3-11:探偵ごっこ
「好きです」
俺が呼び出した彼女は開口一番唱えるようにそう言った。
「だから殺したの?」
俺はまるで妹と話す時のように興味無いけど真剣に話しているような口調で淡々と聞いてみた。
彼女は何も言わなかった。
「なんで、殺したの───メルちゃん」
にやり、と不敵にメイちゃんは笑った。幼い子供とは思えないような不敵で不気味な笑み。
「アリスさんをどうやってあの敷地の中心で殺すか。君の小さい身長だったらウェディングドレスのスカートの中に入れる。自分は不遇な扱いを受けているからアウトドアウェディングのセットを見たいけど親が自由に動き回らせてくれないなんてことをアリスさんに言えばお人好しのアリスさんはそんな案を思いつくだろう、いや、君が提案したのか。ウェディングドレスのスカートの中に隠れて敷地の中心に移動。それからアリスさんを殺害する───腹を裂いて内蔵を出して」
メルちゃんは一言も喋らない。黙って俺の話に嫌な顔せず耳を傾ける。
「でもそこからどこに隠れればいいのか。アラスタル邸に帰ろうとしても敷地を出ようとしてもモニジンに見つかってしまう。じゃあその場に留まるしかないんだけど、アリスさんが殺された現場に君はいなかった。まあ実際いたんだけど───」
「アリスさんの体の中に隠れて」
「内蔵をくり抜くような真似をしたのはそのためだよねエルザさんは───」
泥棒が言っていたことをメルちゃんに話す。 その間もメルちゃんは相槌なんて打たずに、俺の目をじっと見ていた。
「俺が初日に来た時ぶつかったよね。あの時、走ってたでしょ?───イルさんに罪を擦り付けるための糸を2階にセットしておくために」
話し終わって1分程度沈黙が続いてようやくメルちゃんが口を開いた。
「正解です」
「なんで、そんなことしたの?」
「あなたが好きだからです。女の人なんて、みんな殺そうと思って」
「生憎だけど年下は好きじゃないんだよ、妹と比べちゃって」
「シスコンなんですね」
「それも重度のね」
先に動いたのはメルちゃんだった。身長が小さいため、ジャンプして首元を狙った斬撃。刃渡り5センチ程のナイフが空を斬る。
俺はなんとか後退してその斬撃を躱すが、休む暇もなく斬撃が飛んでくる。
『時止め』はレットの『特別な呪文』を1日かけて作り、使ったものなのであれ以降使えない。
ならば───
「───
催眠で逃げてあのメイドさん達に頼れば───
「ふふっ、ききませんよ。私は《操魔力体》を作るにおいてのいわゆる失敗作。姉さんはあらゆる力の流れを変えることが出来ますが、私は私の身体の中の力しか変えることが出来ません。でも催眠の場合私にかかる魔法なので私でも魔力を操作することが出来ます」
デバフ無効ってことか───
ならば!
「───
そう唱えた瞬間、腹に衝撃。思わず「ごふっ」なんて不細工な声が漏れてしまう。
「やだなあ、好きな人を見逃すわけないじゃないですか」
そうか、『透明化』は目を凝らしたら見える程度のもの。焦点をずらさないと意味ないんだった。
2階東館の奥。
これ以上後退することは出来ない。
「これをなんていうんでしたっけ!そだ!ばんじきゅーすだっけ!」
わざと子供の口調を演じてメルちゃんは話しかけてくる。
───俺は走った。
東館の突き当たりにある窓めがけて。それは別に俺がメル・ミーシアに殺されるんだったら自殺してやろうというわけじゃない。
その窓めがけて飛び込む。
俺の体重が窓をバリバリと音を立てながら割っていく。
先にあるのは落下。
だが、着地地点は敷地の池。
ぼちゃん、と池の中にダイブする。続けてメルちゃんも飛び込んできた。
「どうしたんだい?池に飛び込むなんて。まだそんな季節じゃあないと思うよ」
そう言って泥棒が手を差し伸べてきたので捕まると泥棒は勢いよく手を引っ張って俺を池から引き上げた。
「まあ君は行きなよ、私がこの子の相手をしておいてあげるからさ」
◇
こうして、殺人事件は幕を閉じた。結局、あの泥棒とメルちゃんはあれから行方がわからなくなっているけれど。
「色々、ありがとうございました」
「ああ、ありがとう。色々と」
エリアさんは気が気じゃないらしく、テリアが送り出してくれて俺とメイとクロネは屋敷を後にした。イリアスはあの泥棒について調べることがあるとかで少し残っていくそうだ。
「次は獣人の国、ビスタイオンに向かう。そこでプリンと待ち合わせしてるから。」
「楽しみです」
「アリステルの方は大丈夫なのかよ」
「落ち着いてきたみたいですよ。アラスタルみたいな分家も協力してるらしいですし、絶対王政のような前の王よりも国民の指示は高いと言っていいくらいです」
やっぱり性格もあってのことだ。信頼と支持を得ているのなら俺もアリステルに近々帰れそうだ。
というより・・・
獣人の国!?
獣耳っ娘───
なんだその楽園は。昨日まで泥棒やら殺人鬼なんかとやり合ってたからなあ。
結局あの泥棒に悠久の宝石とやらを渡してない。咄嗟に嘘をついたけど大丈夫だったのだろうか。
殺人犯に関しては、動悸が俺のこと好きだからっておかしくないか?俺の周りの女性を殺すって考えたくはないが、だったら隣にいるメイとクロネを真っ先に殺すはずだ。
色々、おかしな2人だった。今も行方不明らしいし。
ん?となると殺された人たちの共通点───アラスタル家の人ってくらいか。
俺達は中立国セリメントルの繁華街を歩いていた。
繁華街だ、似てる人の1人や2人はいるだろう。俺は目が悪くはないが、いいとも言えないそうだ人違いだ。だって
すれ違ったんだ。
死んだはずのアリス・アラスタルとエル・ミーシアが1人の子供と手を繋いでいる幸せな家族と。
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