第7話
手に持って帰ってきた紙袋を妹の部屋の前に置こうと持った時、ふと上に乗っていた可愛げの一切ない真っ白でどこでもすり抜けてしまうほどに薄い隔離箱に目が行った。何かに突き動かされる右手はゆっくりとそれを手に取った。隔離されたものを封を開けて中に入っている物もまたこちらを覗いていると、文字がぎっしりと詰まっている紙が複数枚見えた。何枚もある紙が二つのグループに分けられていて片方のグループは集団には混ざらないという強い反骨精神が感じ取れた。たった一枚だけ別になっている紙を取り出して文字を一文字ずつ丁寧に眺めた。
高橋真翔君へ
この前は私が道で転んだところを助けていただきありがとうございました。あの時、真翔君が通らなかったら私はそのまま学校に行こうとしてました。無理に学校に行こうとした私を止めてくれた真翔君にはとても感謝してます。きっとあのまま学校に行っていたら私は入学早々笑いものになっていました。本当にありがとうございます。
この袋の中に入ってるお菓子はお礼です。お口に合わなかったらすいません。そして、同じ封筒に入っているもう一組の手紙は妹さんにお願いします。
(いろいろ思うことはあるがまず…こんな名前だったんだな。人に簡単に名前を聞けない俺にとってこの情報はかなり助かるな。そして、先にこっちの手紙から見ておいて良かった、って言うか渡すときに言ってほしかったな…そうだ、このお菓子差し入れってことでリビングに持っていくか)
リビングの扉を開けた瞬間、沸騰しているお湯に冷水を入れたかのように静かになった。
「これ、差し入れ。二人で食べな」
軽いフットワークでこちらの方に妹が来た。
「何お兄ちゃんどうしたのこんなの持ってきて、もしかしてあの子狙ってるの。残念だったねお兄ちゃん、先にお兄ちゃんの悪いところ吹きこんでおいたから」
「違うよ、金曜日にお前の服を貸した人からのお返しだ。手紙と一緒に服を部屋の前に置いておくからな」
「わかった、じゃあばいばい」
勢いよく閉められたドアは思ったより丁寧に閉まった。
透き通った空にすずめの鳴き声があたり一帯を埋め尽くすほどに響いていた。布団とシーツに挟まれた暖かい魔境に心と体が完全に取り込まれてしまっている。意識が再び吸い込まれそうになる中、淡い女の声が耳に入ってきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、目覚ましが鳴ってるんだから早く起きてきなよ、テレビ見てるのにうるさいんだよ」
ベッドの横から的確に腹を狙ってバシバシと叩いてくるあたり、さすが俺の妹と言わざる負えない。
「わかっt…起きる…だから叩くn…」
「じゃあ早く起きてきて、お兄ちゃん」
その言葉と同時に妹の猛攻撃は落ち着き、魔境をすべて破壊した後にリビングへ戻っていった。
静かにリビングの扉を開けて中に入った。机の上にはあの伝説の白米と漬物のコンビが鎮座していてその隣に卵焼きが堂々と並んでいた。魔境とは違う別の種類の引力に引かれて席に着き、朝ごはんを食べ始める。止まらない箸を無理やり止めるようにして妹が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、結局昨日は何があったのさ、私に話してみな」
(やっぱりそうだよな)
「昨日もらってきた差し入れのお菓子なんだがな、実はあまり好みじゃないやつだったんだよ。でも、結衣たちが美味しそうにしてくれてたから良かったよ」
一瞬間が開いた。
「なんだそんなことか、私も心配してなんか損したよ。まぁなんかあったら言えるときに言ってね」
「あぁ、そうするよ」
時間の流れは曇りのない春らしい空気に浄化しているらしい。
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