだよ…で、食事をして今申請書を貰うところ」
「申請書?」
「そう、研究機関に行くための申請書」
急にバッと立ち上がったウィゼルド。驚いて見上げてしまった。
「ここを辞めてしまうのか!?君ほど優れたガルが辞めてしまうのは大きな損失だ!考え直してはくれないか!?」
「…ぷはっ…」
「何故笑う…」
「ふふっ違うよ、作ってみたいアイテムあるんだけれど研究機関でやった方が効率がいいから少し行かせて貰うかもってだけだよ、まだ決めてもない」
「そ、そうなのか」
安心したのかさっきまで強ばっていた表情も和らいだ。
街灯に照らされた彼の髪はこんなに暗くても明るく見えるな…まあ肌は職業柄焼けて黒いけれどね。
「何かウィゼルドって素直なんだろうな、面白い」
「そうか?」
「最初はこんなに声大きくて苦手なタイプかもって思っていたけれど」
「こ、声が大きいのは…苦手か!?すまない…」
「ううん、急に声張られたら驚くけれど別に大丈夫だよ…そもそも僕苦手なタイプばかりだからね」
「苦手なタイプばかり?」
「ぷはっ…そのまま聞き返してきたね…他人をあまり信用しない、好きになれない…そういう感じかな…別に誰かにいじめられてきたとかじゃないよ、なんなら突っぱねるし」
「うむ、君なら全員言い負かせそうだな!」
「でしょう?だから他の人とは距離を置きたいの…初めてじゃないかな友達が出来たの…」
「エルンドーガルとシノノメシャルフか?」
「うん、そうだよ…僕のね大切な人達。こんなに人を大切だって思ったの初めてかもしれない…だから彼女達をいじめる人は嫌い、君はそういう事しないだろうけれどね」
僕がずっと一緒にいて守れるなんて事はないからさ、彼女達が嫌な目にあわないでくれたらいいんだ。
「俺も同じだ…弟と妹みたいな子達がいてな…離れてしまったけれど彼らを守りたいと思い力を付けてきた。俺には家族がいないからな…その子達の親も俺に優しいそれこそ本当の親のようだ…そんなに年齢も変わらないがな」
「へえ、君も家族がいないのか…僕も実際は独りぼっち…兄がいるけれど…年に1、2通手紙が来るくらい」
「俺もそうだな、生き別れた妹がいるらしいが…会った記憶もないし今後会うことはないだろうな…親の顔も知らない…」
なんか、重くない?ウィゼルドの話、これ絶対重い話になるよね?って思っていたら事務員さんが書類を持ってきてくれた。
「行くって決めたら連絡くれればいいから」
「わかったよ、ありがとう」
立ち上がってそれを受け取って帰ろうかと思ったけれど、ウィゼルドが立ち上がらないので事務員にお礼だけ言って座り直した。
「今度さ、機会があったらまた話そうよ」
「いいのか…?」
「うん、僕は君を嫌いではないからね」
「それは、好きでもないって意味だな」
「さっき君も使っていた」
「…あ」
クルミと話していた時のこと。
「無理してケーキ付き合わなくてよかったのに」
「いや、本当に好きなんだ、甘いもの…ただ、彼女に知られると何か良くないって直感でつい、嘘をついてしまった…」
「…ぷはっ…あははは、君それ正解だよ…」
急に笑い出した僕をキョトンとした顔で見てくる。鈍感すぎるってほどではなさそうだけれど…直感って…。
「彼女は君に好意を抱いている」
「昨日初めて会ったのにか?」
「君がいじめから守った姿を見て、惚れたんだろう。ウィゼルドは過去に何人の女の子泣かせて来たんだろうなぁ…」
「え!?そうか?無いと思ったが…好意…」
ん…やっぱり訂正しよう…鈍感だ。
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