第二話 年齢

毎日、しっかり眠っているはずなのに元気が出ない。

それもこれも週末に予約した内見のせいだろうと思う。


いつの時代も、逃がした魚はでかい。

ライバルに搔っ攫われた物件もなかなかに惜しい想いをすることが分かったものの、気落ちしている暇などない。



導かれるようにして『それ』を見つけたのは今週の始め頃だったが、いざ内見となると週末までお預け状態なのだ。これが非常に心に堪えるのである。というのも、その間にまたライバルが現れないとも限らないからだ。


「まだ火曜」

「やっと水曜」

「木曜……」


うわ言のように繰り返しつつ、カレンダーを眺める眼差しは虚ろ。こんなメンタルでは夜眠れたとしてもスッキリ目覚めるわけはない。


ここ最近、しきりに頭をよぎるのは10代から聴いていたムーンライダーズというバンドの『30(age)』というとても古い曲だ。


30歳の誕生日を迎える主人公が新しく部屋を借り、車を買って、そして当時はまだ高価だったビデオ(デッキ)も買い揃えて彼女が部屋に来るのを待つという内容で「俺も30歳になったらこういう生活が日常になるのかな」などと思い描いていた。


だが現実は違った。

30歳の誕生日は徹夜で仕事をしていたため、オフィスの床寝で朝を迎えたのだ。


40歳を過ぎて帝都を脱し某県へとやって来た。部屋も借りたし、車も買った。一人暮らしには少々広いところだが、今のところそのような女性がやってくる気配もない。


もっと言うと、ここ20年くらいプライベートで自分の誕生日を祝ったことがない。





つづく

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