第9話
世間では初々しい雰囲気が消えてきて次第に気温が上がり始める時期、窓が一か所段ボールが張られている教室に昨日までの淀んだ空気が嘘のような程透き通った世界が広がる。そんな日の昼休み、屋上で春風を感じながら、高校に入るときに親に買ってもらった平たい片手サイズの相棒とともに一人弁当を食べていた。
(見つけてしまったようだ、俺だけのための場所が。一人でこの広大なスペースを独り占めできてると考えると…素晴らしい!しかもここにきて気づいたことだが、ここにいるとなんか落ち着く。俺は決めた、これからはここで昼ご飯を食べることにしよう)
昼ご飯を食べ終わり屋上でしばらくの間暇をつぶした後、5時間目の準備をするために教室へ戻る途中で、金色の髪の毛をフワフワと舞わせながら、ある教室の前で壁に右手をついて背中を丸めている少女が見えた。その髪の毛の持ち主は間違いなく低血圧のお姫様だった。俺は次々に頭に浮かんでくる疑問を必死に押し殺しながら彼女の横を静かに通り過ぎた。気づかれてないと思ったその時、後方から弱弱しい声が聞こえた。
「ちょっと、そこの人…こっちに来てほしいんだけど…」
(やっぱり見つかってしまったか、俺が誰か気づかれる前にさっさと話し済ませて教室に戻ろう)
「本当に申し訳ないんだけど…私を背負って…保健室に連れて行って…お願いします…」
「わかりました」
下を向いている彼女の息は長距離を走った後と思えるほどに荒くなっていた。
色白で小柄な少女を背中に乗せながら次の授業に遅れることを確信して一歩ずつ足を踏み外さないように進んでいると少女が耳元で話し始めた。
「なんか、あなたに寄りかかっていると落ち着きます。何故でしょう、以前どこかでお会いしましたか」
「そんなことありえないですよ、気のせいじゃないですか」
「そうですよね、あり得ないですよね。変なこと聞いてすいませんでした」
保健室の前に着き脊中から少女を下ろそうと声をかけたが反応がなかった。そのまま保健室の中に入り、保健室の先生に彼女が低血圧であることを伝えて預けた。
教室に戻る階段の足取りはとても重かった。
学生にとって一日の中で最も嬉しいであろう時間がやってきた。教室の中に一つの合図が出るとともに秩序が無くなり、すぐに帰る人や教室の中でほかの人と喋る人、依然として勉強を続けている物好きなどまさに無法地帯だ。そんな無法地帯の中からいち早く抜け出そうと支度を済ませていると隣の席にいる栗原りんが人差し指でわき腹を突いてきた。
「私まだ部活入ってないからいろんな部活の見学に行きたいんですけど一緒に行きませんか」
(すぐに帰りたいんだがこの顔で言われて断れる男子がこの地球上に何人いるのだろうか、少なくとも俺には断る資格は無いだろうな)
「いいよ」
広い学校の中を二人で回りながら様々な部活を見学していた。今日やっている部活のほとんどを見て回り、次にどこに行くか二人で相談していた時、目の前の曲がり角から今にも消えてなくなってしまいそうなほどにフワフワした少女が出てきた。その少女の後ろからついてくる金髪は気配を消すのを一瞬遅らせ、そのせいですぐに見つかってしまった。
「え…あなたなんでこの学校にいるのよ、もしかしてあの時私のことを調べ上げて特定したの。気持ち悪いわね」
「俺はちゃんと勉強してこの学校に入ったんだ。それよりお前高校生じゃねぇか」
「それが何なのよ。関係ないでしょ」
「俺はお前が『ロリコン』って言ったのは忘れないからな」
「実際、私幼く見えるでしょ」
「確かにお前はガキみたいに見えるな。まぁ今はガキには用はないんだ、じゃあな」
「ちょっと待ちなさい、あなた今何してるのよ」
「部活を見て回ってるんだよ」
「そう、そういうこと」
金髪によってより白さが目立つ彼女がニヤッとした。
「あなた今どこの部活にも入ってないってことなのね」
「まぁ、そうだけど」
「じゃあ私の部活に入って」
「一応聞くけど何の部活だ」
「知らないわよ、これから作るんだから」
「え…どういうことだ」
「やっぱり知らないのね。まず、この学校がなんで部活動に入ってる人が多いいと思うかわかる」
「教師が必死に入れようとするから」
「確かにそれもあるけど、それだけじゃこんなに部活動に入ってる生徒は多くならない。ならどうしてこんなに多くの生徒が部活動をしているのか。それは、この学校は簡単に部活動が作れるからよ。あなたが侍らしてるその女の子と一緒に部活を作りましょ」
「まぁ、俺は構わないが…」
「そちらの子はどうかしら」
急に話を振られたことに焦ったのかしばらく間が開いた。
「あ…私はいいと思います…」
(前々から思っていたがこの子はかなり人見知りなんだろう)
「じゃああ明日の昼休みに集まってどんな部活にするか決めるわよ。いい」
その後俺たちは解散した。
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