第8話 いざお掃除!

 あおぞら池の近くにある物置小屋の前にやってくると、もう何人か美化委員のみんなが集まっていた。

 その光景だけで、なんだか感動モノ。

「洋治くん! よかったね!」

 思わず洋治くんの背中を叩く。

 でも洋治くんはいまいち納得してなさそうな顔。

「全員じゃないのか」

「全員じゃないかもだけど、私と洋治くんと野中先パイの三人だけだったのに、ずいぶんたくさん来てくれたじゃない! 呼びかけしてよかったね!」

「わからない……」

「なにが?」

「掃除に来てくれた理由も、来ない理由も……イマイチよくわからない」

「あー……」

 それは、そうかも。

 来てくれない理由は色々思いつくけど、来てくれた理由がよくわかんないんだよね。

 前の掃除に来てくれなかった、六年一組の佐藤さんもいるし。五年二組の子もいる。

 三年生と四年生にいたっては、なぜだかすっごく楽しそう。

「うわー! たくさん来てる!」

 そう言いながら走ってきたのは野中先パイ。

 野中先パイはすっごく興奮気味。

 去年も全然人が来なかったって言ってたし、みんなが来てくれて嬉しいんだろう。

「汐里ちゃん、帆崎くん、ありがとうね! 二人が色々提案してくれたおかげで、こんなに集まったよ!」

「あのう、先パイ、それなんですけど」

「うん?」

「……なんでみんなが来てくれたのか、私たち、よくわかんなくて……」

 私がそう言うと、野中先パイはぽかんとした。

 こんなこと考えてる私たちのほうがおかしいのかな。でも、気になるんだもん。

 これで理由がわかったら、今後の美化委員の活動で参考にできるかも。

 すると突然、野中先パイは笑いだした。

「アハハッ! じゃあ聞いてくるね」

「えっ!? いや、そこまでしなくても……」

「ねえ君たち、今日はなんで来てくれたの?」

 私が止めてもおかまいなしに野中先パイは三年生の子に話しかけた。

「掃除ちゃんとやったら水ぬくんでしょ? お宝出てくるかもしれないじゃん」

「変な生き物いるかも!」

 そっか、そもそも池の掃除は五年生からだから、下の学年の子たちは単純にやってみたかったのか。

 じゃあ、それより上の学年の子たちは……。

 下の学年の子がきゃあきゃあハシャいでいる間、六年一組の佐藤さんがこちらに近寄ってきて、私は思わず身がまえた。

 六年生でまともに話せるのは野中先パイだけだから、キンチョーする……。

「あの、船橋さんと、帆崎くん? だよね?」

「は、はい……な、なんですか?」

「ごめんなさい」

「……へ?」

 佐藤さんは私たちに向かってぺこりと頭を下げた。

「先週の金曜日、サボっちゃって」

「あ、ああー」

「私ね、正直言うと、美化委員やりたくなかったの。なのに、今まで一度も委員になったことがないって理由で、先生に指名されちゃって」

「えっ! 私と一緒ですね!」

 思わず前のめりになった。

 佐藤さんも私と一緒で、先生に決められちゃったんだ!

 私の返事を想像していなかったのか、佐藤さんはおどろいたように私を見る。

 洋治くんがこちらをじっと見ているので、気まずくて頬をかいた。

「私、委員を決める日に風邪で休んじゃって。その間に、去年も美化委員だったからって理由で、勝手に決められちゃったんです。でも、なったからには、ちゃんとやらなきゃいけないって、帆崎くんを見てて思ったんです」

「フフ。私もね、二人や野中くんを見ててそう思ったの。がんばろうね」

「はい!」

 佐藤さんは小さく手をふると、野中先パイの方へ歩いて行った。

「ね、聞いた!? 私たちと野中先パイを見て来てくれたんだって!」

「聞いていた。だから俺は言ったんだ」

「へ? なんか言ってたっけ……?」

「おまえが最初のペンギンだって」

「あー……ドジって美化委員になったってイミでしょ。わかってるよー」

 私は口をとがらせた。

「よーし、集まったなー!」堀口先生の声にみんながそちらに行く。

 私も堀口先生の声がよく聞こえるよう、みんなにまざった。

「――……わかってねー」

「え? なんか言った? 洋治くんもこっち来なよ」

「ハイハイ」って言いながら洋治くんがのんびりとやってくる。

 今の態度、ちょっと生意気で弟の旭そっくりだなって思った。


「おおーっ、けっこう来たな! ほとんど全員来てくれたんじゃないか?」

 堀口先生が私たちを見わたして、カラカラと笑った。

 まさかこんなに来てくれるなんて!

