03 - 初めて友達が出来たんだ。




 腕時計のヴァンフォム・ロードとは製作者3名の名前から取っている。その腕時計が魔物討伐数のカウントをしてくれる。

 魔物の心臓は黒い魔石で『核』といわれている。その核を壊さない限り腕を切り落とそうが、頭を跳ねようが再生してしまう。そしてその核を壊すと黒い霧になる…その霧を魔法で集めて腕時計に吸わせるのもガルの仕事。

 そして今は仕事を終え、司令塔の横にある浄化機に腕時計をかざし、浄化と共に討伐数を計測しているところだ。

 下位から順に掲示板に出て行く。


「7位じゃない…」

「まだ上ですね」


 6位、5位と徐々に発表されていく順位。そして…


「3位…だ…」

「なんだ、思ったよりも上行ったみたいだ…」

「シャシャ…君は…!」

「はい、キーです」

「あ、うん」


 キーの交換を忘れていたので返して僕のを受け取った。


「では、お疲れ様でした」

「え、あ、うん、お疲れ…」


 これ以上はシャルフと話してても仕方ないので切り上げてガル塔に向かう。


「あ、シャシャさん、お疲れ様でした」

「キーラは何位だったの?」

「私の相棒はとてもお強いので2位でした…シャシャさんも出られたのですよね?」

「ええ、グフトシャルフと一緒で3位でした」

「…はい?あの、グフト・ラナーズシャルフですよね??」

「はい」

「なんてこと…」

「え?なに?どうしたの?」

「あの万年7位のシャルフを3位に押し上げたのですか!?」

「え、まずかった?」


 僕はいけない事をしてしまったのだろうか…キーラの顔が凄いことになっている。これは謝って許してもらえるのだろうか…。


「いえ、凄いと思いまして…どのガルがついてもなかなか7位から上がらない方だったので…」

「うん、グラフとか見て判断して魔法の量を変えてみたらいい感じに動けたみたいだね」

「グラフ…そこまで見るガルなんてなかなかいませんよ」

「え、でも初めての人だしちゃんと見ないとわからないじゃない?」

「まあ、そうですが…グラフを見て瞬時に判断するというのは難しいです…」


 僕はちゃんと計算したりして導き出した魔法量だけれど、そういうの皆やらないんだね。


「じゃあ僕もやらないほうが良さそう?」

「いえ、出来るのでいしたら是非やった方が討伐効率も上がりますので」


 ああ、皆出来ないのか…単純に。

 翌日の仕事では違うシャルフと仕事した、そして翌日も…次も…次も…ほぼ全員と組んでみたけれど…皆同じ反応したよね。ここのガルのレベルが低いのか僕が高すぎるのかはよくわからないけれど…僕は何年かしたら中央に行く予定だし…このままでいいか。


 そこでも1年くらい働いていたある日の事。


「新人のシャルフ来るみたいよ」

「まあ僕は誰と一緒でもいいんだけれどね」

「ふふ、妬けちゃうくらいにシャルフ人気高いものね、シャロンは」

「キーラだって」


 彼女は僕がどうしてこんなに仕事が出来るのか気になったとかで色々教えていたから能力も上がり、僕の次くらいには凄腕のガルになっている。相変わらず同じ女性シャルフとばかり組んでいるけれど。


「新人シャルフは女性みたいね…後他から異動してくる人は男性みたいねぇ…」

「キーラは本当男嫌いだよね」

「というか男性シャルフが特に苦手です…」

「今更だけれど、一応僕だって男だけれど?」

「うーん…男性苦手だけれど…シャロンはあたりが柔らかいから嫌いじゃないわ」

「そう?ならよかった…君には世話になっているし、僕も女性苦手だけれど君には慣れた」


 異性としての好きというのはないけれど、仕事仲間として…は今までで1番好きだな。まず彼女が僕を好きになることがない、だから互いに一緒にいて仲良くできるんだ。正直、僕は友達だと思っている。


「相棒とルブルする話も出ているんだろう?」

「ええ、彼女が私と一緒になりたいって言ってくれているの」


 いつもルバディ組んでいるシャルフに半永久相棒契約であるルブルを申し込まれているらしい。

 その場その場でバディになるルバディとは違い、相棒を変えることが出来ない血で繋がるルブル。簡単にバディ解消出来ないので皆渋るんだよね。僕だって嫌だもん。


「彼女の事は好きよ…でも私でルブルが務まるのかが不安なの」

「ルブル契約するとさ、能力も上がるしシンクロ率も上がるから大丈夫だと思うけれどな」

「そういうけれどね…」


 ルブルに悩んでいるガルなんて珍しい。大体はずっと仕事があるからってルブルすぐ組みたがるもんなんだ、ガルは。シャルフは仕事どこいってもしっかりあるけれど、ガルは余るから他の仕事させられるんだ。ガル列に取り残されたことないから僕はその屈辱を味わったことはないけれど、それが辛いんだって。


