第8話
耳栓から流れてくる湿った音を耳に通している。地面の上から桃色の水玉が消えかけてることに気づき、俺は内心『ざまぁみろ』と皮肉っていた。
「そういえばこの前学校の窓ガラスが割れたらしいよ」
「それ聞いた、意外とどの学校にも荒れてる部分って少しはあるのかな」
「そうかもしれないね。っていうかこの後の日本史面倒くさくない」
そんな会話が左の肩を叩かれるとともに後ろのげた箱から聞こえてきた。すると左側から気の強そうな声が聞こえた。
「高橋君」
左右であべこべな世界を聴きながら黙って会釈をした。再び自分の世界に統一しようとした俺に今浪先生は話しかけてきた。
「昨日の話は向井君から聞いたよ、君は本当にこれでよかったのか」
「しょうがないでしょクラスのみんながこれを望んでたんだから、先生は周りが笑顔で笑ってたら先生自身も幸せですよね」
「そうか、君がそう言うならきっとこれでよかったんだろう。一応私も教師だからな、昨日の件については知っておかなければならんのだ。何か言い忘れがあったらいつでも言ってくれ」
「わかりました、そうします」
今浪先生が去った後、周りを見ずにまっすぐ教室に向かうことにした。下駄箱から上がってくる人たちの視線を脊中で感じながら自分に与えられた教室にたどり着いた。
両手で数えられるほどの人数しか来てない教室の中は、席なんて言葉がこの世から消えたみたいに人が移動していて俺はその流れに逆らうように席に着いた。一つ息をついたその時、右の肩にやさしい衝撃が1度感じられた。そちらを見てみると、体をこちらに向け左手の人差し指を軽く曲げてこちらを指さす栗原りんの姿があった。両耳についている加湿器を取って彼女の声を聴いた。
「差し入れどうでしたか、お口に合いましたか」
「あぁ、妹が美味しそうに食べてたよ」
「そうですか、良かったです。ところで勝手にお礼としてお菓子を渡してしまいましたが他に何か考えていましたか」
(そういえばそんなことがあったな、いろんなことがありすぎて忘れてた。そうだ、ちょうどいいな、これにしよう)
「うちの妹と話してくれないか」
「え…わ、わかりました」
昨日の夜に妹が言っていたことを思い出した。
さっぱりとした醤油味のスープに絡みつく中太麺をどんぶり一杯食べ、食後にバニラアイスを頬張った。[美味しい]が腹の中を満たしたまま部屋の中で一人携帯でゲームをしていた。
「お兄ちゃん」
「なんだ結衣か」
「なんだとはなんだ失礼だねぇこの兄は」
「で、急に俺の部屋にきてどうしたんだ」
「久しぶりにお兄ちゃんと遊ぼうと思って来た」
「そーかそーか、また今度な」
「うわー冷たいな私の兄弟は、まぁまぁそんなこと言わないで私と一緒に遊ぼ」
(うわぁ、この感じは遊ばないとしつこく言ってくるやつだ。それより何でいきなり遊ぼうとしてくるんだよ、ここ何年もまったく一緒に遊ばなかったじゃん。本当にこいつわかんねぇ)
「遊ぶって言ったって何で遊ぶんだよ」
「それはね…これ!」
妹がポケットから取り出した手のひらサイズの透明なケースの中には、4種類の1から13までの数字が書かれた古典遊具が入っていた。
妹はカードを一枚ずつバラバラにまき散らしながら話しかけてきた。
「お兄ちゃん、服を貸した人ってもしかして仲良かったりする」
「仲がいいって訳じゃないけど一応隣の席だ」
「だよね良かったぁ、お兄ちゃんが入学早々に女の子と仲良くなるとかありえないもんね」
(こいつ俺をバカにしに来たのか)
「ところでお兄ちゃん、その人って家に呼ぶことできる」
「何でだ」
「あんな手紙を書くような人がお兄ちゃんのすぐそばにいるなんてすごいなぁって思ってね、一回お話してみたいんだよ」
「それわざわざ家に呼ぶ必要あるのか」
「お兄ちゃんは呼ばなくてもいいの…あっ、自分のコミュ力に自信がないのか、ならしょうがないなぁ。サイゼとかのお話しが一緒にできるところでいいよ」
神経衰弱の勝敗は全部妹が勝った。
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