 先生が言っていた十六って人数を、確実にこえるくらいの人が来ている。

 最初は私と洋治くんしかいなくて途方に暮れてたのに。嬉しいな。

 と言っても、私は大したことをしていない。

 ほとんど洋治くんと野中先パイが中心になって動いてくれたんだ。

 でも、やっぱりうれしいものはうれしい。

「じゃ、事前に言ったとおりに頼むなー」

 はーい、と元気よく声が上がった。

 まずは、池の周りのお掃除だ。

「五年と六年はこっちに集まってー!」

 野中先パイがそう言って手をふった。

 そこには大小様々な道具が並んでいる。

 五年生と六年生は、カマやハサミを使って、雑草を刈り取ることになっている。

 それから、ベンチのヤスリがけと塗装。

 ちなみに三年生と四年生は、軍手をはめてゴミ拾いや雑草抜き。

 池の周りには一応石だたみの道があるんだけど、石畳の間から草がぼーぼーに生えていて、どこから飛んできたのかゴミも少し落ちている。

 そこにケガレ鬼が寄ってきて大変なことに……。

 ただでさえ、池そのものがケガレ鬼まみれでほとんど見えていないのに。

 意気ごんだはいいものの、いざこのケガレ鬼のカタマリを見ると、やっぱりちょっと腰が引けちゃう。

「為せば成る、成さねば成らぬ、何事も。って言ってたろ」

 洋治くんがそう言ってひょいと軍手をわたしてきた。

「それ野中先パイが言ってたやつ。どういうイミだっけ」

「どんなにできそうにないことでも、ちゃんとがんばればできるってイミ」

「で、できるかなぁ……いっぱいいるよ、ケガレ鬼……」

「ケガレ鬼を退治する方法、もう忘れたのか?」

「……『不浄』を、キレイにする」

「そうだ。やるぞ」

「う、うん!」

 洋治くんのまっすぐな言葉に背中を押されて、私は手わたされた軍手をはめた。

 低木の周りの草を全部刈れって言われていたので、いざ、カマを持って草を刈る。

 膝丈くらいにまで草が生えていて、いったいどれだけの間手入れされてなかったんだろうって、なんだかさみしく思えた。

 それにしても、自然の力ってすごいなぁ。

 私は三年生の時に、植物が好きだから美化委員になった。

 家の庭の手入れもしているから、ちょっとは植物のことがわかるつもり。

 園芸用のお花は、カチカチの地面に種をまいても育ってくれないことが多い。

 だから土をフカフカにしてあげなきゃいけないんだけど……。

 雑草はそんなことお構いなし。

 コンクリートのヒビの間からだって生えてくる。

 雑草って言われてこうやって邪魔モノ扱いされちゃうことも多いけど、それでもやっぱり私は植物が好きだなぁ。

(ぬいた植物、あとでコンポストに入れていいか聞いてみよう)

 コンポストっていうのは、生ゴミなんかを専用の箱に入れ、発酵と熟成をさせて肥料を作ることなんだ。

 わだつみ小学校では毎年落ち葉で肥料を作っているから、これも役に立つかも。

 花壇や温室、理科の授業で使う畑にも使えるよね。

(……そういえば、雑草って自然のものだよね? なのに……)

 周りを見ると、雑草にもケガレ鬼がくっついている。

 さすがにこんなにたくさんいると、なんだか慣れちゃった……。

 さわるとグチャッとして気持ち悪いけど、手にはくっつかないし、ニオイもしない。

(木やお花にはケガレ鬼がついていない。どうして?)

 池の周りに生えている低木や、学校の花壇にはケガレ鬼がいなかった。

 花壇はキレイに手入れされてるかなと思ったけど、低木は枝も伸びっぱなし。

 雑草と低木や花壇、いったいなにが違うんだろう。

「ねえ、洋治くん――」

 顔を上げて洋治くんの方を見る。

 洋治くんは夢中で、猛スピードで草を刈りながら、他の美化委員の子にコツを教えたりしていた。

(あんな急いでやって、ケガしなきゃいいけど……)

 そんな考えが頭に浮かんで、ケガレ鬼のことはすっかり頭からぬけ落ちてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る