「朝礼の時間ね、行きましょうか」

「うん」


 ガル列に並ぶと騎士団長からシャルフ2名の紹介があった。小柄な新人女性シャルフとオレンジ色の髪が目立つ目力のある男性シャルフだ。

 女の子の挨拶はちょっと聞き取るのに苦労しそうだから流した。男性シャルフが喋り出して女の子との差が激しすぎて驚いた。


「ふふっハキハキ喋る方ね」

「ほんとだね…苦手なタイプかも、僕」

「まあ、私なんて大抵の男性苦手なタイプ」

「ふふっ、そうだね」


 コソコソと話している間に挨拶が終わった。ルイバ領ってちょっと離れているところだったような…そこから来たっていうのは聞こえた。

 朝礼が終わりキーラと食堂でタンブラーに珈琲を貰って外で本を読もうって話になった。本って言っても魔道書ね。勉強も大事な仕事の一環だからね。

 天気もいいので外のチェアを二脚並べ、それぞれに腰掛けて本を開いて読み始める。


「シャロン、この魔法なんだけれど」

「どれ?」

「網をよく張るじゃない?その形を変える方法知ってる?」

「ああ、術式とイメージでなんとかなるよ」

「やっぱり知っているのね、流石だわ…教えてくれないかしら?」

「勿論いいよ、簡単だからすぐ出来るよ」


 コツを教えてみれば本当にすぐに出来るようになった。キーラの飲み込みの早さは教えていて面白いくらい。それに教えてもらう事も僕もあるしとてもいい、友人だ。


「キーラ…」

「ナージャ…どうしたの?」

「あの…」

「ふふっルブルの話じゃないのかな?」


 声をかけて来たのは淡い水色の髪を頭の上でお団子にしたちょっとか弱そうな見た目の女性。キーラの想い人のナージャ・シノノメシャルフだ。


「え、キーラ…もしかして皆に言ったの?」

「僕にだけ、でしょ?他に言ってたら僕嫉妬しちゃうな…」

「言ってないわ!私が相談するのはシャロンだけよ!」

「ナージャ、君の話を聞かなかった日は無いくらいに真剣に悩んでいるから心配しないであげてよ」

「ちょっと、シャロン!」

「まあ、ナージャからもキーラの話聞くけれどね、僕」

「ああっシャロン!お前!」

「僕まだ読書してるから話してくれば?それとも僕がどっか行こうか?」


 顔を真っ赤にした2人をニヤニヤしながら見ていたらため息をつかれた。


「シャロンには何を言っても勝てないのよね…」

「本当にね…じゃあこっちのベンチで話そうか」

「ええ」

「そこだと僕聞こえちゃうけれど」

「お前ならいい」


 そう言うナージャがキーラを連れてベンチに腰掛けてルブルの話をし始めたので僕は読書を再開した。新しいアイテムを作れないか考えている所なんだ。

 しばらくして騒がしいなと顔を上げるとシャルフが出てきて広場で何かしていた。


「なにあれ」

「本に集中していたのねシャロン」

「新人2人の実力を試すとか言って馬鹿な奴が言い出したんだろうな…新しいシャルフ入るとやるんだよ…」

「馬鹿ってことはオズ?」

「ふふっハッキリ誰かって言ったら可哀想よ、シャロン」

「でも、そうなんだよ…オズが良く新人いびるからさ…」


 僕も何回か一緒に仕事したけれど偉そうでムカつくから断っているんだよね、最近は。

 3人の先輩に囲まれて、新人の女の子シャルフなんて震えているのに…可哀想に。


「寮長呼んでくるわ、私」

「そうしてあげて…新人シャルフの子震えていて可哀想だわ」


 男性シャルフは全然今朝と変わらないで先輩シャルフが話している事を聞いている。

 ナージャが寮に入っていったのですぐに止めにくるだろうけれど、新人いじめるなんていうのは僕は好きじゃないしとてもムカつく。


「じゃあ女から試してみるかぁ」

「ひっ!」


 新人シャルフ泣きそうになっているのを見て、流石に胸糞悪いと思い止めに入ろうかと思ったら静かに話を聞いていた男性シャルフが一歩前に出て新人シャルフの前に立った。


「まだ彼女は緊張しているであろう、まずは俺からでどうだ?」

「は?」

「先輩方の指導、お願いしたい!!」


 うん、とっても良く声が響くね。それを聞いているオズ達が慌てているが全員が木刀を構え、男性シャルフも木刀を構えた。

 オズが切り込んでいって一瞬だった…全員の木刀が叩き落とされたのは。


「む…しまった…ちょっと力入れすぎてしまったか!先輩方、怪我はされていないか!?」

「てめぇ…」

「ぷはっ…」

「しゃ、シャロン!?」


 ついつい面白くて声上げて笑ってしまった。それが聞こえてしまったであろうオズが今度はこっちに向かってきた。


「何が面白んだ?シャシャ…」

「え、やだなぁ…新人いびりして、返り討ちにあってる…ふふ…何か馬鹿なシャルフ…いるなって…あははっ」


 オズが僕に殴りかかってきたので瞬時にバリアを張ってそれを受け止める。


「やだやだ、すぐ頭に血が登るんだもん…君…頭冷やしてあげようか?」

「やめておきなさいな、シャロン…シャルフ怒らせてもいい事無いわよ、後…こんな馬鹿な人に魔法なんて、魔力の無駄遣いだわ…」

「エルンドー、貴様…!!!」

「さてと、シャロン…私は仕事が出来たのでシャルフ塔に乗り込みますが、貴方は証言に着いて来てくださらない?」

「いいよ、面白いね…シャルフ塔との全面戦争でもしに行きそうな勢いが気に入った」


 2人で立ち上がるとオズを見る。喧嘩売った相手が誰か良く考えてもらいたいものだね。


「オズが馬鹿なのは知っていたけれど…喧嘩売ったの誰か分かる?」

「は!?」

「キーラはガルのトップである寮長…そしてキーラも僕は君よりもランクが高いガルなんだよね…ボーナス無くなる覚悟はしておいた方がいいよ」


 オズの横を通り過ぎてシャルフ塔に向かう。少し歩いて後ろからの殺気を感じ取って呆れていたら、正面にいたオレンジがゆらりと揺れたと思ったら凄い速さで走ってきて僕達の後ろで物凄い音が聞こえた。

 2人で振り返ると右拳を抑えて転げまわっているオズと涼しい顔をして僕達の盾になるように立っているオレンジ髪のシャルフがいた。


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