cross again
シュソア
第1話
イヤホンから聴こえてくる潤った歌声が耳を満たしている。周りの視線の先にはきれいな桜の花が舞っていて、まるでこの俺を皮肉っているようだった。
「この学校綺麗だね」
「そうだね、私たちのいた学校とは大違いだよ」
「あの学校が汚かっただけだよ。あっ!そういえばあとで体育館だよね」
そんな会話が高積雲のような柔らかい香りに包まれるとともに後ろのげた箱から聞こえてきた。すると右側から少しおびえたような声が聞こえた。
「あの…すいません」
左右であべこべな世界を聴きながら黙って会釈をした。そして再び自分の世界に一つになった。
周りを見渡し人がたくさんいる壁際の方に進み名前が書いてある張り紙を眺め”高橋
丁寧に50音順に並べられた名前に従って皆席に着いているのを真似して俺も席に着いた。一息ついたその時、右の肩にやさしい衝撃が1度感じられた。そちらを見てみると、体をこちらに向け左手の人差し指を軽く曲げてこちらを指さす少女の姿があった。口をパクパクさせている彼女を見て俺は慌てて携帯の電源を切って両耳についている耳栓を取った。
「ごめn…聞こえなかっt…」
「あっ…すいません、何でもないです」
(いったい何だったんだろうか、いやがらせなのかそれとも何かの罰ゲームなのか、それにしても久しぶりにこんな体験をしたような気がする、しかも星空に浮かぶ真ん丸な月のようにきれいな人だった。もう二度とこんな機会は無いだろう。)
しばらく教室の中で待っていると明らかに制服ではない服を着ている人が教卓に立ち、偉そうに話し始めた。
「新入生の皆さん、初めまして私の名前は”今浪
今までなるべく教室にいないようにすることが多かった俺は、いち早く体育館へ向かった。道中今浪先生の声が聞こえた。
「あぁ、昨日は久しぶりに一瓶全部空にしてしまってな、まだ頭が痛いよ」
体育館には一面ブルーシートが敷かれていてその上に何百というイスが規則的に並べられていた。偉そうに指示を出す大人に従い学生は席に着いていく。
(正直式典は退屈だ。いったい俺以外の生徒は入学早々勝手に振り回されて何を考えているのだろうか。周りの表情を見る感じまゆ一つ動かさず静かに座っている。何とも思っていないのだろうか。だが、人は表で平然としていてもそれは本心とは違う、裏では何を考えてるかわからないものだ。だからこんなことを考えるのはやめよう。)
式が進む途中前の人が定期的に頷いてるのが見えた。きっと先ほどの問いの答えは『何も考えてない』が正解なんだろう。
「これから皆さんに何枚かプリントを配った後少し連絡をして解散にします。」
体育館から戻ったら早速今浪先生が話し始めた。連絡の内容は日直がどうとかこれからの授業がこうだのというどうでもいいようなものだった。
帰り際自分のげた箱の前で柔らかい香りがして左を見たら、満月のようにきれいな今朝の少女と目が合った。今朝はうつ向いていてよくわからなかったがよく見てみると隣の席の人だった。
「あっ…あの…今朝はぶつかってしまいすいませんでした。」
そう言うと彼女は走って帰ってしまった。
俺は乾いた耳を潤し別世界へと旅をした。
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