第7話 私はヤられる前にヒロイン様をヤル。

「ご……、めんな、さい、わ…ったしが、うそを……全部、……うっ、そなんです……」


 ナーシャはもう、自分がしてきたことをアリシアに全て話し、許しを請うしかなかった。もはや、周囲の者達のことなどどうでもいい。自分の醜い側面がバレたとしても助かるならそれでいいと。


「……すべて、アリシア、様に、暴言や、傷を負わされた、……こと、も。すべて、……うそ、です、ぜんぶ、わたしが……したんで、す」


 ナーシャは助かりたかった。死にたくない、死にたくない。必死にアリシアにすがっていた。ただ見守るしかできなかったフルボック達は彼女の言葉を聞いて驚いた。


「そ、そんな、嘘だといってくれ、なぁ、ナーシャ?」


 嘘? その言葉に異常に反応をしめしてしまうナーシャ、それもそうだ、これ以上、この化け物に嘘をついたら、自分がどうなるのか、わからない。だから、


「嘘じゃない!、嘘じゃない!、わたしが彼らに好きになってほしくて、やったんです。本当なんです! だから、だから、嘘じゃない、あの書類も皆が証言したものも、わたし、わかってて、利用したんです、すべて嘘、嘘だから」


 これ以上、アリシアに不況を買うものなら、耳や手首だけじゃない、どこを斬られるか、分からない。下手をするとそこに転がってるササレタと同じようになってしまう。


 アリシアは、ヤッたことを素直に話したナーシャに、喜びを感じた。


「彼女は素晴らしいでしょう、本当にすごいです。【シナリオ】に忠実にミスもなくここまで再現させて私をヤろうとしたんですよ?」


 アリシアは座り込むナーシャの側によって、ポンポンと肩を叩く。


「それで、ナーシャ様、王子達をどのようにして、篭絡したのですか? たしかにあなたは、可愛らしい容姿をしていますが、それほどでもありません。さぁ、どのようにしてヤったのですか?」


 ほらほら言ってと言わんばかりにまるで親友でもあるかのように、からかってはいるが、ナーシャの肩をゆっくりとだが、強く握りしめていた。


「いぎゃああああ!! 痛い、やめて、やめて、私には前世の記憶があって、知ってるんです」


「なるほど、前世の記憶があるのですか?」


「そ、そんなんです、この世界は小説の世界なんです。だから、私は彼らのことを知っているんです。だから、わたしは」


「なるほど、なるほど、分かりました、ナーシャ様、ありがとうございます、もう、満足しました」


 彼女は理解してくれた。ほっとした気持ちになったナーシャだった。そんなナーシャをアリシアはまるで女神のように微笑んだ。追い詰められていたナーシャはこれで私は助かる、許してくれると思った。


 だが、アリシアは、


「え?」


 ナーシャは理解できなかった。なぜ、どうして、全て話した。彼女は怒っていない、だから、アリシアはナーシャを許してくれた。だけど、ナーシャは今、殺されようとしている。必死にあやまって、ごめんなさいしたのに、


 今、ナーシャの心臓に包丁が突き刺さっている。


 恐怖が広がってくる。耳をそがれ、手首を切り落とされたときよりも、そして、自分もササレタのように、死ぬ?


 ナーシャの意識は遠くなっていく。死にたくない。死にたくない。助けて、お願い、神様、お母さん、お父さん、お願い、たすけて、死にたくない。ナーシャが絶望し、最期にみたのは、


「ぷぷっ、ざまぁ、ヤられちゃいましたね」

 

 ナーシャを見下ろしながら嘲笑うアリシアだった。


 そして、引き続き舞台はかわる。


「ナーシャ様、ざまぁな演出ありがとうございました」


 アリシアはとても嬉しそうに微笑んでいた。この化け物がまるで女神でもあるかのように美しくみえた。だが誰もがそのような事を口にすることはなかった。


 目の前で行われた殺戮ショー、転がる二人の死体、そして少女があまりにも無惨に殺されたのだ。この場のだれもが、言葉を出すことが出来ない。この異常な光景を見て、すでに思考がストップしている。


 それを実行した化け物は無邪気に嬉しそうにしているのだ。その笑顔が焼き付いて離れなくなっていた。まるで頭に刷り込まれてしまったかのように、忘れたくても忘れられないのだ。


 フルボック達は呆然としたまま動かなくなった。今の状況を把握することができない。先ほど彼らの愛する少女がこの元婚約者だった化け物に見るも無残に殺されたのだ。怒りや妬みなどの負の感情をもって殺めたのではない。彼女が作り上げたショーのイベントによって殺されてしまったのだ。


 アリシアは人としての倫理が欠けている化け物なのだ。ナーシャを守ることができなかった。アリシアに奪われた、なのに、怒りが膨れ上がらない。自分たちの中にあった熱意というものが冷めてなくなってしまったのだ。


 アリシアをただ呆然と眺めていると、彼女は自分たちから視点をかえ、くるっと背を向けて大勢の観客のいる方へと向かい始めた。そして、大勢の観客に向けて、にこっと笑う。


「それでは皆さん、次はあなた達の番ですよ。さて、ヤりましょうか~♪」


 一本だった包丁が二本になり、アリシアの両手に握られていた。楽しそうに、楽しそうにしながら、つい先ほど、人殺しを行った化け物が彼らに近づいていくのだ。


 フルボック達はその様子をただ見つめることしかできなかった。片やアリシアに近寄られる貴族たちその他大勢の観客はただ、ひたすら恐怖していた。

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