第2話

黒い雲が見渡す限りの空を覆う日、大通りの見える人気のない横道を使って登校していた時に前方で倒れている人を見つけた。前日に降った雨で道には斑点模様のように水溜りができていたためその人は大変汚れていた。


(俺は基本面倒ごとは避けたい人間だと思ってる、だが、このまま前に進めば間違いなく面倒なことになる。ここは一旦来た道を引き返して別の道を使う方が得策だな)


後ろに体を向けようとしたとき偶然と倒れている人が起き上がり目が合ってしまった。真翔はため息を一つついた。


「大丈夫ですか、お怪我はありませんか」


「あっ…はい大丈夫です。ありがとうございます。」


近寄って見えた顔は、入学当日に三回謝罪をしてきた少女で間違いなかった。


 (俺は何をしてるんだろう、今まで俺が人を家に呼んだことなんて人生で一度もなかったのに、学校でちょっとぶつかっただけの人を簡単に家に上げてしまうなんて、おかげで入学してすぐに皆勤賞はなくなったよ。まぁしょうがないな、今のうちに服用意しとくか)


 妹の部屋に侵入し適当な服を選ぶ姿はまさに変態に見えるだろう。完全犯罪とはこういうことを言うのだと身をもって実感した。


 ゆで卵のように張りのある肌をこれでもかと見せつけながら妹の服を着て俺の前に現れた少女は、季節外れの天の川を頭になびかせ床を見ながら感謝した。


「ありがとうございます…お風呂だけでなく服までも貸してもらえるなんて申し訳ないです。あの…もしよかったら…あの……何かお礼をさせてください」


(この子は今自分で何を言ってるのかしっかりと認識できているんだろうか。これがもし俺じゃなかったらどんな事されてたかわからないぞ、いや、別に変なことなんて考えてないし、俺だって理性のある人間だし、大丈夫だ落ち着け俺)


「急には思いつかないから思いついたらその時に伝える」


この時の自分に盛大な賞賛を送りたい。


 その後、少女は学校に欠席の連絡を入れて自宅へと足を運び、俺は再びあの道を通り学校へ向かった。雲の色が少し薄くなってる気がした。



「遅刻の理由を教えてくれるか」


「人助けです…」


「わかった、席に着け」


ちょうど三時間目が始まる時間、教室の中で注目を集めながら俺は席に着いた。なんだか今日の教室はぱっとしない、何かが起こる前触れのようにも感じられた。


 四時間目の数学の時間が終わり学校全体に穏やかな時間が訪れる。親が作ってくれた弁当をいつもと変わらずに自分の机の上で一人食べる。今日は一段と独りを感じた。


 ほとんどの人が昼ご飯を終えて活発に活動し始める昼休み後半、俺はいつも通り一人携帯を触っていると、教室の窓側後ろが何やら騒がしい、横目で様子を伺うと会話が何かのスポーツのように白熱してしまっていた。どうやら二人で対戦していたゲームで邪魔が入ったという趣旨の会話をしてるらしい。


「最初に一回だけって言ってたじゃんいい加減にしなよ」


「何言ってんだよ、お前も見ただろ対戦中に俺の携帯が手から落ちたのを、あんなのは無効試合だ、もう一回やるぞそしたら必ず俺の方が強いって証明できる」


「手から携帯が落ちたことも含めて実力、運が君にはなかったんだよ、君は弱かったの」


しばらくの間口論が続きそろそろ誰か止めに入ると思っていた時『ふざけんなよ』という怒号とともにガラスの割れた音が教室中に鳴り響き、一瞬にして静まり返った教室の中には隣のクラスのいつもと変わらない賑やかな会話が聞こえてきた。


 しばらくして今浪先生が教室に駆け付け事態の収拾を図り何事もなかったかのように皆五時間目の体育に向かっていった。


 更衣室に向かっている途中に保健室の中から顔立ちがとても整っている比較的脊の高い優しそうな男と何もかもが平均的な陽キャっぽい男が出た来た。平均的な男の左腕には白い布が何重にも巻かれているののをイケメンの男が心配そうに眺めていた。その光景を眺めていると包帯を左腕に巻いた中二病らしき男が話しかけてきた。


「ガラスが割れたのってうちのクラスだよな、だれが割ったかわかるか、もしかしてお前じゃないよな」


「俺じゃないよ、割ったの男子だよ、名前はわからない」


俺から話を聞いた中二病は早歩きで更衣室の方へと消えていった。後を追うようにして俺も体育館に向かった。


 静かな体育は俺たちのクラスに湿った空気を運んできた。

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