山奥にある祖父の家、居候として暮らす自称天狗の少年と、その彼と仲良くなった『俺』の物語。
静謐な雰囲気が魅力の現代ファンタジーです。
タイトルや紹介文のイメージから、なんとなく、
「爽やか田舎の夏、そこで出会った天狗の少年との友情物語」
といった物語を想像してしまったのですけれど、とてもそんなものではありませんでした。
いや、正確には「確かにそうだけどそうじゃなかった」という感じ。
つらく切ない物語に打ちのめされます。
主人公の身の上がこう、とにかく大変で……。
最初のうちはそこまでとは思わなかったんですけど。でも終盤まで読んでいくと、彼の身の回りの環境や運命の、それらのひとつひとつが小さくもしっかり詰んでいるような印象。
なんというか、彼の人生に対してつい、
「本編に書かれてない部分でもっと良いことがあってくれ……」
と願ってしまいました。だってこんなの、あまりにも……。
最後はもう言葉にできません。
ハッピーエンド、とは呼びたくないんですけど、でも仮に彼自身がそれを幸せな終わりだと思うのであれば、もう外野の自分としては何も言わずに頷くしかない終着点。
とにかく引き込まれた物語でした。泣いてしまう……。