第八話 独居
5月半ば、わたしは憤っていた。そしてそれ以上に落胆していた。
引っ越しをしたらお犬様をお迎えするという計画を立てていたものの、軒並みほぼすべてのところから『単身者不可』と突き返されていたのだ。
冷静に考えてみれば当たり前だった。
自宅を空ける間、誰が犬を見てあげられるのだろうか。
もし入院をしたら? 出張のときは? 帰省するときは??
常日頃より「動物をお迎えするということは」などと人間のエゴを諭すような発言をしつつも、他の誰よりも自分こそが甘い考えを以って事態に臨んでいた。そんな自分自身に憤ると同時に、単身者という無意識に目を背けていた己の立場を再認識させられた気分だった。
それだけではない。
『気楽な独り暮らし』という自己肯定で塗りつぶしてきたはずの、孤独感や虚しさたちが、干上がったダム底から顔を出す。
まさに堰を切ったように、感情が揺れ動いたのだ。
正直なところ、多少ダメージを受けた。
しかし、ネガティブに取り込まれてはいけない。
「いくつかの分岐では、確かに違う人生へ至る道もあったのだろうが……」
これまでの人生で訪れたifを振り返りつつも、巨匠のセリフが頭をよぎる。
≫人生で楽しいのは、常に「今」だな。
心の底から“その通りだ”と思えるには、まだまだ精進が足りない。
そんな反省をしつつ、今日もまたSUUMOの該当ページを眺めている。
つづく
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