04 - 新入りってなんでとりあえずいじめられるんだ?




「先輩だろうが…ガルに…人に手を上げるような奴は最低だ!」

「な、何をなさったの?こんなに…指の骨折れているんじゃないかしら?」

「うーわ…痛そう…」

「うむ、誤算だった…こんなに弱いとは思わなくてな…拳を振りかぶっていたので俺も拳をぶつけだけなんだが…」

「ぷはっ…」


 なにこいつ面白いなぁなんて思いながらお腹抱えて笑ってしまった。僕達を守ってくれたんだね、なかなか骨のあるいい奴だな。


「よし、じゃあ僕達を守ってくれたから今度は僕が守らないとね…」


 まだ拳を抑えて呻いているオズの顎をつま先で無理矢理上を向かせる。


「さあオズ…拳を出しなよゆっくりじっくり治してあげるからさ…」


 僕はそんなに白魔法得意じゃないっていうのも骨をくっつけるのが難しくて時間がかかるんだよね。魔力量で補ってきてはいるけれどちょっと技術が伴ってない。これはキーラに今習っている所。

 骨を全部くっつけるのに5分は掛かるだろう。その間ずっと痛くて痛くて仕方ないと思うよ…もうそれは、大の男が泣き喚くくらいに。


「シャロン…鬼畜だわ…」


 ぼそっとキーラがそう言ったのが聞こえたけれど治療開始していたのでもう止められない。しっかり動かないように拘束魔法もつけての治療はシャルフ塔の寮長が来ても続けられた。

 まあ治らないわけじゃないからさ、しっかりと指が動くようになったオズは、涙やよだれや土で顔をぐっちゃぐちゃにしながら医療班の方に走っていった。汚いなぁ…。


「信用ないなぁ僕…ちゃんと治したっていうのに…」

「貴方の治療法はね、不安になるのよ…」

「だから今キーラに習っているところだろう?」

「もっと練習が必要ね…上手に時間を延ばす練習も…ね」


 わざと時間延ばしていたのバレていたか。


「えっと、新入りシャルフさん、ありがと…お陰で僕もキーラも無傷だ」

「いや、俺がもう少し手加減出来ていれば苦労かけず済んだのにな、申し訳ない」

「ああ、いいって」


 オズをいじめられるいい機会だったからね。

 新人の女の子シャルフの証言も僕達の証言もあり、シャルフ長の頭は上がらなかった。まあ、怒ったキーラが強すぎるっていうのもあるんだけれどね。


「今朝も紹介があったが、俺はウィゼルド・バロンド!シャルフになって4年のまだまだひよっこだ、よろしくお願いします!」

「僕はエ・シャロン・シャシャ」

「私はガル長のキーラ・エルンドー…ガル側に何か不手際などあったら私に言って下さいまし」

「お2人は身なりからしてAランクのガルとお見受けしますが」

「うん、僕もキーラもAだよ…あ、でもダメだよ…キーラにはナージャっていう心に決めた相手がいてだね」

「ちょっと、シャロン!?」

「ふふっ、だって誘われてたらナージャ嫉妬しちゃうかもしれないからさ、言っておかないとねー」

「んもう!」

「自分はまだここでは新人なので一緒に仕事はないかと思いますが、これからよろしくお願いします!」


 珍しくガルに礼儀正しいなぁなんて思いながら「よろしくね」なんて簡単に挨拶して終わった。新人女の子シャルフも落ち着いて挨拶をしてくれたけれど、ずっとウィゼルドの事をチラチラと見ている。ああ、助けてもらって惚れたのだろうか?


「シャルフ長との喧嘩も終わってしまったわね…」

「全面戦争にならなかったのは寂しいけれど、勉強に戻ろうか」

「ええ、そうね…ナージャも一緒にどうかしら?」

「私はこの2人連れて道場にでも行ってくるよ、それに案内も兼ねて色々見せてくる」

「わかったわ」


 新人教育はナージャなら適任だと思う。明るいし感じいいもんね。僕、彼女の事も好きだな、とてもいいシャルフだし。


「話はどうなったんだい?」

「ふふ、本当に聞いてなかったのね何も」

「本読み始めるとついね…」

「ルブルすることにしたわ」

「本当かい!?それはおめでとう!」


 2人は互いに気持ちを伝え合っていなかったというのも多分ネックだったのだろう、それも上手くいったと喜ぶ彼女を見て僕まで嬉しくなった。


 午前は出ることはなかったのでランチをしにガル塔の食堂に入りのんびりと食事をしてデザートを食べていると、物凄い音のサイレンが鳴り響いた。塔内の音量少し下げてもらいたい。

 装備もしっかりと整えているので僕達はそのまま外に出るだけだった。1番前にキーラと仁王立ちしていたらキーラは退かされてしまった。


「ちょっと、キーラ邪魔!」

「ええ!?」

「貴女はシノノメシャルフ出勤日だから決まっているのだから下がっていて頂戴」

「んもう、皆意地悪ねぇ」

「相棒決まっているような人にはこの必死さ伝わらないのよ!」

「っていうか!シャシャも邪魔!」

「ええ!?」


 僕まで押しのけられてしまった。


「キーラはわかるけれど、僕だって相棒決まっていなくて毎日不安なんだけれどー」

「あんたが1番人気なの!下がっててもすぐに声かかるんだから前譲りなさい!!」


 まあ、確かにそうだけれどね…って事で後ろでションボリとキーラとしゃがみこんで膝を抱える。


「ガルの皆が冷たいですわ」

「本当ですわ…」


 イジイジといじけていた仲間のキーラはナージャの姿を見てスッと立ち上がってササっと行ってしまった。うん、僕取り残されているね。


「ちょっと、シャシャいないのか?」

「今シャシャいじけているけれどいるよー」

「じゃあ出てきて誰と行くか選んでくれ!!」


 他のバディもチラホラと動物塔の方に向かっているけれど5人くらいが僕にキー差し出している。別に僕は誰とでもいいんだけれど…と視線を彷徨わせると新入り2人がこの場に圧倒されているのか少し離れたところにいる。


「なんで新人2人は来てないの?」

「え?さあ?」

「どうせ新人は最後だ!とか誰か言ったんでしょう?馬鹿みたい」


 そう言い捨ててガル列から離れてオレンジ髪の前に立つ。


「ウィゼルド、僕を選ぶ気ない?」

「え、しかし、先に先輩が選んでいたじゃないか」

「僕はあの人達より上のランクだから絶対的拒否権があるから大丈夫っていうか君も選んでくれていいんだけれど?」

「先輩達がはけてからにしろと言われているのでな!」

「私もです…」

「えっと…クルミだっけ?」

「あ、はい!」

「君のランクは?」

「私はDです…」

「ふむ、僕がガル選んできてもいいかな?」

「え、いいのですか…?」

「適任がいるんだよね」


 ガル列に戻ると後ろの方で大人しくしているガルに声を掛ける。


「逆新人教育といこうか、シリナ!女の子シャルフと組んであげてよ、君なら丁寧に教えてあげられるでしょう」

「あら…いいのかしら?あんなに可愛い子…」

「取って食わないでよ?」

「ええ」


 シリナを連れて行くとペコペコと頭を下げて挨拶しているクルミ。2人が動物塔に向かっていったので残されたオレンジ髪の方を向く。


「んで、ウィゼルドは僕を選ぶ気はないのかい?」

「よ、よろしく、お願いします…?」

「うん、よろしい」


 キーを交換して時計に差し込むと、急いで動物塔に向かう。そこにはオレンジが綺麗な怪鳥がスタンバイしていた。ああ、今日は空だったか。


「キャル、今日もよろしくな」

「へえ、キャルさんっていうのか…僕はシャロンだよ、これからよろしくね」


 撫でると擦り寄ってきてくれる。うん、とってもいい子だな。そして綺麗。


「綺麗だなぁキャルさん」

「だろ?俺の大切な仲間だ!褒めてもらえてよかったな、キャル!」


 クゥゥと嬉しそうな高い声で鳴く。声まで綺麗だ。

 ウィゼルドの後ろに乗り、支度すると空へと飛び立つ。空中戦も慣れるまで怖かったけれど今じゃ慣れたもんだ。


「魔法効果付けるんだけれど…とりあえず接敵早そうだからスタンダードで全部つけるから暫くはそれで戦える?」

「助かる!よろしくお願いします!」

「…」


 珍しいな、よろしくなんていうシャルフ。新人ならあるけれど、結構シャルフ歴長いのに。

 一通り魔法を付け終わってから彼のステータスやらを確認して驚いた。


「なんだ、ウィゼルドもAランクじゃないか」

「ああ、そうだ」

「何であんな人たちの言う事聞いてたのさ….あいつらBとかCだよ」

「一応ここでは先輩だからな、それに新人の女の子が可哀想だったからついて行ったんだ」


 喋っている間に魔物と戦闘を開始していた。


「凄いな、核の場所がしっかりと分かる」

「そう言う君も凄いね全部一撃」


 霧を集めながらも彼の能力の分析を進め、新たに魔法を練り直す。


「ちょっと上昇、魔法を全部付け直す」

「今のでも十分だが?」

「いいから、言う事聞く!」

「はい」


 キャルさんに指示を出して上昇して群れから抜けると一つ一つ丁寧に付け直していくと最後に持っているランスに触れる。


「これは別に構わないぞ」

「いや、少し重量を軽くしよう、空中戦だときっとこっちの方がいい」

「そうか?」


 空中戦だと軽い方が振り回しやすいし力じゃなくスピートで攻めたほうが対応しやすい。なんせ鳥型の魔物は速い。


「その分殺傷能力を極限まで上げてある」

「わかった、やってみよう」


 群れの中に戻っていくと早速一気に5体を仕留めて驚きの声を上げている。


「なんでこんなにしっくりくる?」

「君の能力を分析して君に合わせて魔法を練り直しているからだよ…重さはどう?」

「振りやすくなっていて確かにいい」

「じゃあ頑張ってトップ目指そうか」

「は?トップ…!?」

「ほら、左抜けちゃうよ、行って」


 暫くは彼の動きを見てサポートをしていたけれど徐々に僕も勝手に動物に指示出したりして攻撃を始める。


「左、やる。右やって」

「わかった」


 僕の魔法で魔物の核は壊せる。黒が1番得意な魔法だからね、シャルフの武器じゃなくても僕の魔法の威力なら簡単に出来る。

 2時間近くの戦闘になってしまったのは陸上からも魔物が攻めてきていたからだ。またキャルさんが凄い低空での飛行を行うから今度は僕が凄く驚いた。

 仕事を終えて浄化の機械の場所を教え、浄化させてからランクが出るのを待つ。


「キーラ、ナージャお疲れ」

「お疲れ様」

「あれ、バロンドと一緒だったのか」

「うん、新人教育を僕がしてみた」

「珍しいわね、シャロン。新人に興味持つなんて」

「新人ところかシャルフに全然興味ない君が」


 まあ2人の言う通りだけれどね。なんなら人にそんなに興味はない。


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